大きな言葉
プラシオの町に再度入り3日が過ぎた。
プラシオの町に再度入った翌日には、中央機関が動いてくれた。
ラリマー侯爵領、ディディエラ侯爵領、グランデ伯爵領の調査が始まったのだ。
そして、ものの半日で盗賊団と結託している証拠があがり捕まる。
まあ、証言は10分で取れていた。
「ラリマー侯爵。別にあなただけが捕まり、あなただけ裁かれるのでもいいのですよ。それなりの功績ですからね~。ですが・・ラリマー侯爵はどう思いますか?」
の、ベルデ伯爵の一言が決め手だった。
ラリマー侯爵は、もう喋る、喋る、これでもかって程に、喋りまくる。
そのおかげで、盗賊団と結託していた貴族は3つだけと分かった。
そして、ドラゴンの卵を盗むようになったのは50年程前からという事も判明をした。
ラリマー侯爵領、ディディエラ侯爵領、グランデ伯爵領なのだが、10等分に分割。
ベルデ伯爵の一代限りの伯爵のような感じで、100年間期限付きの伯爵の位『百年伯爵』を創り、クローライト領出身で国の中央機関に勤務している国家鑑定士10名にその任を当たらせた。
そして、凄いと感じたのは以上の事を3日でやったのだ。
町を守っていた赤いドラゴンたちもその頃には、もう自分の巣へと帰っていた。
プラシオの町にいるドラゴンは、国家鑑定士の気違い・・気高きドラゴンの3頭と、無理やり絆を結ばされていた2頭のドラゴンだけとなった。
・・・の、だが。
キャサリン様と別れてから10日。
私は、クローライト城に戻って来た。
「・・・・・。」
私は言葉を無くしていた。
「ごめんなさいね。こんな格好で・・・。」
キャサリン様はベッドで横になっていた。
まだ、盗賊団のボスが捕らえられていない中、クローライト城へ戻って来たのは、キャサリン様が倒れたと情報が入ったからだ。
ベルデ伯爵と絆を結んでいるリシテアにお願いして、ジジイ様にプラシオの町に来て貰い、再びドラゴンを町の警備にあたって貰うようにお願いをした。
そして、ベルデ伯爵が中央機関に証拠を届けるついでに、クローライト城まで届けてくれる事となった。
きっとベルデ伯爵が機転を利かしてくれたのだろう。
・・・ありがたい事だ。
「ごめんなさいね。このような格好で・・・。」
キャサリン様はベットから上体を起こす。
そして、私の方を向いて『おかえりなさい。』と、言ってくれた。
「・・・・・。」
私は、言葉が出なかった。
だが、言葉をかけなければ・・・。
「ご、ごめっ」
謝罪をしようと言葉を発した私に、キャサリン様が手で言葉を静止させる。
その腕には、包帯が巻かれていた。
「サーシャさんがした事は、間違えではないわ。」
クローライトの為にしたことはわかっていると言ってくれた。
「報告が入るたび、感心していたのよ・・・でもね、それと同時に・・・苦しいとも感じたの。」
キャサリン様が胸に手を置く。
「サーシャさんに『母さま』と、呼んでくれた言葉が耳に残っていて・・・。」
キャサリン様の目から涙が零れた。
「サーシャさんの母になりたいと思っているから、嬉しいはずなのに・・・悲しくて・・・悔しくて。」
私の視線が歪んでいた。ボロボロと涙が流れている。
「クローライト公爵家の者として喜ぶべき事なのに・・・喜ぼうとすると、胸が苦しいのよ。サーシャさんのしている事は正しいのに・・・苦しいの。」
”バサッ”
私は、キャサリン様に抱き着く。
「・・・・・。」
ただ、涙を流すしか出来ない。
何て言葉をかければいいのか・・・。
・・・・謝罪ではない。
キャサリン様は、クローライトの為にしたことを理解している。
・・・・私のかけるべき言葉。
「サーシャさん。」
キャサリン様が私の名を呼び、抱きしめてくれる。
・・・何か、寂しいと感じた。
私は、優しく抱きしめられている中、首を左右に振る。
・・・伝えるべき言葉が出ない私なのに、キャサリン様に言って欲しい言葉を願う。
「サーシャさん?」
再び、首を左右に振る。
母として弱っているキャサリン様を困らせたくなくても・・。
キャサリン様にかける言葉がわからなくても・・・。
我儘だとわかっていても・・・。
「・・・サーシャ。」
・・・肩から震えた。
先ほどからずっと流れている涙が、滝のようにあふれて来る。
「・・・母さま。」
キャサリン様に言うべき言葉が・・・出てきた。
「母さま・・母さま・・っ・・・母さま、母さま・・・母さま。」
キャサリン様に再び会えた喜びも、申し訳ない気持ちも、全て『母さま』という言葉に替えられる。
その、大きな言葉で・・・。
キャサリン様の大きさ、それを表すような大きな言葉。
私は何度も、何度も大きな言葉でかえす。
「おかえりなさい。私の可愛い子よ・・。」
こうして私は、キャサリン様のもとに帰って来た。