7話 一段落
翌日、午前5時半。
なんとなく気になって、今日も神社に来てしまった。
でも、もう帰る。
きちんと見届けた。月上君が、大量のお賽銭を入れるところを。
──さて、どうなるかな。
◆◆◆
7月4日の木曜日。
今日も授業を終え、昼休みに交わしたちょっとした約束を思い出しながら病院へ。
先に病院に行った瞳から既に、努の身体を通して結果は聞いてある。
けど、僕の横を不安げに歩く月上君には知らせていない。
一応、最高の結果だったと言えるだろう。
◆
三ノ上さんの病室の前へ到着。
すー、はー、と深呼吸をして、月上君がドアをノックする。
「はーい」
「っ!」
先に入っていた瞳の声ではない。
僕にとっては、聞きなじみのない声。
だけど、月上君にとってはそうではなかったようで。
「か、香里!」
勢いよくドアを開けて、病室へ入る月上君。
僕も後に続く。
そこには。
「ノボル。……えへへ」
内心、ほっとした。
記憶を取り戻した三ノ上さんの姿を、この目で確認できたから。
三ノ上さんは、ベッドに腰掛け、月上君の顔をしっかりと捉えていた。
──すると。
「ノ、ノボル!?」
三ノ上さんが驚きの声を上げた。その視線の先には。
「……か、かおりぃ……! よがっだ……!」
月上君の号泣する姿。すっごい泣いてた。
◆
泣いてる月上君をよそに、瞳が三ノ上さんに現状の報告をする。
僕たちが来る前にだいぶ伝えていたらしく、報告はかなり短く終わった。
「ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をして、僕にお礼の言葉を言ってきた。
「お役に立てたようで何よりです」
だから僕も、丁寧に返しておいた。
「高宮……ぐすっ、本当にありがとな」
やっと泣き止んだ月上君にもお礼を言われた。……けれど。
「月上君はお金を払った──つまり役に立った側の人なんだから、もっと堂々としてていいのに」
「そうは言っても、解決策を考えてくれたのは高宮だ。……本当に、ありがとう」
「……うん、どういたしまして」
お似合いのカップルだな、と。
そう思った。
◆
「すぐに退院できそうなんです」
「よかったです。三ノ上さんの身体に異常がなくて」
前にもしたらしいけど、記憶を取り戻した今日また検査をして、特に問題は出なかったらしい。
「あっ」
と、三ノ上さん。
「おめでとうございます」
「へ?」
いきなり妙なことを言われたから、変な声が出てしまった。
一体何がおめでたいのだろう。僕に対して言っていたようだけど。
「あなたも──高宮さんも、望む結果が得られたようで」
「あ……はい。おかげさまで。ありがとうございます」
素直にお礼を言っておこう。
◆
三ノ上さん曰く、1年参りをしていた僕とすれ違ったことがあるのだとか。
その時の僕の姿と今の姿が違うから、願いが叶ったのが分かったらしい。
さて。
「僕らは先に帰ろうか」
「そうだな、巡」
「そうね」
恋人同士で話したいことがあるだろう。
「何から何まで悪いな、高宮」
「気にしないで、月上君。……それじゃ、失礼しますね」
僕に続き、努と瞳も病室を出る。
◆◆◆
その後。
本当に何一つ身体に問題がなかったらしく、三ノ上さんは翌日の金曜日には裃高校に見学に来ていた。
授業間の10分休憩で少し話した限りだけど、簡単なテストを受ければ裃高校に入れるのだとか。
ということはつまり、学力はそれなりにあるということ。
なぜ学力が僕らと同じくらいあるのかと訊いたら、
『幽霊の姿で授業を受けていたからです』
と言っていた。
それって違法視聴みたいなものでは……と思ったけど、さすがに言わないでおいた。
そもそも幽霊に法律が効くのか怪しいし。多分効かないし。
月上君、本当に嬉しそうだった。周りの目を気にせず三ノ上さんに抱きついてたし。
周りからヒューヒュー言われてるのに気づいて、三ノ上さんはものすごく恥ずかしそうだったけど。
──でも。
三ノ上さんも、喜んでいた。
ふさぎ込んでしまった月上君のために、自分の記憶を代償に生き返ろうとした、ということも(僕だけに)教えてくれた。
三ノ上さんとは友達になった。
たった10分の間に『巡』『香里』と呼び合う仲に。やっぱ女子同士の絆というか、コミュ力ってすごい。
改めて、そう思った。