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終わった世界のエインヘリヤル ~世界が終わっても彼ら彼女らの物語は終わらないようです~  作者: 七詩のなめ
もしもの世界は異世界ですか? ~彼は英雄になることを拒否したようです~
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王冠種の会合は荒れそうですか?

 《プランドラ》の総数十万を超える軍勢が日本帝国の首都に進行するという日本帝国史上――あるいは人類史上――最も最悪な一日となった今日を、後に奇跡的に生き残れた日として《明けの明星事変》と呼ぶ。

 単に《プランドラ》が攻めてきたのではなく、王冠種一体による統制の取れた進行であったため、危うく日本帝国は沈没するところだった。しかし、日本在住の《英雄》の一撃により、人類は初めて王冠種に手傷をを負わせ、追い詰めた上で撤退させることに成功した。




 実際であれば、王冠種二体による進行だったが、恭介と対話したユーピテルの怠慢により不完全燃焼となった《プランドラ》側だが、ユーピテルの釈明と作戦の見直しを兼ねて予定とどおりにとある場所で集まっていた。

 空の支配者であるユーピテルの帰りを以て、十二体の王冠種の集合を見る。ただし、ユーピテルともう一体の王冠種以外の視線は厳しい。

 当然、ユーピテルの怠慢による世界救済の遅延がそうさせているのだが、無表情のユーピテルは何を思っているのかまるでわからない。

 そうして、用意された円卓にすべての王冠種が腰掛けるや否や、ボロボロな姿の王冠種が喚く。


「テメ……ユーピテル!! 裏から攻めるって話だったのに、一体どこで油売ってやがった!? おかげで俺様はこんな姿じゃねぇかよ、なぁ!?」

「……?」

「とぼけてんじゃねぇぞ、あぁん!?」


 もちろん、ユーピテルの冗談だ。だが、無表情の冗談だったため誰もそれが冗談だとは思えていない。

 程なくして、怒り狂っているボロボロの王冠種を諌める者がいた。


「まあまあ。いいじゃないか、アポロ。命あっての何とやらって言うし。それよりも、だ。ユーピテル……君らしくもない失敗だね。念の為、釈明を聞かせてもらえるかな?」

「そう……ね……見つけた……わ……」

「へぇ、それは一体何を?」


 足を組み、余裕な表情で見ている王冠種の名はメルクリウス。幼い体ではあるものの、タキシードのような服を着て、片眼鏡を付けた少年である。

 メルクリウスの一言にボロボロの王冠種――アポロは押し黙る。その姿から、アポロよりもメルクリウスのほうが立場が上であることははっきりと見て取れた。

 続けてすべての王冠種の視線が集まる中、ユーピテルは口を開いた。


「御門……恭介……」

「……そうか。ようやくか」


 メルクリウスはなにか納得したように顔の前で手を組んだ。

 他の王冠種もその名を聞いてある者は笑い、ある者は悲しい目をする。それぞれ思うところが違うようで、そこだけは団結が取れていないように思える。おそらくは各々が持っている“御門恭介”への想い故だろう。

 ともあれ、“御門恭介”の存在の確認にはそれほどの価値のあるものであると考えられる。

 言葉を続けるようにユーピテルが話す。


「手助けに……行けなかったことは……謝るわ……でも……わかるでしょう……?」

「……ああ。悔しいが、日本を潰すよりそっちのほうが大事だ。それなら仕方ねぇ……仕方ねぇが……」


 アポロは仕方ないと言いつつも歯ぎしりをして悔しそうに円卓の中心を見つめていた。心做しかアポロの周囲が熱い。それこそがアポロの能力だと言わんばかりに熱くなってくアポロの背をメルクリウスが叩いて正気に戻す。

 このままではせっかくきれいに整えられた円卓が駄目になると考えての行動だろう。

 やがてアポロは正気に戻ったが、熱くなる理由を吐露した。


「あいつ……人間風情が俺様を……」

「人間も進化しているというだけの話さ。何も驚くことじゃないだろう?」

「だとしても、あいつは……っ! いいかテメェら! あいつは俺が殺る。極東の《英雄》は俺の獲物だ、誰も手を出すんじゃねぇ!!」


 荒ぶる息をそのままにしてなし崩しのように決まったことは棚上げした。

 それよりも気になることがあったのだ。それはユーピテルが告げた人物のことである。

 ゆえにメルクリウスはユーピテルに問う。


「彼は……どうだった?」

「何も……知らなかった……わ……」

「知らなかった? 本当に?」

「ええ……ただ……彼は……彼だったわ……」


 それは優しかったというべきか。あるいは他の意味を持っているのか。ただ、ユーピテルの優しい笑みからは悪い感情は伺えない。

 仲間であるメルクリウスにはその感情の機微が受け取れる。故に、その言葉を大まかに受け取れたということになる。同時に、他の王冠種たちも。

 それならば問題はない。一同は一斉にうなずいた。

 そして、“御門恭介”が真に王冠種たちが思い浮かべる“御門恭介”であるならば、もうやることは決まっている。ユーピテルがその合図を出すかのごとく、皆の視線を受けて宣言した。


