買い物には意味がある
クローライト城に戻って来てから3日が経った。
キャサリン様は、翌日にはベッドから起き上がれるまで元気になった。
でも、腕の包帯はまだ痛々しく巻かれたままだった。
「サーシャ。」
と、キャサリン様が朝食後に私を呼んだ。
「はい、キャサリン様。」
キャサリン様は困った顔を私に見せる。
「か・・母さま。」
私は、恥ずかしさがぬぐえないまま、キャサリン様を呼んだ。
まだ、通常時に『母さま』と、言うのには慣れていない。
言える時は、あんなにも言えるのに不思議よね。
ホッとしたような微笑みをキャサリン様が見せた後、買い物を頼まれた。
渡された紙には、メーカー指定の黒インクに、これまたメーカー指定の紅茶の茶葉が書かれていた。
私は、支度をして城を出る。
クローライト領の領都クロランは、前世のヨーロッパにある水の都と似ていた。違いはというと、白壁に統一された外壁と、水色から青にかけての屋根であることかな?
確か前世の水の都は、オレンジっぽい屋根だったような・・・。
吐く息が白い、冬が近くまでというか、冬にどっぷり浸かる前といっていいかもしれない。
川から流れる風が、気温を下げていた。
優しくしてくれている侍女の娘さんのコート借りて着ている。
寒さは防げているが、吐く息と、耳が寒さと表していた。
私の腕には、ブレスレットが付いている。質に出すためだ。
冬物のコートと、コートを貸してくれた侍女とその娘さんにお礼と、キャサリン様にお渡ししたい物を購入する為だ。
なので早速外貨交換所へと行く。
待合室で、そこで待っていた人たちに、黒いインクの売っている場所やら紅茶の専門店やら、洋服屋なのど店の情報を聞く。
聞き終わるころには質の順番が呼ばれお金を入手する。
すぐに、情報のあった場所へ目指す。
まず向かったのは万年筆専門店。
そこで、指定された黒インクを購入。
その後、洋服屋へ入りすぐに気に入ったコートが見つかり購入。
洋服屋の店員に、紅茶専門店の場所を詳しく聞く。
外貨交換所の待合室で見つけづらいから迷子にならないようにと言われていたからだ。
そのおかげで難なく紅茶専門店を見つけ、指定された茶葉を購入。
次に向かったのは、ガラス工芸のお店だった。
そこに売っているきれいなガラスの瓶を購入。ガラスの瓶の中にはキャンディーが入っていた。
クロランの若者に水面下で人気となっている品だ。
そして、最後にとある店に入る。
キャサリン様へのプレゼントだ。
どうしても購入したい物があったのだ。
こうして、購入するもの全て購入して城へ帰る。
すぐに、頼まれた物を持ってキャサリン様の所へ向かった。
「只今、帰りました。」
キャサリン様の部屋へ入る。
「元気そうでよかった。」
男性の聞き覚えのある声、それも語尾を上げるクセのある声がする。
私は驚き、体を震わせる。
「エリック様。」
キャサリン様が、少し困った顔をしていた。
その顔でわかってしまった。
私に買い物を頼んだのは、エリック様が城に来ることを知って、私が動揺すると思ったキャサリン様が、気を利かせての行動だった事を。
「ご無沙汰しております。」
と、丁寧にエリック様に挨拶をし、エリック様がクローライト城に来たわけを聞く。
「今回のクローライト領で起きた事件の事でね。ドラゴンの圧死事件と関連があるんじゃないかと思ってね。」
ドラゴンの圧死事件。
小さい子供のドラゴンが、親のドラゴンと一緒に寝る事で起きる。寝ている間に、親のドラゴンの寝返り等で子供を圧死させ死なせてしまう事件。
現在は、管理され小さい子供のドラゴンは、大人のドラゴンと一緒に寝ることが禁止されている。
だが、子供のドラゴンの塊がドラゴンの大樹に埋葬されたのだ。
「陛下から報告があってから、調査をしているんだけど、未だに野生のドラゴンがルベライト領で見当たらなくてね。」
子供のドラゴンの圧死された塊が、南からドラゴンの大樹へと埋葬されたのが確認された事で、ルベライト領に管理されていない野生のドラゴンがいるのではという事で、調査をしていたのだ。
「今回のクローライトで起きた事件。卵からかえったドラゴンが圧死にあったんじゃないかという事で詳細を聞きに来たんだよ。」
なるほど。
・・・でも。
「クローライトを擁護するつもりではないのですが、違うと思います。」