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雨空と後悔

 立派な建物には、ドラゴンと天秤のマークがあった。

 現在の時刻は15時53分。

 国の機関が閉まる7分前。

 外貨交換所の門の前で馬から降り、私はすぐに中に入る。

 「ご用件を伺います。」

 出入り口の受付嬢が言う。

 前回ここへ来た時の受付嬢とは違い、若干顔が引きつっている感じではあるが、それでも、丁寧な感じに接してくれる。

 「所長にお取次ぎをお願いします。」

 受付嬢が一瞬固まる。

 「約束はされておりますでしょうか?」

 「いいえ、ですが取り急ぎ、取り次いで貰わなければ大変なことになりますね。それでも構いませんか?」

 前回来た時と、全く同じ言葉を受付嬢に訴える。

 「恐れ入りますが、そのような脅しに屈することはできません。」

 前回と同様とはいかないか・・・。

 「では・・・ドラゴンと会わないとなりません。質をお願いします。」

 出来ないと言いやがった。

 「受付は16時で終了です。」

 「あちらの時計では15時55分です。まだ5分もありますよ。」

 私は、自分から見える掛け時計を指さし言う。

 「あちらの時計は、先に進んでおります。」

 「国の機関が、国の機関の建物に堂々とわかるように掲示している時計を先に進んでいると嘘をつき、民を騙すとは・・・恥ずかしいと思ってください。」

 私は、もし先に進んでいる時計なら、そのことを張り紙にして掲示するものだと伝える。

 受付嬢は、頭に血が上たのか『張り紙が外れただけです。』と、言い返す。

 「では、そうであったか調査してもよろしいですね。」

 私は、受付嬢に一昨日までフレディ様にあっていた事を伝えた。

 「それこそ嘘ではございませんか?」

 私は、『是非、調べてください。』と、言う。

 私は、自分の名前を言い、今現在ライ様の教育係で、一昨日までフレディ様のところに短期学習をしに行っていた事。

 その帰り道に、近くで怪我をしたドラゴンに会い、助けを求めにここに来たことを言う。

 「ドラゴンを放置してもよろしいのですか?」

 私は訴えるも、受付嬢は動かなかった。

 そして、最後の一言。

 「16時を過ぎました。お引き取りください。」

 ここまで来たのに・・・・。

 どうすれば・・いいの?

 ・・・・ドラゴンにさえ会えれば。

 私は、外貨交換所を出る。

 行先は・・・近くにあるはずだ。

 『国家公務員のドラゴン寮』

 道行く人に、まずは場所を聞こう。

 外貨交換所の前に置いた馬の手綱に手をかける。

 馬は・・・疲労で動こうとしなかった。

 「お願い、後少しだから・・・動いて。」

 私は馬を撫でながら言うが、動く気配はなかった。

 どうしよう・・・このまま、誰も助けてくれずに、怪我をしているドラゴンのもとへ戻るような事になったら・・・。

 皆・・・悲しむ。

 そんな事・・出来ない!!

 そんな事・・・してはいけない!!

 私は、再び外貨交換所へ振り向くき進む。

 建物の外周を走る。

 ・・・・あった!

 私は、建物の隙間を入り中庭へと行く。

 「助けて!!ドラゴンが怪我をしているのよ。」

 鑑定をしているドラゴンの背に向かい言う。

 ドラゴンは窓から私の方へと振り向く。

 「鑑定しているところを邪魔しているのはわかっているわ。でも、ドラゴンが怪我をしているの、このままじゃ暴れだして周りに被害が出てしまうわ。そんなの見たくないの!!」

 ”ギュウ~ギュギュウ~”

 ”キュ~キュ~”

