マブ・ラリマー邸
”バタバタバタ”
”ドタドタドタ”
まさに、呆気・・・です。
使用人たちが、駆け足で仕事をしている。
誰一人、歩いている人がいないよ。
ここって運動グランド?
というか、前世のテレビで見た・・・。
「・・・戦場だな。」
ヘンリー様、ありがとうございます。
まさに、戦場です。
皆さんの目も血走っているのです。
そして、この駆け足をはぶき考えると、思い浮かぶは、懐かしの光景。
そう、クローライト公爵家に来たての光景なのである。
・・・・過労死。
懐かしのフレーズが、私の脳裏によみがえる。
「サーシャさん!!」
駆けつけてきたのはケートさんだった。
私を抱きしめて、会えた事を喜んでくれた。
「皆~、サーシャさんが来たわよ~!!」
ケートさんが大声で叫ぶように言う。
すると、援軍を喜ぶ歓声が聞こえた。
・・・戦場だ。
「ケートさん、その髪の毛!?」
ケートさんの髪は、ポニーテールに結っていたが、頭部側は、茶色に近いブロンド色で、垂れ下がっている方は白髪だった。
「どうかしら、クレシダが生まれ変わって、ナイジェルと再び絆を結んだ証よ。」
ナイジェルさんは、とっくに髪を切ったようだが、ケートさんはクレシダが生まれ変わった喜びを忘れたくなく伸ばしていると言った。
「クレシダが、初の脱皮で皮膚の炎症が良くなるまでは、伸ばすつもりよ。その様になるよう、今は・・・頑張っているわ。」
ケートさんは途中から真剣な目で言う。
その目の下にはくっきりとクマが出来ている。
「ヘンリー様・・お願いがあります。」
私は、ヘンリー様のもとへと行く。
「すみません。陛下への手紙の他にも、王宮のクローライトの屋敷にも手紙を書きますので、届けて頂けないでしょうか?」
ヘンリー様は、すぐに了承してくれた。
私は、鞄のなかから便箋を取り出し、鞄の上で手紙をすぐに書く。
そして、封筒へ入れると、ヘンリー様に渡す。
「お願いします。」
ヘンリー様は、わかったと言ってくれた。
ヘンリー様と目が合った。
・・・目が反らせないでいる。
反らしたら、その時点から、別行動になる。
・・・ヘンリー様を待たせる事になる。
瞬きも・・切なくなる。
「・・・サーシャ。」
ヘンリー様は私の頬に手を添える。
そして、私の目元を指で拭う。
・・・涙が、出ていたんだ。
私は、ヘンリー様の脇らへんの布を掴む。
「・・・行ってきます。」
そう言い。私はヘンリー様にキスをする。
「ああ・・・。」
ヘンリー様からもキスをしてくれ。
そして、目が離れ・・・手が離れ・・・ヘンリー様も離れて行った。
”バターンッ”
玄関の扉が重々しく閉まる。
私は、目を瞑り、そして目を再び開け、後ろを振り向く。
「私に出来る事ありますか?」
真剣な眼差しで、ケートさんを見る。
ケートさんは、一瞬申し訳ない顔をしたが、すぐに真剣な眼差しとなる。
「サーシャさんが、元々使用してた部屋を使って、そこに着替えが用意してあるわ。メイドの格好で申し訳ないけど、それに着替えてきて。」
私は『わかりました。』と、言い。
郷に従い、走ってその部屋へと向かった。