婚約
舞踏会の時間帯となった。
「俺も招待されるとは・・・。」
と、正装姿のライ様が隣にいた。
そう、ライ様も招待をされたのだ。
当初、ライ様は、舞踏会に来るナイジェルさんに、ドラゴンと絆を結んだ時のエピソードを聞きに来たのだ。
それを知ったハミッシュ陛下が、舞踏会会場でナイジェルさんの他にも、ドラゴンと絆を結んでいる者たちのエピソードを聞くといいと、ハミッシュ陛下自らクローライトの屋敷に来て、直接ライ様に招待状を渡したのだ。
舞踏会会場に近づいて来た。
先にマティアス様とキャサリン様が、会場入りをする。
そして、ライ様とヴィンセント様に挟まれ3人で会場入りをする。
会場入りすると騒めく。
会場の人たちが、こちらを見て次に見る場所・・・。
”ドクンッ”
と、鼓動が跳ねる。
会場の人たちが、私の方を見てから、次に見る方に誰がいるのか、わかっているから・・・。
ヘンリー様。
お昼過ぎにコスモス畑で会ったばかりなのに・・・。
戸惑ってしまう。
ヘンリー様のところへ行きたいと募っているのに、足がすくんでしまっている。
ためらいが隠せない。
「さあ、行ってきなさい。」
と、キャサリン様が私の背中を押す。
私は、キャサリン様に背中を押され一歩前へ、すぐに振り返りキャサリン様の方を見る。
「もう・・サーシャったら。」
”ぎゅっ”
キャサリン様は私を抱きしめる。
「戸惑っているのはわかるけど、サーシャはヘンリー殿の婚約者でしょ。」
キャサリン様は、私から離れる。
「ヘンリー殿は、ずっと待っているのよ・・・行きなさい。」
私は、コクンと頷き首のチョーカーに触れる。
ドラゴニアで、チョーカーは婚約者のいる証。
・・・私は、ヘンリー様の婚約者。
振り返ると、人が避けて行き道が出来る。
ヘンリー様が見える。
私は、一歩一歩前に進む。
この一年を踏みしめながら・・・。
一歩・・また一歩。
「・・・サーシャ。」
ヘンリー様は私を呼ぶ。
私は、ためらいながらも微笑む。
「サーシャ様!」
”だきゅーっ”
と、私に抱き着く人。
「マリー!!」
私は、抱き着いた人を見る。
今は、ルベライト城のメイドをしているマリーだった。
ヘンリー様の付き添いで会場入りをしたようだ。
「お会いしたかったです。」
「私もよ。」
私は、マリーに微笑む。
マリーは、うれし涙を浮かべていた。
「こんなに可愛くなられて・・・あんな糊付けされた固まった顔をしている人のもとに、行かなくてもいいのですよ。」
糊付けって・・・ヘンリー様のことですか?
言い過ぎではない・・・って、マリー・・私を抱きしめながら、徐々にヘンリー様から離さなくていいから。
「・・・マリー、私・・・ヘンリー様のもとへ行きたいわ。」
私は、マリーの背中をポンと撫でるように触れる。
足元が止まる。
「サーシャ。」
ヘンリー様が近くまで来てくれた。
「・・ヘンリー様。」
ヘンリー様を見つめる。
”グルリッ”
「うわっ!」
マリーは、私を半回転させヘンリー様に背を向ける状態になった。
「マリー・・サーシャを離してくれ。」
「嫌ですよ。こんな独占欲むき出しのドレスなんて贈って・・・こんなにサーシャ様を可愛くさせて・・・簡単に、奪わないでください。シッシッ」
マリーは、抵抗をする。
「マリー、私を可愛いと言ってくれてありがとう。私、このドレスうれしいと思ったのよ。だから、このドレスでヘンリー様と踊りたいの・・・2曲続けて。」
舞踏会で2曲続けて踊れるのは、夫婦もしくは婚約者だけ。
「私・・・ヘンリー様の婚約者になりたい。」
マリーが固まったのが分かった。
「・・・マリー。」
マリーが私からゆっくりと離れる。
その顔は少しふくれっ面だった。
・・・だけど。
「?」
ふと、マリーを見る。
「マリー・・・あなた綺麗になったわね。何かあった?」
マリーは目を見開き、私と目を合わせる。
「タイムアウト」
耳元でヘンリー様が囁く。
私はヘンリー様の方へ振り向く。
頬が・・熱い。
ヘンリー様が私の手を取り、会場の中央へと向かう。
人だかりが避けて行く。
普通なら驚き引くのに、今は・・ヘンリー様に誘われている高揚にかき消されていた。
曲が流れる。
そして、向き合い踊りだす。
スカートの裾がきれいに踊る。
「サーシャ・・・俺をちゃんと見てくれるのだな。」
ホッとしたようにヘンリー様は話だした。
「言われてみれば・・・不思議ですね。クスッ」
ヘンリー様を直視しても、お色気オーラに体に負担がない。
確かにくすぐったい感じは体中にするも、悪くないと感じてしまっている。
「どんな、魔法を使ったのですかヘンリー様?」
「そんな事言われてもわかるかよ。」
私は、満面の笑みをヘンリー様に見せた。