父は、奮闘の旅をする。
サーシャが、マブ・ラリマー邸に行くため、クローライト城を出た日の昼。
私は、キャサリンと一緒にフォボスへ乗り、キンバーライト城へ向かう。
キンバーライト城。
別名「黒城」と、呼ばれている別名通りに、まさに黒い城なのである。
ハミッシュ陛下が『黒いトウキュウ』と、ボソッとつぶやいた事があったが・・・トウキュウとは、なんだろう?
未だに解明ができていない。
私は、キンバーライトの領都キンバルを眺めながら向かう。
こちらは城と違い、カラフルな建物となっていて、どこから、どこまでが一軒の家だかわかりやすい。
ただ、屋根だけは黒で統一されていて、一つのまとまりのある町であることを表していた。
キンバーライト城へ入ると、ホレス殿とセシル殿が出迎えてくれた。
そして、執務室へ通してくれた。
何故だろうか・・・執務室の棚に隙間が多い気がするのだが・・・。
「気が付きましたか・・・。」
ホレス殿は、1年後を目安に、位をセシル殿に譲る準備をしていると言った。
「イクシオンが父となったら、位をセシルに譲ろうと、かねてより思っていたので・・・。」
ホレス殿は、引継ぎに時間が必要になるだろうと予想し、今のうちから準備をしていると言った。
・・・セシル殿はしっかりされていて、ほとんどセシル殿に任せっきりと聞いている。
だから、引継ぎには、それほどの日にちは、かからないだろうが、セシル殿の父親へ対する優しさだろう。
時間をかける事で、ホレス殿の公爵の立場を守ってあげているのだろうな。
ソファー席に案内され、座るとすぐに紅茶が来た。
紅茶を一口飲む。
「っ!」
「まあ、おいしいわ。」
キャサリンが、紅茶の感想を私の代わりに言った。
「アップルティーです。」
リンゴは、キンバーライト領が産地だったな。
さて・・そろそろ本題に入ろうか。
「ホレス殿、サーシャの事を今は、どのように思っておりますか?」
一時は、サーシャを殺そうとも思っていたのだ。
「一時は、殺そうとも思っていましたが、今は友人と思っています。」
ホレス殿は爽やかな感じに言った。
「それは、良かった・・・ですが、それはサーシャの努力で、そのような関係になったことが大でしょうね。」
私は、大のところを強調して言った。
「恥ずかしながらそうですね。」
ホレス殿は、ヘリ―ドール侯爵家に捕まった捕虜たちを、命を懸けて救ってくれた事がきっかけだと言った。
「その際、サーシャの母親の形見の品が使われたのをご存じですか?」
差し出した手紙が、本物かを表すために用いられたリュヌの銀の櫛。
ホレス殿は知らなかったと言う。
「相当な物と聞いています。きっとヘリオドール侯爵は、サーシャの嫁入りの資金にと思って、持たせたのでしょうね。」
半分ぐらいは、違うだろうが、ここは話を盛ろうじゃないか。
ホレス殿は、申し訳ない顔をしている。
「それで・・・どうでしょう。実はサーシャはドラゴニアに入国して間もなく、国家鑑定士による持ち物検査をしているのです。」
その際、形見の品も鑑定された事を言う。
「その金額を皆さんで出し合いませんか?」
形見の品の金額を、捕虜の数で割る。
そして、領内で捕まった捕虜の数分を公爵家で負担する。
「それは、いいですね。」
ホレス殿は、是非そうさせてくださいと、言ってくれた。
「ホレス殿は、これからもサーシャと友人でいるのでしょうから、殺そうとした時の謝罪として、心遣いも付け加えて頂けると、サーシャも喜ぶでしょうね。」
キャサリン、いい事を言った。
流石は私の妻だ。
「そのようにいたします。」
今度は、セシル殿が言ってくれた。
それではと私は、キンバーライト公爵家が負担する額は記載された書類を渡す。
「これは・・・また。」
ホレス殿が若干驚いていた。
「リュヌの銀の櫛ですからね。当然これぐらいの金額はかかるでしょう。」
リュヌの銀の櫛の値段は、物で例えると城2軒分だ。
「サーシャは、黄金のドラゴンである、コスモと絆を結んでいるヘンリー殿のところへ嫁がれるのですよ。それなりの備えがあるべきと思いますがいかがですか?」
キャサリンは、ホレス殿とセシル殿に微笑みながら言葉を続けた。
「サーシャの事ですから、その備えはきっと人々の為に使う事になるわ。後の世の為の投資となりませんか?」
キャサリンの一言が決め手となったようだ。
後程、王宮のクローライトの屋敷に届けると約束をしてくれた。
そして、私とキャサリンは再びフォボスへ乗り、今度はダンビュライト城へと向かった。
フレディ殿は、話が分かる方と言うか、予想をしていたようだ。
王宮のダンビュライトの屋敷に、用意をしてしている事を言った。
何とも凄い方だと感心する。
すんなり、最後の目指す場所である王宮へと向う事ができた。。
時間的に、明日陛下にお会いする事になろう。
サーシャよ。
私は、お前の父として、頑張って資金を集めているから、安心してくれ。