そして、決まる
翌日は、お見舞いをしてくれたお礼を言いに王宮へと行った。
ハミッシュ陛下の執務室へ入ると、10数人の人が部屋にいた。
「サーシャか。」
の、ハミッシュ陛下の一言で、全員が私の方を振り向く。
私は驚き、一歩後ろへ下がる。
すぐにアラン殿下が来て、私の手を引き部屋の中まで誘導される。
「サーシャ、ここにいる者たちは、聖ドラゴニア学園に関わる者たちだ。」
ハミッシュ陛下が言うと、学園関係者の方々は、タイミングを合わせているかのように一斉にお辞儀をする。
なんの集団ですかって、聖ドラゴニア学園の職員か・・。
私は、一歩、二歩、三歩と後ろに下がってからお辞儀をする。
「始めまして、サーシャ・トラバイトです。」
黒髪の男性が、私の前まで出て来る。
「学園長のダニエル・スペサルティンです。」
握手を求めてきたので手を出すと、片膝立ちになり、出した私の手の甲にキスをした。
えっと・・・何なのでしょうか。
「あなたの素晴らしさに、感動をしています。」
素晴らしいって・・・何にでしょうか?
ドラゴンたちが、私の事をヘンリー様の婚約者として見ている事?
聖女リオンと同じ姓名となった事?
ヘリオドール一族の者って事?
・・・基本、間接的に素晴らしいということでして、私自身は、いたって普通の一般人だと思うのですが・・・。
もしくは、ハミッシュ陛下が、私が前世持ちだと言うのを公表したのですか?
「昨日のテストの結果が、ひと教科100点満点で、平均96点という高得点。もちろん数科目満点の物もございます。」
ピアーズ様が、書類を見ながら言う。
昨日マティアス様が出したテストって・・・・。
「特に素晴らしいのが論文です。」
ダニエル学園長が、目を輝かせてこちらを見て来る。
「長年、悩んでいた事をこうも簡単に解決する内容とな・・・。」
ハミッシュ陛下が、昨日書いた論文を机の上に出す。
『リュヌの銀の必要性と入手方法』
「ドラゴン専門医とドラゴンドクターの違いを知っている事も、驚きでした。」
ドラゴン専門医とドラゴンドクターの違いは、リュヌの銀を持っているか持っていないかの違い。
ドラゴンドクターの方が、リュヌの銀を持っている。
つまり、ライ様が付いて、ピンクアメジに行った怪我をした水色のドラゴン。そのドラゴンを診た医師は、リュヌの銀を持っているという事だ。
このドラゴニアはリュヌの銀が、足りなさ過ぎている。
ドラゴンドクターの数も少ないし、交換島のドラゴンの数も少ない。
リュヌの銀さえあれば補えるという現状を、ずっと長年、当然のように続けている。
その解決方法が、ナーガ王国で絶滅してしまったアコヤ貝を友好の証に贈与。その後、いろんな色の真珠を作る製造方法を小出しに教え、そのお礼にリュヌの銀を貰うという方法だ。
ドラゴンたちが私の事を、ヘンリー様の婚約者と認識している事も有効手段になるはずだ。
ドラゴンの頂点の黄金のドラゴンと絆を結んでいるヘンリー様だ。
ウィリアム伯父様は喜んでくれるはず。
・・・論文には書き忘れたけど、もしかして私の婚礼の祝いに、リュヌの銀が贈られてくることもあり得たりして・・・。
「早速ナーガ王国の港町に、アコヤ貝による真珠が生産されているか確認をしてます。」
と、ピアーズさんが話し出す。
「もし、論文通りにナーガ王国で、アコヤ貝による真珠の生産がされていなければ、認めざるをえないだろう。聖ドラゴニア学園の飛び級をな。」
ハミッシュ陛下は、テストの結果を通告してくれた。
やはり、マティアス様が、昨日だしたテストは、飛び級テストだった。
数か月後、私は、来年聖ドラゴニア学園の2年生として入学する事が決定される事になる。
ヘンリー様と同じ道をたどる事になったのだ。
王宮から、クローライトの屋敷に戻ると、ささやかだがお祝いの晩餐が用意されていたのは言うまでもない。
こうして、私がヘンリー様のもとへ戻るまで、約1年8か月となった。