・・・気が付こう
ここは・・・たくさんのコスモスがある。
赤、ピンク、白のコスモス。
ヘンリー様に再会したあのコスモス畑・・・に、似ている。
黄色いコスモスがあるのではと・・そう、感じられないのだ。
何故だろう?
一応、探して見てみる・・・黄色いコスモスの花を。
ふと、私の前に、黒い・・赤黒いコスモスが一輪。
私は、その赤黒いコスモスに触れる。
”さーーーっ”
と、風が吹き荒れ私は目を瞑る。
そして、目を開けると、一面に赤黒いコスモスの畑となっていた。
空も薄暗くどんよりしている。
「な、なに・・・ここは・・・。」
私は不安になり、辺りを見回しながら駆ける。
どこも、かしこも、赤黒いコスモス。
それも一段と暗くなり・・どんよりとして・・・息苦しくなる。
誰か・・・いないの?
・・・怖い、怖いよ~。
ヘンリー様・・・どこにいるの?
助けて・・・ヘンリー様・・・怖いよ。
恐怖で、涙が零れ落ちる。
「・・・・・っ」
一か所地面が光っていた。
私は、そこへ誘われるように進む。
地面に花びらが一枚・・・黄色いコスモスの花びらが落ちていた。
私は、慈しむように拾い上げ抱きしめるように包む。
私は、今にも声を上げて泣きそうなぐらい、悲しくなった。
それをかき消すように、黄色いコスモスの花びらに、しがみつくように手の中で抱きしめている。
”ピカーーーッ”
と、手の中が光りだす。
私は驚き手のひらを開く。
”ぶわ~っ ぶわわわ~っ”
と、手のひらから溢れだすように金色の花びら・・・いや、金色の葉が溢れ舞い上がる。
・・・丸い葉。
・・・紅葉のような葉。
・・・柳の葉のような葉。
キラキラと光りながら、勢いよく舞い上がり、辺りを明るくする。
そして、赤黒いコスモスが解けるように消えてなくなる。
「・・・気が付いて。」
女性の声がした。
私は、その声の方へ向く。
すると、そこには・・・。
「・・・夢・・だった。」
私は、目を覚ます。
昨夜、国王主催の舞踏会が喜びに包まれて閉会した。
私は、クローライトの屋敷で、アマルテアを迎え入れられた喜びを使用人たちと喜び合い、そして、幸せの中で眠りについた。
・・・あの、夢は・・・何?
不安が隠しきれない中で、体を起こす。
そして、手に握られている物を見る。
全て陶器のティースプーンの入った小箱。
私は胸元に持って来て、縋りつくように抱きしめる。
このティースプーンが手元に来てから、ずっと、眠る時は手に持って寝ている。
ヘンリー様に包まれた感じがして・・・嬉しくなるからだ。
私は、大丈夫だと心に言い聞かせて、起き上がる。
朝食を済ませてから、クローライトの屋敷からクローライト領へ帰る準備をしていた。
クローライトの屋敷の屋上には2頭のドラゴン。
赤いドラゴンのフォボスと、水色のドラゴンのアマルテアがいた。
フォボスには、マティアス様とキャサリン様。
アマルテアには、ライ様とヴィンセント様が乗ると思うので私は、地上から馬車に揺られてクローライトへと帰るのだろう。
見送りの準備をする。
「サーシャ、何しているの、あなたも帰る準備を・・・荷物は?」
キャサリン様は、使用人に私の荷物を持ってくるように伝える。
「・・・私は、お見送りして馬車でクロランに戻るのでは?」
「何言っているのよ、一緒にドラゴンに乗って城へ帰るのよ。」
私は、目をパチクリする。
ドラゴンに乗って?
「3人でドラゴンに乗るのですか?」
まあ、大丈夫だとは思うけど・・・。
出来れば、夫婦の仲、親子の仲をお邪魔したくないような~。
「ライナスは1週間、ドラゴンと絆を結んでいるベテランの方2名に、直接指導をしてもらうのよ。」
マティアス様から、ドラゴンと絆を結んだ際、聖ドラゴニア学園に所属していたら、学園側が指導をするのだが、学園に所属していない場合は、直接、ドラゴンと絆を結んだベテラン2名が、1週間にわたりみっちりと指導をしていくのだ。
ドラゴンと絆を結んでいるベテランの者の1人は、マティアス様よね。
もう一人は・・・。
「来たわね。」
キャサリン様の言葉で、キャサリン様が向いている方を向く。
そこには、金色に輝くドラゴンが見える。
こちらに向かっている。
「陛下から直接通達があって、ライナスの指導係として、俺とヘンリー殿が付くことになった。」
マティアス様が、伝えてくれた。
「だから、サーシャはヘンリー殿と一緒にコスモへ乗って、クローライト城へと帰還するんだよ。」
ヴィンセント様が、マティアス様の言葉に、付け加えるように言う。
「えっと・・・聞いてませんが・・・。」
クローライト公爵家の方々は、皆、常識とばかりに私を見る。
・・・え?
「安心しなさい。クローライト城でのヘンリー殿の部屋は、ちゃんとサーシャとは別に取ってあるから。」
・・・え?!
何を言い出すのですか、キャサリン様。
顔が、一気に赤くなるのが分かった。