船上のプロローグ
「ドラゴニア王国が見えてきたぞ!」
船上の甲板の柵へ身を乗り出し、地平線を望むと微かに陸地が望めた。
船員が言っていた『ドラゴニア王国』だ。
私は、喜びと不安で心をドキドキさせていた。
私の名前はサーシャ
私には、『浅見沙弥那』という享年27歳の女性の記憶がある。
いわゆる前世の記憶というモノだ。
浅見沙弥那の人生は家族、親戚に愛されず、精神的な虐待を受けていた。
肉体的虐待も最悪なのはわかる。
だけど、精神的虐待は肉体的とは違い、周りに助けを求めても子供の我儘として扱われてしまうのだ。
浅見沙弥那の人生を終えた今でも思う・・・もし、肉体的虐待を一度でも受けていたら、周りは助けてくれたのだろうかと・・・起きてもないことなのにね。
浅見沙弥那の人生の心の支えは、本や漫画、ゲームにテレビなど、特に恋愛や友情などの心温まる物語が好きだった。
家族愛に関しては、現実との違いに切なさを感じながら、それでも惹かれるモノがあった。家族愛に憧れていたのかもしれない。
なんにせよ、愛情はそういったモノから学んだ。多少危ない人間だったのは認める。
・・・自分でいうのはなんだけどね。
特に心の支え、胸キュン度が上昇したのは『ドラゴンフライ~奇跡の絆~』と、『ドラゴンフライ~続・奇跡の絆~』という乙女ゲームだ。
これがまた、恋愛ルートのハッピーエンドは、もちろんのことバッドエンドでも、通常のノーマルエンドですら心温まるストーリーがあるのよ。
異世界ラーイ
ドラゴンとユニコーンの2種類の幻獣がいる世界。
現在は、ドラゴンしか生息せず、それもドラゴニア王国にしかいない。
そのドラゴニア王国に、母親と逃げてきたヒロイン『リオン・トラバイト』
母親と逸れたものの、ドラゴンに愛される金の瞳のおかげで、赤の公爵に助けられ、公爵家で家族同然に育てられる。
そして、ドラゴンに好かれる者のみが通うことのできる学園『聖ドラゴニア学園』に入学をすることに、そこから、ゲームが始まるのだ。
さて、先ほど地平線に見えてきた陸地がどんどん大きくなって来ている。
この陸地というのがジャンナ大陸といい、ドラゴニア王国とピューゼン王国の2つの国が存在する。
そして、ドラゴニア王国で気づいていると思うが、この世界は乙女ゲーム『ドラゴンフライ~奇跡の絆~』『ドラゴンフライ~続・奇跡の絆~』(やたら長いので『ドラフラ』『続・ドラフラ』と、略すね)の世界なのである。
私が、浅見沙弥那の記憶を取り戻したのは、今から12年前の5歳の時。
異世界に転生したのは、すぐに理解した。
そして、ポツポツと『ドラフラ』『続・ドラフラ』に出てくる名前、単語が気になり調べると、それが間違えではないことが判明。「乙女ゲームの世界だよ」という事実に。
最初は戸惑いましたよ。
ストーリーが好きであろうと現実では考えられない。わざわざゲームの世界を現実にするのかいと突っ込みたくなったわよ。全く関係ない世界でよくないっていうことも考えましたとも。
でもね・・・しばらく経つと現金な人間よね、狂喜に震えたわよ。
一番好きな乙女ゲームの世界だよ。
すべてのルートをクリアして、クリア後に見える後日談メッセージも全てコンプリートしたのよ。
胸キュンが、嵐のごとくキュンキュンするじゃないの!
そして、次に思うはドラゴニア王国へ行きたい。
でも、私が行ってもいいのだろうかとも思った。
私の生まれた国にあった資料から、ヒロインであるリオンはすでに亡くなっている。
ノーマルハッピーエンドである『大団円』に行っていたように資料から読み解けた。攻略対象者全員との仲良しエンディングね。
亡くなるはずのないルートだったが殺されたのだ。
これが、ゲームの世界の幻想とゲームの世界であっても現実の違いなのかもしれない。
そして、ゲームのストーリーが終わっているなら、前世の記憶があっても意味がないと思われた。
・・・だけど、そうでもなかったのよね。
私の生まれた国は、現在、時代の変化を求めているような雰囲気なのよ。
たとえるなら・・・幕末チックな世の中に突入しそうな感じ。
なので、国が荒れる前に亡命する必要があった。
そうなると・・・やはり、ドラゴニア王国が頭をよぎる。
どんどん、ドラゴニア王国のことで頭がいっぱいになる。
そうして、ドラゴニア王国に行くしか選択肢が残らない脳内になってしまった。
さて、ドラゴニア王国を目指そうで、今現在にいたる。
『聖地巡礼じっくり堪能ツアー~いっそ骨をドラゴニア王国に埋めてしまいましょう計画~』である。
ウフフフフ・・・
心の笑いが止まらない。きゃっ、ほーい。
「ドラゴニアに着くぞ!!」
と、船員の言葉に我に返る私。
例え、現実離れした世界であろうとも、ここは今の私の現実世界。
冷静になるのよ。
サーシャ。
サーシャ・カーネリアンとして生きるのよ!