花は着実に実り始める。
「・・・サーシャ。」
と、熱っぽい声で、私を呼ぶ声がする。
胸元が熱くなる。
”・・・・ヂヂュ~”
と、音がする。
どこかで聞いたことのある音・・・艶めかしい音。
そう、首筋に感じた感触が、首筋でなく、鎖骨と胸元の間で感じる。
・・・って、キスだよ!!
”ガバッ”
と、私は飛び起きる。
「ビックリした・・・。」
と、ライ様が目を見開き、体を後ろに引き驚いている。
”ガラガラガラ”
ここは、馬車の中だ。
「私・・寝てしまったのですね。」
昨日は、王都のクローライトの屋敷で早めにベッドに入ったモノの、眠れなかった。
だからって、馬車の中で眠るとは・・・。
それよりも、大きな地図が私の下半身にかぶさっている。
・・・もしや。
「ライ様・・もしかして・・・私は、地図を置くいい台にされたのですか?」
ライ様は、悪気もなく『もちろん』と、言った。
私は、ライ様を睨みつける。
「あのなー、怒るのはなしだぞ。寝てしまったサーシャが悪いんだから。」
まあ、そうだね。
すぐにライ様を睨むのをやめる。
「サーシャ、聞いて欲しいのだが・・・。」
私は、真剣に切り出すライ様に、姿勢を正し聞く態度をとる。
「このパッチワークキルトの本を見て思ったのだが、やはり綿花の生産は、プラシオの今後の事を考えると必要だ。」
パッチワークキルトには、表の柄の生地と、裏の生地の間に綿が入っている。
その為、どうしても綿花の生産が必要になるのだ。
だが、一般家庭の庭で簡単に育てる程、簡単に綿花を作る事は出来ない。
「グランディ伯爵の邸宅を改装して、農業を学べる学校を創設する。」
私は、目をパチクリする。
ライ様は不安そうに私を見る。
「ライ様・・・いつからそんなに・・・導けるようになったのですか?」
目の前にいるのは、あの傀儡公爵になりかねなかった者なのか?
「・・・ライ様ですよね。偽物だったりしますか?」
ライ様は私を睨む。
「本物だ。本物のライナス・クローライトだ。」
ライ様は、自分の名しっかりと名乗る。
「わかっています。ライソン様。」
再び、にらみを利かせるライ様。
「ワザとだろう。」
私は、満面の笑みを見せる。
「はい!!」
ライソン様だろうが、ライナス様だろうが、この成長に喜びを覚える。
クローライトの未来は、明るい方向へ歩んでいる。
◇ ◇ ◇
聖ライト礼拝堂の北側に位置するフォスフォの町。
ここは、カリスタ様の母校である聖ライト学院がある町だ。
夕方になり、フォスフォの町の図書館から今日泊まる宿へと戻る。
宿の庭に、金色の瞳の黒いドラゴンがいた。
私は、そのドラゴンに近づくと、いきなり私の頬にちょこんと鼻を付けた。
「始めまして、サーシャ・トラバイトです。」
私は、そのドラゴンを撫でる。
”ギュウ~”
と、気持ちよさそうに鳴いた。
「ライナス・クローライトだ。」
ライ様は、自分の名を名乗る。
「触ってもいいか?」
と、ドラゴンに伺いを立てる。
黒いドラゴンは、じっとライ様を見た後、ライ様の方へ顔を近づける。
”ギュッ”
「いいよ。」
と、返事をするように鳴いた。
ライ様は黒いドラゴンを撫でる。
「大父様のフォボスよりも、若干しっとりした感じの手触りだな。」
ライ様は、黒いドラゴンの感触を伝える。
ライ様は、マティアス様と絆を結んでいるフォボス以外、ドラゴンに触れるのが初めてだった。
リオンを殺したアリシアの血を受け継いでいる事を気にしていたらしい。
こんなにあっさりと、触る事を許して貰えた事に、驚いている。
「このドラゴンと絆を結んでいる方に、結んだエピソードを聞いてみますか?」
私の提案に、ライ様は嬉しそうに賛成をする。
私たちはドラゴンと絆を結んだ方を探しに、まずは宿に入る。
宿に入口に入ると、すぐに食堂がある。
その食堂を見渡すと、見た顔を見つける。
その者は椅子から立ち上がり、こちらに近づいて来る。
黒髪ロングの左肩付近で一つにまとめている男性。
「・・・ホレス様。」
私は、後ろに一歩、二歩と下がる。
ホレス様と絆を結んでいるドラゴンのイクシオンは、金色の瞳の黒いドラゴンだ。
間違えない、目の前にいるのは、ホレス・キンバーライト。
私を殺そうとした人だ。
私は、再び後ろへ後ろへと下がる。
「サーシャ、すまなかった!!」
と、ホレス様は、頭を深々と下げた。