再会は感動的に
グレーのロングワンピースに、白いフリフリのロングエプロン。
前の時の様に、しっかり髪をアップにあげ、白いフリルの髪留めを付けるも、前の時と違い髪が長くなっていて、うまく止まらなかった。
なので、編み込みにした。
おさげのメイドがいたから、大丈夫なはず。
私は、持ってきた荷物から、クレシダの為にと用意した物を取り出す。
鞄を閉じ、クローゼットに置き、部屋を出る。
荷物を解き、クローゼットの中のタンスや、ハンガーを利用しようとは思わなかった。
気持ちだけでも、すぐに出れる状態でありたかったからだ。
「さて・・・行こう。」
私は、自分に鼓舞するように言う。
なんたって、部屋を出次第駆け足なのだから・・・。
そして、私は厨房へと行く。
「は~・・・はぁ~・・・」
交換島へ行った時に、新婚生活は体力が勝負と、ルイーズさんが言っていたけど・・・今も、充分に必要です。
「サーシャさ・・ま」
厨房の人が嬉しそうに駆け付けようと、こちらに体を向けるも、すぐにその場でお辞儀をする。
・・・ヘンリー様と婚約したことで、こんな態度を取られるとはな~。
「ルベライト公爵家は、領民と隔たりがあまりありません。ですので、そのような態度はやめて頂きたい。皆さんに会えてうれしいと、お互いに感じあいたいですから。」
私は、満面の笑みを見せる。
すると、『会いたかった。』とか『嬉しいです。』の他に『婚約おめでとう』という言葉もかけてくれた。
「皆さん、食事はどうしていますか?」
と、尋ねると、採れている人と、そうでない人がいた。
深夜に働いている人数も、日中と変わらない人数を回しているため、人手が足ないことで、そのような現象が起きていると説明をしてくれた。
「片手で食べられる物を作りましょう。」
私は、腕まくりをする。
「クレシダの料理にもひと手間を加えたいのだけどいい?」
私の何気ない一言で、厨房の雰囲気がかわった。
教えてオーラが漂う空間となったのだ。
私は、持ってきた瓶を取り出す。
中には梅干しが入っている。
疲労回復に、うってつけの物。
クレシダの為に持ってきたのだが、今はこの屋敷の人たちも必要だ。
私は、梅干しから種を取り細かく刻み梅肉を作る。
後は、ご飯と混ぜておにぎりにでも・・・?
「ねえ、その手に持っている物って!!」
私は、コックの手に持ってる物を指さす。
「・・・海苔ですが。」
素敵だわ!!
私は、海苔を持っている腕を掴む。
「是非、使わしてください!」
おにぎりやめて、太巻きに変更よ。
梅だけでなくお酢も疲労回復になる。
それに、他の具材も巻くことになるから、バランスのいい食事が作れる。
そうか、ここはダンビュライト領内だった。
クリスティーナ様が故郷の海苔を広めてくれたおかげで、マブ・ラリマー邸の過労死メーターが抑えられそうです。
私は、酢飯に梅肉を加える。
厚焼き玉子と、豚の生姜焼き、きんぴらごぼうを作り、それらを海苔で巻く。
太巻きを一口大に切り完成。
一人で、何回も巻くのも大変なので、皆さんにも手伝って貰ったのは、言うまでもない。
そして、次はクレシダの食事だ。
焼きおにぎりを入れる出汁スープに梅肉を少し入れる。
気に入ってくれるといいが・・・。
私は、梅肉入りの焼きおにぎり風雑炊を持って行く。
流石に料理を持っては、走れないが、早歩きとなっているのは、言うまでもない。
クレシダのいるドラゴンの部屋へと入る。
そこには、全体的に日焼けした胸板が厚い男性が、数人の使用人の他にいた。茶色に近いブロンドの少し癖っけの髪。
「本当にきれいな紫色の瞳だな。オレはチェスター・メシャム。白き傭兵団の団長をしている。ケートはオレの姉だ。」
その人は、自己紹介をしてくれた。
なるほど、髪の色それに青緑色の瞳も似ている。
「サーシャ・トラバイトです。」
すぐに私も自己紹介をする。
”キュッキーキャッ”
クレシダが、こちらにやってくる。
このパターン・・・ヤバイ。
「クレシダ待って!!」
クレシダが、勢いよく私に飛びかかるのを、スローモーションで感じていた。
手には、クレシダの食事を持っている・・・頭の上に持って・・行くしか・・・ない。
”ドカッ ガシッ”
私は倒れ込む。
手に持っていた食事は?
「・・・間一髪だったな。」
チェスターさんの手に、クレシダの食事が渡っていた。
”キーッキキャッ”
クレシダは、私の顔舐めまわす。
「クレ・・クレシダ・・わかったから・・・私も・・会いたかったから・・・。」
私は、髪をアップにしてなくて良かったとも思った。
もし、アップにしていたら、頭を陥没なんてことが、起きていたかもしれないな。
そう思いながら、クレシダの熱烈な歓迎をうけるのだった。