クローライトの地の血
貴金属店の個室に案内された。
私は、キャサリン様に肩を支えられ、ソファーに座る。
私を中心に、右にキャサリン様、左にマティアス様が私の隣に座る。
マティアス様は、店員にドラゴンとコスモスのチェーンブローチを持ってくるように頼んでいた。
「サーシャ、どうしたの?」
キャサリン様が優しく声をかけてくれる。
「私は、クローライトに来て・・幸せで・・・だから、クローライト家で、ヘンリー様のお返しの品を出して貰うわけには、いかないのです。」
キャサリン様、マティアス様は困った顔をする。
「私は、サーシャの事を家族と思っているわ。」
マティアス様も、私の事を家族と思っている事を伝える。
「だから、嫌なのです。」
贅沢な考えを・・失礼な考えをしているのは承知している。
・・・でも、嫌だ。
「クローライト家の心を持って行きたい。」
”ガバッ”
「サーシャ、お前は・・・。」
私を抱きしめたのは、マティアス様だった。
「その心を新たに創ったのは、サーシャなんだぞ。」
キャサリン様が私の頭を撫でる。
「サーシャ。ライナスは、新たなるクローライトの地の父となるだろう。クローライトの地の血が、ライナスには流れている。」
私を抱きしめているマティアス様の右手が、優しくポンポンと、私をあやすように背中を叩く。
「その血をライナスの体に巡らせたのは、間違えなくサーシャだ。」
マティアス様の私を抱きしめる腕が強くなる。
「サーシャが、クローライトの地に必要なモノを感じ取り、それを巡らせライナスに伝えた。だからそれらを感じ取ったサーシャにも、クローライトの地の血が流れている。」
キャサリン様は、それに同意するように頷く。
「だから、サーシャの故郷は、このクローライトの地だ。」
「う・・うう・・・んっ・・」
涙が溢れ・・・鳴き声も漏れる。
「サーシャがヘンリー殿と会って、一瞬で可愛さに磨きがかかって・・ヘンリー様に全て持ってかれると、寂しいとまで思っていたのに・・・クローライトの心を持っていってくれるのね。」
私はマティアス様の腕の中で首を左右に振る。
マティアス様は腕の力を弱めてくれた。
私は、マティアス様の腕から抜けて、キャサリン様の方を見る。
「クローライトの日々があったから、私はヘンリー様の事を素直に向きあえ・・・愛せた・・のです。だから、それをお金で表したくない。」
”がばっ”
と、再びマティアス様は私を抱きしめる。
「まったく・・この意地らしく可愛い子は・・・。」
「・・あの・・・。」
と、男性の声がした。
「店主か?」
マティアス様の質問に男性は『そうです。』と、答えた。
「その品を予約しておく。」
品って・・・ドラゴンとコスモスのチェーンブローチに事?
「この意地らしく可愛い俺の娘が、購入したいと言ってな。」
「こちらの商品は、ゴールドパールを仕入れる事が出来る程に、店が繁盛出来た事を記念して作った物です。」
店主が商品をテーブルの上に置く音がする。
「どうぞ・・差し上げます。サーシャ様がコスモと絆を結んでいるヘンリー様のところへ嫁がれるのです。このブローチは正にヘンリー様とコスモをイメージして作らせた物。見つけて頂いただき感謝しています。」
私は、マティアス様の腕の中で首を振る。
「ふっ・・店主。サーシャは、本当に意地らしく可愛いな。」
マティアス様は私の頭を撫でる。
「店主。サーシャはクローライトの、この地の心を持って、ヘンリー殿のところへ嫁ぎたいという事のようだ。」
マティアス様は、購入する事を店主に告げる。
「それから、長剣と短剣、後アクセサリーを特注する。ヘンリー殿へ渡すお礼の品だ。家宝となる物を作ってくれ。」
「もちろんです。」
店主は嬉しそうに言葉を発した。
だけど・・私にそれを支払うお金は・・・、どうしても貢物を使わせたいの?
でも・・貢物をすべて使っても・・購入できるか・・・。
「ゴールドパールを仕入れてくれ」
!?
待って、本当に無理だから・・一生かかっても払えないよ。
一生が長くなったとしても・・・負債を持ってヘンリー様のところへは行きたくない。
私は、マティアス様の腕の中で体を動かす。
すぐに、マティアス様は腕の力を緩めてくれた。
私は、マティアス様を見る。
「わ、私・・。」
マティアス様は私の前に手平をだし、静止する。
「サーシャ、これらの資金は、サーシャの親として調達する。クローライト、それにルベライトからは貰わない。それでいいか?」
どういう事だ?
どうやって資金を調達するのだろう?
「なあに、サーシャがドラゴニアに来てからの功績を見れば、資金を出してくれるだろう。安心しろ。」
「結構、集まりますね。」
え?
私の功績て・・・ルベライトでの緑とピンクの計画と、クローライトでのリニュアル計画。
その2つからは、貰わないと言っている。
では、どこから?
それも、店主さんは結構、資金が集まる事を言っているが・・・。
どこからだ?
私は、不安そうな顔をマティアス様にする。
「安心しなさい。しっかりと貰ってくるから。」
そう、嬉しそうに微笑むマティアス様に、私は何も言えず、お願いするしかなかった。
もし、ダメだったら・・貢物を質にだすしかないな。