ス
注意:サブタイトルが短すぎますが、『ス』で、あってます。
「笑い過ぎだぞ!」
ヘンリー様が、笑っている私に少し、すねた感じに言う。
「ごめんさい。」
私は、手の甲で涙を拭き、その手を胸にあてて自分を落ち着かせる。
そして・・・ふと思った。
「でも・・それでいいのかもしれませんよ。」
私は、ヘンリー様の隣まで行く。
「ヘンリー様、両手を出して貰えませんか?」
そのように言い、私は黄色いコスモスを一輪手折る。
手折った黄色いコスモスの花から、花びらを一つ摘む。
「ヘンリー様は心根で・・その素で、ルベライトを統治されているわ。」
私は、ヘンリー様の手のひらに一枚の黄色い花びらを置く。
「ヘンリー様の『ス』。」
私は、花びらを一枚摘んだ黄色い花をヘンリー様の前に見せる。
「『ス』が1枚とれたら・・・『コスモ』です。」
私は、その黄色い花をもう片方の手に置く。
「『コスモ』と『ス』で『コスモス』」
私は、満面の笑みがあふれ出す。
「まさに、この花だわ。」
私は、コスモス畑を見渡す。
ヘンリー様もコスモも、コスモス畑を見渡す。
「ヘンリー様の素を感じ取り、そして共に生きたいという思いが広がっていった。まさにコスモス畑のように。」
ヘンリー様は、コスモのところまで行き、コスモを撫でる。
「ありがとうな・・コスモ。俺と絆を結んでくれて・・・。」
”ギュ~”
嬉しそうにコスモが返事をした。
「これからも・・よろしくな。」
”ギュ~ギュギュ~”
「・・・うん、そうだな。」
ヘンリー様とコスモは何か会話をしていた。
「サーシャさん。そろそろ王宮へ向かいましょう。」
と、遠くから人の声がする。
王宮までの同行者の方だ。
「では、ヘンリー様。舞踏会の会場で。」
私は、ヘンリー様にお辞儀をする。
「すまない。サーシャは、王宮のクローライトの屋敷まで、俺が送り届けるから、君たちは、そのまま王宮へ向かってくれ!」
え?
同行者の方々は、黄金のドラゴンであるコスモを見て察したらしく。
お辞儀をして去って行った。
同行者の方たちよ・・・私、同意してませんよ。
勝手に行かないでくださいな・・・。
「サーシャ、手を・・・。」
振り向くと、ヘンリー様はコスモに乗っていて、私に手を差し出した。
もう、王宮に行く方法は、ヘンリー様と一緒にコスモに乗って王宮コースしかない。
私は、ヘンリー様に手を差し出す。
そして、1年ぶりのヘンリー様の腕の中。
ああ、ヘンリー様の香りだ。
忘れたくても、忘れられずに・・・心を乱してくれたお色気臭。
・・・懐かしい。
”フワッ”
と、コスモが飛び立つ。上空からコスモス畑を一周して・・・その場を去る。
「サーシャ。」
と、囁くようにヘンリー様が言うと、私を覆いかぶさるように、マントの中へと入れる・・・。
頬が・・耳が・・・体中が熱を感じる。
だが・・・嫌ではなかった。
恥ずかしい・・・だけど・・もっと、くっついていたいとまで・・思ってしまう。
私は、ヘンリー様の背中に手を回し、しっかりとヘンリー様にしがみつく。
”ぎゅっ”
と、私の背に回しているヘンリー様の手に力が入り、なお引き寄せてくれた。
鼓動のドキドキが嬉しいと歓喜していた。
・・・よかった。
私は、ヘンリー様と一緒にいても・・・壊れないという安堵感と、なお一層の想いが募っていき、それが、広がっていくのを感じていた。
「・・・・着いたよ。」
ヘンリー様は、マントを私から剥がす。
私はいきなり明るくなったので、まぶしく、ヘンリー様の背中に回した腕を引き寄せ顔の前に持って行く。
そして、目を瞑る。
「クスッ・・・俺に預けていろ。」
そういうと、ヘンリー様は私を姫抱っこして、コスモから降りる。
私は驚き、ヘンリー様の顔を見てしまった。
ああ・・・やっちゃった~・・・石化してしまった。
「サーシャ!!」
と、キャサリン様がクローライトの屋敷の屋上に来る。
ヘンリー様は私を降ろしてくれた。
「・・・母さま。」
私は、ヘンリー様のもとから離れられず、キャサリン様の方へ顔を向ける。
「サーシャ・・・会場でな。」
と、私の耳元で囁くようにヘンリー様が言った。
私は、ヘンリー様の方を振り向く。
「はい・・・会場で・・・。」
ヘンリー様が私の手を取る。
そして、手がゆっくりと離れていく・・・。
切なさが・・押し寄せて来る。
指先まで離れる。
いきなり、力強く、引き寄せられる。
そして・・・。
唇にヘンリー様を感じる。
すぐに唇の感触が離れる。
「ごめん、人前で・・・でも、そうでないと、離せそうになかった。」
耳元で、ヘンリー様は囁く。
「キャサリン殿、サーシャをお願いします。」
そう言い、ヘンリー様はコスモに乗り、飛び立つ。
「・・・サーシャ!」
ふらつく私をキャサリン様は支えてくれた。
そして、南西へと飛んでいったコスモの姿を見えなくなるまで見ていた。