「世界の調和が……始まるわ……私達の願いの……成就は近い……みんな……世界の救済を……始めましょう」


 一斉に立ち上がり、王冠種は笑った。まるでここからはじまるような、今までが小手調べであったかのような、そんな口ぶりだった。

 しかして、その言葉は正しいのだろう。王冠種はその力を以て文明を殺す。神の具現と言われるほどに彼ら彼女らは言葉通りに神の御業を体現できる。その本領があれば、あるいは今日の日本帝国の勝利はあり得なかっただろう。

 そして王冠種の長たるユーピテルは今、その本来の力を使おうと宣言したのだ。本格的に世界の救済を始めるとはそういうことだ。

 かくして、各々集会から解散していく。おそらくは自分の担当地区に戻って世界の救済を行うのだろう。しかし、ユーピテルは去ろうとしているメルクリウスを呼び止めた。


「メルクリウス……」

「なんだい?」

「あなたは……御門恭介の現状を……どうみるの……?」

「どうも何も、実際出会ったわけじゃないからなんとも言えないね。逆に聞くが、実物に出会った君はどう思うんだい?」

「そうね……彼は……面倒事に巻き込まれた……と……言ってたわ……」

「巻き込まれた、か……ということは」


 メルクリウスとユーピテルはどうやら同じ見解に至ったらしい。言葉を介さずとも目配せだけで大まかな検討がついたようだ。

 元々、メルクリウスたちは皆、御門恭介がやってくるものだと思っていた。そのための特異な感知能力だって持っている。故に一向に顔を見せない御門恭介のために先のような大規模な侵略に赴いたわけだ。

 しかし、その思いとは裏腹に恭介は巻き込まれたと言った。その言葉が指し示すものはたった一つしか無い。

 そして、それを確かめるようにメルクリウスが答えを言う。


「彼を呼び出した張本人がいる……そう考えるんだね?」

「そう……でも……」

「ああ。もしもそんな事ができるなら、その張本人は僕たちと同じかそれ以上の力を持っているということになる。時間跳躍か、あるいは別世界から人を連れてくるなんて、それはもう……本物の神様(・・・・・)のようなものだ」


 果たして、その神は敵か味方か。どちらにせよ、警戒するに越したことはないだろうと考えつつも、ユーピテルがメルクリウスにその話をした意味をメルクリウスはもちろん理解していた。


――――おそらくその神は、全てを知っている(・・・・・・・・)


 だから、ユーピテルが何かを言う前に、メルクリウスは頷いてみせた。


「わかったよ。その件は僕の方で調べておこう。その表情だと他にもなにかあるんだろう?」

「ええ……十三番目が……見つかったわ……」

「本当かい!? それはすごい……今日一番の収穫じゃないか!」

「でも……御門恭介に……阻まれた……わ……」

「なんと……やっぱり、彼は特別ということかな。まあ、どのみち僕たちの目的には十三番目は絶対に必要だ。たとえ彼が邪魔をしてきたとしても、十三番目は手に入れなくちゃね」

「そう……ね……」


 話すべきことはもうないと悟ったのか。メルクリウスは不敵な笑みを浮かべながらどこかへ去っていった。最後に残されたユーピテルは己のせいで濁ってしまった曇天の空を見上げながら、もう一度円卓の席に収まる。

 そうして、一息つくと対角線上の椅子に見知らぬ誰かが腰掛けているのが目に入った。

 男というには美しく、女と言うには凛々しいどっちつかずの人間だった。けれど、その人間は悪魔のような笑みを見せながら一言こう告げたのだ。


「あまり、ボクの邪魔をされると困る」


 直感的にこの人物こそが“御門恭介”をこの世界に呼び寄せた張本人であると悟ると、なにかされる前に仕留めなければとユーピテルは自身が持ちうる最大最速の攻撃である雷撃を落とす。

 が、その人物が座っていた椅子が焦げ臭くなるだけで、その人物の死体は愚か本当にそこにいたのかと思えるほどにまるっきり何もなくなっていた。

 幻覚だったのか、あるいは本物だったのか。もうユーピテルにはわからなくなっていた。

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