導く心・・・それでもダメなら
フォスフォの町の宿屋のお庭に、ホレス様といる。
見える範囲に、ライ様の同行の兵に控えて貰っている。
「君を牢屋に入れてしまった事、殺そうとしてしまった事、本当に反省している。」
再び、謝ってくれるホレス様。
「どうして、そのようなお考えになったのですか?」
と、疑いの顔を見せながら、ホレス様に質問をする。
牢屋でのキャサリン様との出来事の後で、息子のセシル様から、私に関する資料を渡され、見てみたら想像と違っていた事で、申し訳ないと感じていた事を話してくれた。
「ヘリオドール侯爵家で捕虜となっていた者たちを、命を懸けて助けてくれた事感謝する。」
どうやら、私の事を調べる為に送っていた者たちがウィリアム伯父様の所に捕まっていたらしい。
「サーシャは、ドラゴンの事が好きなのだな。」
私は、庭をゆっくり歩きながら口を開く。
「元、ドラゴンの生息していた地の出身者です。ドラゴンが好きなのは、当然ですし・・・伯父のウィリアム・ヘリオドールも、ドラゴンが好きですから、捕虜たちを殺そうとはしません。」
そう、私はただ解放をして欲しいと、脅し気味に言っただけだ。
「サーシャは、いつルベライトに帰るのか?」
私は、歩いている足を止める。
”ドクッドクッドクッ”
と、鼓動が早くなる。
「無理です・・・もしかしたら・・・一生、無理かもしれません。」
私は、今にも泣きだしそうになる。
「何故だ?・・・ドラゴンたちは、サーシャの事をヘンリーの婚約者として見ているのだぞ」
私は、目を見開きホレス様を見る。
「冗談でしょう。」
ホレス様は、本当だと言う。
「そんな・・・いつから?」
私の質問にホレス様は、申し訳なさそうな雰囲気をだし、私が牢屋に入ってから数日後だと答えてくれた。
「クラウンコッパー家の者であるサーシャと、ヘンリーが婚約するなんて、もってのほかと当時は思って、サーシャを殺害しよう計画をたてたのだ。」
クローライトに行く前から・・・。
ヘンリー様は、私がクラウンコッパーの者であっても関係がなかったんだ・・・。
涙が、ボロボロあふれて来る。
私は、手で顔を覆う。
「クラウンコッパーの事を気にして、ヘンリーのもとへ戻れないと、感じているなら、ヘンリーは全く気にしていない。だから・・。」
「違うのです!!」
私は手で顔を覆ったまま、首を左右に振る。
「私が凶器と化すのが怖いのです。」
キャサリン様に会うまで私は、心を崩し落とす凶器を持った母しか実感した事がない。
そんな私が、人を好きになり、その人しか見えなくなったら・・・。
今度は私が、心を崩し落とす存在になってしまう。
・・・・そして、私はヘンリー様を想い、狂いだしている。
制御が出来なくなっている。
・・・つまり、このままいけば・・・私が凶器と化す。
「こんな狂った私のどこがいいのよ。」
ヘリオドール一族の能力なんて、図書館などの本や資料を見れば、答えが導き出せるモノ。
たまたま、その能力を披露できる場が、たくさんあっただけだ。
ヘリオドール一族でなくても、いつかは導き出せる。
・・・・私に価値などない。
「つまりヘンリーは、価値観でサーシャを愛しているのではなく、サーシャ自身を愛しているという事だ。」
「いやーーー!!」
私は、その場で崩れる。
体がガクガクと、震えている。
「人の何気ない一言で、心が満ち溢れる事があるのに、それを制御する事なんて無理な事だ。」
ホレス様は片膝を付き、私の肩を取る。
「愛とは制御するモノでなく、互いで導きあうモノだ。」
私は、ホレス様を見る。
「もし、それでもサーシャが、クラウンコッパーの刺客を招き入れたアリシアのような凶器と化したのなら、俺がサーシャを殺す。」
ホレス様は、脇の剣を私の前に鞘ごと出す。
「サーシャを殺した罪を背負おう。それが、罪ないサーシャを牢へと入れてしまった俺の出来る事だ。」
私は、目を見開きホレス様を見る。
そして、私は・・・ホレス様の剣の鞘にキスを落とす。
「・・・お願いします。」
「ああ・・・だから、もう、心を導いてあげろ」