・・・覚悟
私は、ソファーに座りじっとハミッシュ陛下とカリスタ様が来るのを待っている。
・・・心臓の鼓動が未だに早い。
顎の奥ががくがく震えているのが分かる。
「サーシャ、どうしたのだ?」
と、ハミッシュ陛下とカリスタ様が不安そうに入って来た。
「お願いがあります!」
私はソファーから立ち上がる。
そして、床に膝を付き土下座をする。
「サーシャさん!」
カリスタ様が驚くように私を呼ぶ。
「今すぐ、何も聞かずに私を国外へ逃がしてください!!」
ハミッシュ陛下は私の前で片膝をつく
「サーシャ、どういうことだ?」
「何も・・理由を聞かないでください!!」
私は切羽詰まり、今にも泣きだしそうな声で言う。
「まずは、頭をあげろ!」
ハミッシュ陛下は私の腕を掴み私の上体を起こす。
「理由を言え。理由を言わなければ、出来ることも出来ない。」
王だからこそ、無理やり手を回すことが出来るが、その責任も王として負わなければならない・・・わかっている。
でも・・・
「お願いです・・何も・・」
私は涙がこぼれた。
ハミッシュ陛下は、涙を流している私を見てもただ話してくれるのを持っていた。
「サーシャ・・その首筋。」
ハミッシュ陛下の言葉で、ヘンリー様にキスされた首筋に手をやり隠す。
「ごめんなさい。当初の約束をたがえる事になるのです。」
私は、ハミッシュ陛下に初めて会った時にへミッシュ陛下に頼まれた事。
ルベライト公爵家を元のようにして欲しいという事
「ヘンリーは、顔に表情を出さなくても、領民と近い位置にあると言っただろう。何故約束をたがえるというのだ?」
「・・・一緒に・・・泣くことが・・・出来ないからです。」
私が、自分で言った言葉なのに、それが出来ない。
「どうしてだ?」
どうしてもとしか言えない。
「理由を言え・・・前世のよしみだろう。」
ハミッシュ陛下もつらい顔をしだす。
もう、言うしかない・・・。
「・・私は・・・私は・・サーシャ・・・サーシャ・クラウ」
”バーーーーンッ”
と、勢いよく部屋の扉が開く。
「陛下!!王妃!!ご無事ですか!!」
と、慌てる聞き覚えのある男性の声。
そして、扉からたくさんの兵が入って来た。
「今すぐ、その女を捕らえろ!!」
と、聞き覚えのある声の主ホレス様が、剣を抜き兵に指示を出す。
ああ・・・間に合わなかった。
・・・・私はすぐに悟った。
「サーシャ・クラウンコッパー・・・陛下に何をするつもりだったのだ?」
兵士に摑まれ、低い体勢になっている私。
ホレス様は私の髪を鷲掴み顔を上げさせ睨んでくる。
私は、髪を引っ張られる痛みで顔が痛みで歪む。
「クラウンコッパーめ。リオンと同じように、陛下と王妃も殺すつもりだったのか?」
「違う」
否定をしても、わかっては貰えなかった。
「サーシャを離せ!」
ハミッシュ陛下は、ドスの利いた声で言う。
「それは出来ません。この女はクラウンコッパーの人間なのですから。」
ホレス様はハミッシュ陛下に説明をする。
「リオンを殺したクラウンコッパー公爵家は、80年前にお家断絶をしたはずだ!!」
「それでも、この女はクラウンコッパー公爵家の血筋の者なのです。その女を牢屋へ連れて行け!!」
と、ホレス様は兵士に伝える。
そして、兵士に連れていかれ部屋を出る。
「待て、そんな公にするんじゃない!!」
と、大声で怒鳴るようにハミッシュ陛下は言うが、兵士は誰も聞き入れてもらえず。
私は晒されるように連れて行かれる。
◇ ◇ ◇
「陛下、大丈夫でしたか?」
ホレスはホッとした声で俺に言う。
俺はホレスを睨みつけながら、ホレスの横を通り過ぎ部屋の出入り口まで行く。
「誰かいるか?!」
すぐに兵士が数名駆け付けて来る。
「まず一人は、ピアーズを呼んで来い。」
兵士が一人すぐに立ち去る。
「次、ヘンリー・ルベライトを丁重に王宮の南の塔に連れて行き、誰も入れないように警護しろ。特に女性は近寄らせるな。」
兵士が一人去る。
「次、マティアス・クローライトと、その奥方をここへ呼べ。」
兵士がまた一人去る。
「次、セシル・キンバーライトをここへ呼べ。」
兵士がホレスを気にしながら返事をする。
「何故、息子をお呼びになるのですか?」
「お前では、話にならないからだろう!!?」
怒鳴り散らすようにホレスに言う。
「次、君だな」
と、俺は兵士の一人を指さす。
「今すぐ、兵を集めて、サーシャの荷物を全て取りに行け。もし、サーシャの持ち物が一つでも無くなっていたら・・・このホレスを牢屋にぶち込め。」
その言葉にホレスが驚く。
「何故あのような者をかばうのですか?」
「サーシャが何をしたと言うのだ?」
何も、武器など持っていなかったぞ。
丸腰で俺を殺せるとでも、それほど俺は非力なのか?
・・・それだけじゃない。
「お前は・・・俺の器を汚したのだぞ。」
何もしていない相手を、俺を理由に牢屋にぶち込む。
それも・・・勝手に
もしサーシャが、クラウンコッパー公爵家の者であるなら、外交に関わる事になる。
その責任は誰がとると言うのだ?
大陸を挟んでとなると、筆頭に挙げられるのはこの俺しかいない。
「この国の王である俺の許可なく・・何もしていないどころか、感謝すべき相手である者を・・・それも丸腰の相手を牢屋へぶち込んだんだ・・・それも外交の重要人物となりうる者をだ・・・覚悟は出来ているな。」