新たな聖地
やっと、書けました。
林の中にコスモは降り立ち、ヘンリー様に支えられながら地上に降り立つ。
私は、開けた上着のボタンを閉め身なりを整える。
「サーシャ。」
と、ヘンリー様が私を呼んだので、振り向く。
まだ若干、頭が溶けている感じが残っていたが、ヘンリー様を見る。
「・・・は~。」
ヘンリー様が、ため息をついた。
次の瞬間、ヘンリー様は私の両方の頬を引っ張り離す。
「痛い、何するんですか!!」
私は、両頬を手で押さえてヘンリー様を睨む。
「さっきの色っぽい顔は、俺の前だけにしろ、そもそも無邪気な顔ですら、困っているのに、さっきの顔は何なんだ。無防備にもほどがあるだろう。」
ヘンリー様は背中を向いて言う。
「そんな事言っても、どんな顔だかわかりません。ヘンリー様と違って固定された顔ではありませんので。」
ヘンリー様はこちらを向く。
「サーシャも、言うようになったな・・・・。」
ヘンリー様と目が合う。
・・・・そして。
「プッ」
「クククッ」
二人して一斉に笑い出した。
「さあ、行こうか。」
と、ヘンリー様が手を差し伸べてくれた。
ヘンリー様と私は、手を繋ぎ林の中を歩く。
「ヘンリー様、自分の表情がどのようなのかわかりません。ちょくちょく鏡を見ているナルシストではありませんしね。ですから、素直に言ってください。頬をつねる前に!」
ヘンリー様は『わかった』と、言ってくれた。
そして、すぐに道が開けた。
「この町って・・・チューラの町だわ。」
・・・懐かしい。
初めてヘンリー様にあったのがこの町だったよね。
ヘンリー様は、喫茶店『シンシャ』の店に入る。
”チリリ~ン”
懐かしい涼やかな鈴の音色が響く。
「まあ、ヘンリー様、いらっしゃ・・まあまあ、あらあら、うふふふっいらっしゃいませ、サーシャ様。」
シンシャの小母さんが、嬉しそうに微笑みながら、私たちを迎え入れてくれた。
そして、カウンター席に案内される。
ヘンリー様と私は隣同士で座った。
「この度は、ご婚約おめでとうございます。」
私は、嬉しくなり顔を赤らめ微笑む。
「ありがとうございます。」
そうだった、ヘンリー様と正式に婚約したんだった。
だけど、情報早くないかしら?
正式に婚約を発表したのは、舞踏会の時だから、一週間しかたってないぞ。
「情報が早いですね。」
シンシャの小母さんは、たまたま仕入れに行った先で情報を得たと言っていた。
「でも、驚きですよ~。あなた~、来てくださいよ。ヘンリー様とサーシャ様が来ましたよ~。」
シンシャの小母さんは厨房に向かって声をかける。
「ヘンリー様はお汁粉、サーシャ様はクリームあんみつで、よろしいですか?」
ヘンリー様と私は、その注文でいい事を伝えた。
「それにしても・・・、2つ席を開けて座っていたお二方が、今は並んで座られているとは・・・。」
私は、すぐ横の空席を見る。
その席は、初めてヘンリー様に会った時に座っていた席だ。
私は嬉しくなり、その席に向かって微笑む。
奥から店主が出て来る。
ヘンリー様にお汁粉。私にクリームあんみつを渡してくれた。
しっかりクッキーのスプーンであった。
「クッキーのスプーンですね。」
店主が嬉しそうに『はい』と、答えた。
その目は、涙を浮かべていた。
「この店は、当時スプーンの他に、器にもデザインの様に、一部銀を使用していましたね。」
ヘンリー様が、この店の常連になったのは、それが原因だろう。
食の安全を示す、銀のスプーンやフォークの他に、器にも一部銀を使用しているのだ。
安心して食べることが出来る。
「そのおかげで、いち早くクッキーのスプーンを出すことができて繁盛しております。」
確かに、店に客が多い。
カウンター席しか空いてなかったもんな。
「それから、こちらをどうぞ。」
と、小母さんが小皿をだす。
小皿には、ポテトチップスが数枚入っていた。
「甘い物のお口直しに。」
私は、小母さんに微笑む。
「これはいい。」
ヘンリー様は、嬉しそうな口調で言った。
「ヘンリー様、でんぷん粉の方は、どうなりました?」
そう、ルベライト領にでんぷん粉を生産する事になっているはず。
「工場の完成に数年かかる。それからだな。」
では、水まんじゅうのレシピの伝授はそれからだね。
私は、店主に忘れていない事を伝えた。
「この地は、王妃カリスタ様の出身地にも関わらず。ヘンリー様とサーシャ様が初めてお会いした場所でもあるのですね。」
小母さんが、しみじみと言う。
「この店が・・・・。」
店主が涙を流し、その腕で涙を拭いていた。
「本当に嬉しい限りですよ~。この店が、お二方が初めてお会いになった、いわば聖地となるのですから。」
・・・聖地。
あらま、間違えではないが・・・。
ピンと、こないわね。
こうして、喫茶店シンシャでの休憩をし、再びコスモへ乗り、西へと飛んだ。