と、中庭にいたドラゴンが鳴く。

 「ドラゴン騎士、それにドラゴンドクターも向かわせるように伝えました。我らも、鑑定の仕事が終わりましたら向かいます。」

と、国家鑑定士の声が部屋から聞こえる。

 私は、国家鑑定士の鑑定が終わるまで、その場に待機し、鑑定士のドラゴンに同乗して、ライ様のもとへと戻った。

 戻ったころには、ドラゴンドクターの治療が終わって水色のドラゴンの足に包帯が巻かれていた。

 「今できる治療は終わりました。」

 ライ様と私は、当然のようにお礼を言う。

 だが、ドラゴンドクターはあまりいい顔をしなかった。

 「今後の話をさせてください。」

 ドラゴンドクターの言うには、祝福のオーラの発動までの期間が長ければ長いほど、傷口が化膿してしまう恐れがあるという事だった。

 その解決方法は『温泉』と、言って来た。

 「ピンクアメジには、ヘンリー様がいるはずです。もし、いらっしゃらなくてもリアルガー伯爵の娘のジャネットさんとは知り合いです。」

 私は、2人に手紙を書くこと伝える。

 ドラゴンドクターの顔が変わる。

 「費用は、これぐらいで足りますでしょうか?」

 私は身に着けていた。ブレスレットとペンダントをドラゴンドクターに渡す。

 「ドラゴンの郵送に必要な布とドラゴンは、騎士団の方で用意できます。」

 ドラゴン騎士の人が言ってくれた。

 「このような悪天候な状況での郵送になりますと、ドラゴンドクターの私の他に、ついていく人数は少ない方が安全です。」

 「なら、サーシャがついて行ってくれ。」

 ライ様がそのように言った。

 私は、首を左右に振る。

 「ライ様・・・ドラゴンから逃げるのですか?」

 ライ様は、ドラゴンの傷が化膿せずに傷が治るまで、そばにいなければならない事を伝える。

 「それが、クローライト公爵家の者の役目です。」

 私は、ライ様が怪我をしているドラゴンに付いて行くように言う。

 「それは、サーシャも」

 人数が増えれば、それだけドラゴンが危険になる事を言う。

 「ライ様が行くか、ライ様もいかないかのどちらかです。」

 ライ様の決断を待つ。

 待っている間、ドラゴンを輸送するための準備が進められる。

 私も、馬車の中で手紙をしたためる。

 いきなり、馬車の扉が開く。

 「サーシャは行きたくないのかよ。ヘンリー殿に会えるのだぞ!」

 ライ様が言って来た。

 「・・・会いたいですよ。」

 私は、素直に言う。

 「なら、行くべきだろう。」

 「だから、行けないのです!」

 ヘンリー様に会えば、自分がどうなるかわからない。

 怪我をしているドラゴンをそっちのけで、行動をするかもしれない程、狂っていない保証はない。

 このような状況から互いを導くにはあまりにも、品位に欠ける。

 「ヘンリー様は、黄金のドラゴンと絆を結んでいます。その責任を一生背負わなければなりません。」

 そんな行動をヘンリー様にはさせられない。

 ・・・好きだから。

 この状況下ではあってはダメだ。

 例え、後悔しようが・・・堂々と胸を張って後悔すべきだ。

 「ライ様は、一生ドラゴンと寄り添わなければなりません。それがクローライト公爵家の者としての義務です。その義務を今この状況で果たせずに、いつするのですか?」

 そして、ここにクローライト公爵家としての義務を果たすべき者がいる。

 今、一緒に行かなければ、一生後悔する。

 堂々と胸を張り後悔させる事は、絶対に出来ない。

 私がクローライトのキャサリン様のもとへ帰る事が、出来なくなる。

 「私は、ライナス・クローライトの教育係のサーシャ・トラバイトです。聖女リオンとキャサリン様の姓を持つ者としての義務も含め、あなた様を導かなくてはなりません。」

 私は書いた手紙を皮の袋に入れ、馬車から降りる。

 「どうか、私の義務を果たさせてください。」

 私は、ライ様に皮の袋を差し出す。

 「・・・・。」

 ライ様は無言のまま、手紙を受け取りドラゴンに乗る。

 ”バサッ”

と、ドラゴンは羽ばたき、雨の空を飛んで行く。

 私は、ドラゴンが見えなくなるまで見守った。

 

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