お互いの信頼
クローライトを発つ日となった。
早朝でまだ薄暗いが、今日中にマブ・ラリマー邸に着くためには、発たなくてはならなかった。
「ヘンリー殿、サーシャを頼みます。」
ヴィンセント様がヘンリー様に言っていた。
その横で、私はマティアス様に抱きしめられてた。
「サーシャ。このクローライトがサーシャの故郷だということ、忘れないでくれ、いつでも遊びに来ていいのだからな。」
「・・・はい。」
私は、もの悲しく返事をする。
「『実家に帰らせてもらいます。』で、ここに来てもいいのだからな」
と、耳元で囁くようにマティアス様は言う。
私はクスッと笑うと、マティアス様の腕の力が緩まった。
「はい!」
満面の笑みで答える事が出来た。
「サーシャが教育係になった時は、はっきり言って不安だったが、お前との口論が楽しかった。また出来ると信じている。」
ライ様が私に握手を求め、私はそれに応じる。
「サーシャ」
私を呼ぶ優しい声、私は振り向くとキャサリン様は私を抱きしめてくれた。
「サーシャ・・・頑張りなさい。」
その言葉に私は、キャサリン様の腕の中で頷く。
「・・・サーシャ、行こうか」
ヘンリー様はコスモに騎乗し、私に手を差し伸べた。
私は、手を差し出しコスモへ騎乗する。
「行ってきます。」
私の一言が合図の様にコスモは飛翔した。
どのぐらいだろう。
1時間ぐらいだろうか?
実は、10分にも満たないのかもしれない。
気持ち的に1時間と感じてしまう時間帯、ヘンリー様と私は無言だった。
それを打ち破ったのはコスモだった。
”ギュ~ギュギュ~”
と、鳴きだしたのだ。
「コスモ、そうしてくれ。」
ヘンリー様は、コスモに何かを同意したようだ。
・・・なんだろう?
「サーシャ、2箇所寄るところがある。」
私が承知すると、コスモは少し南よりに進路を変更した。
「コスモは行き先が分かるのですか?」
”ギュギュッ”
「それは、ドラゴンだからな。一度行った場所の方向は、体が覚えている。だから、暗い中でも、煌々と照らされた中でも、行くことが出来る。」
ヘンリー様は説明をしてくれた。
「・・・では、ドラゴンの目は、何のために・・・位を表す為だけで、実は視力が悪いとか?」
”ギュギーッ”
コスモは首を左右に振る。
コスモの体が揺れる。
「おっと。」
と、ヘンリー様が私の体を支えてくれる。
「ドラゴンの視力は、俺ら人間よりもある。ドラゴンは大きい。だから飛翔中に木や鳥などに、ぶつからない様しっかりと景色を見ているんだよ。」
なるほど・・・やはりドラゴンは心優しい生き物だ。
飛んでいる鳥にも、ぶつからないように気を使っているのだから。
「ごめんねコスモ。私のドラゴンの知識が、まだまだな為に怒らせてしまって、これからたくさんドラゴンについて学ぶわね。コスモからも教えてくれると、うれしいわ。」
私は、コスモを撫でながら言う。
”ギュウーッ”
「わかったと、言っている。」
私は、コスモにお礼を言う。
「ですが・・つまり・・その・・。」
私は、一つの疑問が浮かんだ。
だが、先ほどの様に怒る心配も出てきて言えないでいた。
まあ、ヘンリー様だから許してくれると思うのだが・・・。
案の定、『何だ?』と、言ってきました。
・・・お答えしましょう。
「騎乗している私たちは、実は眠っていても、全然OKという事でしょうか?」
”ギュウ”
コスモが即答で答えたように言う。
「・・・・まあ、そうだが。」
困ったようにヘンリー様が答えた。
うん。
わかっているよね・・・私。
「・・よかった。」
私はそう答えると、ヘンリー様の首の後ろに腕を回す。
そして、目の前に見える唇に、自分の唇を重ねた。
「サーシャ。」
唇を離すと、ヘンリー様は私を呼んだ。
そして、返事をするように再び唇を重ねる。
唇を離しながらゆっくりと目を開ける。
すると、驚いているヘンリー様と目が合う。
私は、恥ずかしくなり、再び目を閉じ唇を重ねる。
恥ずかしさで口づけをするのに、勢いがあったのか、唇が深く重なって上唇と下唇の間に隙間が出来ている。
そこに舌を突き出した。
すると、自分の舌に、ヘンリー様の舌が絡みついて来る。
「・・っ・・・んっ・・・。」
と、声が漏れる。
頭のてっぺんが熱を帯び、溶ける感じがする。
「・・あっ。」
ヘンリー様は、軽く私の上体を押し、唇を離す。
再びヘンリー様と目が合う。
先ほどと違い、溶ける感じが私を支配していた。
「っ!」
ヘンリー様は私の両肩に手を置き、私をコスモに叩きつけ、再び深いキスをする。
”ぷちっぷちっ”
と、私の上着のボタンが外される。
鎖骨と胸の間が露わになる。
「約束は、絶対に守る・・・だから。」
熱を帯びた目で私を見つめるヘンリー様。
私は、両腕を出し、ヘンリー様を受け入れた。
まだ、コスモとの絆の文様のない、そこにヘンリー様との絆の跡が付く。
目と目が合えばキスをし、唇が離れれば、お互いの信頼を刻むように、胸元に跡を残していった。
コスモが、目的地に到着する事を告げるまで、それは続いた。