象徴の植物
「マティアス様、このお花ではありませんか?」
私は、マティアス様に水辺の花の図鑑の、とある花が描かれているページを広げたまま渡す。
「そうだ、この花だ。」
『梅花藻』
キンポウゲ科キンポウゲ属多年草の水草。
白い花を咲かせる。
ヴィンセント様が幼少期の猛暑の夏に、猛暑で苦しんでいる領民の為に、マティアス様がフォボスを連れて、川の水を凍らせに領土を回った年があったそうで。
たまたまヴィンセント様を連れて行った先に、梅花藻が咲いていた川があって、その川を花ごと凍らせたのを見て、ヴィンセント様が大泣きをしたという。エピソードを教えて貰った。
「領民の命を取るか、花の命を取るか、領主としてどのように行動すべきかをヴィンセントに諭した花だ。」
マティアス様は懐かしむように言った。
「『梅』という文字が入ってるのは、嬉しいですね。」
マティアス様のそばにいたキャサリン様が、嬉しそうに微笑む。
マティアス様も嬉しそうに微笑み返す。
マティアス様のピンバッチの植物が『梅』だからである。
キャサリン様が『カーネーション』
ライ様が『綿花』
そして、やっと見つけたヴィンセント様の植物が『梅花藻』
「サーシャの植物は何かしら?」
キャサリン様が図鑑の別のページを広げる。
「もし、私の植物というなら、コスモスではないでしょうか?」
マティアス様とキャサリン様が、2人同時にため息をつく。
どうしたんですか?
「コスモスと分かっていても、悔しいと思うんだよな~。」
「ええ、コスモスはヘンリー殿の花であって、サーシャの花ではないとも思うのよ。」
2人して、文句を言っている。
確かにコスモスはヘンリー様とコスモを象徴している花だわ。
私の花ではない。
・・・あっ。
私は、植物図鑑の実のなる木の種類を出す。
「いつか、この地に植えようとしていたコアルト大陸の植物です。」
私は、植物図鑑を広げマティアス様に差し出す。
「ブルーベリー。」
マティアス様はキャサリン様と一緒に図鑑のページを見る。
「イリス帝国のクラウンコッパー公爵家の庭に植えてあった木です。」
「そんなの却下よ。」
キャサリン様が即答で却下した。
クラウンコッパー家の事を出したのが不満だったようだ。
「でも、青紫の実がなる。青はクローライトの色だ。そして紫色はサーシャの色だろう。」
マティアス様は弁解してくれたが、何せ私にクラウンコッパーの事を忘れて欲しいと思っているキャサリン様には、嫌なようだ。
・・・ちょっと、キャサリン様が可愛いと感じてしまった。
こんなふうに、マティアス様と長年一緒にいたんだな。
私は、微笑ましくマティアス様とキャサリン様を見る。
「サーシャ、他にはないの?」
「青紫色の実でしたら、マルベリーがありますね。ピンクアメジの庭の隅に植える事を推している木です。」
私はマルベリーの葉である桑の葉が、養蚕に必要な材料であることを伝える。
「サーシャは桑で決定のようだね。」
マティアス様の一言で、私の植物も決まった。
「昼前だし、どうだろう、昼食後に注文しに一緒に行かないか?」
マティアス様の申し出に、キャサリン様は大喜びをしていた。
2人がデートするのだから邪魔はいけないよね。
「サーシャも来ること。」
マティアス様に釘を刺された。
こうして、2人のデートの邪魔者として、昼食後に貴金属店へ行くことになった。