リュヌの銀
「・・・終わった。」
部屋にいる数人が一斉にため息が漏れる。
それもそのはず、貴金属の目録作りに1日半かかったのだから。
貴金属を取り出しテーブルに置かれた布の上に置かれ、その上に紙を乗せる。
その上から、判子の持ちての丸い部分で紙をこすり、貴金属の形を浮かび上がらせる。
その作業を2回してから、貴金属の鑑定をする。
鑑定で出された金額を2枚に記入する。
余白に貴金属の特徴を2枚ともに記入。
その紙をずらして割り印をし、一枚は国家鑑定士側に、もう一枚は私側にそれぞれまとめる。
そのような作業を1日半もしたのだ。
・・・疲れるよな。
「これで、もう調べるものはないよな。」
”キュウ キュウ グルルル”
ヴァルナの鳴き声に、デリック先生がしかめっ面をする。
「まだ、あるとヴァルナが言っているのだが・・・・。」
ええ?!
どこに?
私は、貴金属の入れているワンピースを見回す。
”キュウゥ・・”
「鞄の中と言っている。」
その言葉に、ハッとする。
「ああ、あります。質に出すつもりがない物が・・・。」
私は鞄を開け、手の上に乗るぐらいの大きさのベロアのような生地の袋を取り出す。
その中から、銀の櫛を取り出す。
ドラゴンの模様が彫られた櫛を渡す。
「母の形見の品です。」
私が亡命する際に寄った母の実家で、伯父から貰った物だ。
伯父とは手紙のやり取りのみで、会ったのがその時初めてだった。
伯父は、私の生まれた国の隣国で宰相をしている。
隣国なので、革命後の国のやり取りの関係で、革命家たちに直接会いに行き『未来設計がなっていない』と、革命家たちに叱咤をするほどの強者だ。
伯父は、私に伯父の家にいるように言われたが、生まれた国で革命が起きたら、革命家たちに協力したとはいえ、国民たちは、国を傾かせるきっかけとなった私を許さないと、安易に推察される。
そんな私を匿えば、伯父の国まで被害が及ぶ恐れがあるため、丁寧にお断りをした。
伯父は本当によくしてくれて、私専用の侍女のマリーは、伯父がよこした侍女だった。
マリーには、いろいろと教えてもらったし、姉のように慕っていた。
ホルンメーネ国で、離れ離れになったけど元気しているかな。
母の形見の銀の櫛が、鑑定に入る。
”キュウ~、キュウウ~、キュフゥ~”
ヴァルナの様子がおかしい。なんか酔っているような・・・。
「なんて物を持っているんだ、これは幻の銀『リュヌの銀』ではないか。」
デリック先生が言うと、部屋にいた鑑定士全員が銀の櫛に群がる。
リュヌの銀か・・・懐かしいな。
たった一つで、庭付き一戸建ての家が購入できる金額を渡された品が、リュヌの銀だった。
リュヌの銀は、銀に分類されるが、金の要素も備わっている。
ドラゴン酔わせの銀なのだ。
それにしても・・・
”キュウ~、キュウ~”
と、歌を歌っているようにヴァルナが鳴いている。
頭も左右に楽しそうに振っているし・・・大丈夫かな?
ドラゴンそっちのけで鑑定士は、リュヌの銀に集中しているし・・・。
こちらも、大丈夫なのか?
宴会会場にように・・・なってはいないか?
そろそろ、お開きにした方が・・・。
酔っぱらいを連れて帰る人は、確保できてますか?
忘れ物はありませんか~?
お持ち帰りはダメですよ~。
幹事は、どこにいますか~?
最後に、一本締めをするべきですか?
なんか・・・私だけ取り残されている気分だな~。ははははっ
『リュヌ』って、発音しづらいですね。
フランス語で「月」という意味です。
月の色のイメージが、金と銀だったのでこの名にしました。