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巡る僕らの叶い頃  作者: イノタックス
1章 叶い、始まる
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6話 三ノ上香里の真相

放課後。


「香里、入るぞー」


学校から病院に向かう道で月上君に会ったから、弥勒沢姉弟も合わせた4人で一緒に病室に入ることに。

三ノ上さん、今日も起きていた。……そして。


「ノボル」


そう、口にした。



「か、香里……!?」


目を見開き、口をポカンと開けて驚く月上君。

当たり前だ。昨日まで何を言っても──名前以外は反応しなかった三ノ上さんが、彼の名前を呼んだのだから。


「香里! お、おれっちのこと、分かるのか!?」


ただ、反応したのは一瞬だけ。

『ノボル』と呟き続けるけど、他の言葉には反応していない。


はっ、と何かに気付いたように、月上君は僕を見た。


「何をやったんだ……?」


心底不思議そうな声で。

やったことは、とても簡単なこと。


「お参りしたんだ」

「お参りって、裃神社にか? ……ってことは、記憶を戻してくれって──」

「いや、そうじゃないよ」


僕も僕で、説明を飛ばしがちになる。

気を付けよう。


「正確には、お賽銭を入れてきたんだ。足りていない分の(・・・・・・・・)お賽銭の一部──500円を、ね」

「……高宮、『足りていない分』ってのは、まさか」

「分かったみたいだね、月上君。そう、三ノ上さんが払えなかったお賽銭だよ」



とても簡単な話だったのだ。


幽霊の身体で1年参りをしたけど、幽霊だからお金は持っていない。

だから代わりに、自分の記憶を払って生き返った。

──ここまでが、努と月上君が考えた経緯。

だけどこの説には、大きな疑問を生じさせる部分があった。


『なぜ三ノ上香里は、『カオリ』という単語を憶えていることができたのか』。

それについての説明が、できていなかったのだ。


そこで僕は、家のパソコンであることについて調べた。

『葬式_持たせるお金』で検索したのだ。

以前何かで聞いたことがあった。『三途の川の渡し賃』を持たせて、火葬するのだと。


で、検索結果だけど……案の定出てきてくれた。6文銭、だとか。

現在の価値で300円程度の6文銭を、本物を入れることはできないから、紙に印刷して入れるのだとか。


──ということは。

その印刷された6文銭が、幽霊になって実際に使えたのだとしたら、その分はお賽銭を払えたのだろう。

そして、その『払えた分』の記憶だけ持って、生き返ったのだ。



「で、でも!」


月上君、まだ何か納得できていない様子。


「なんで『カオリ』って単語だけだったんだ?」

「『一番大事な言葉』だったから、だろ、巡?」


努が答えてくれた。さすが努、その通りだよ。


「うん、もちろん推測の域を脱しないけど、彼氏である月上君から呼びかけられた時の、名前、というか言葉だからね。呼びかけられた時に反応できるように、その言葉を選んだのかもね」

「香里、そこまで考えてくれてたのか……」


……というのが、この件の全てだろう。


「で、ここで努と瞳も合わせた3人に相談。僕は今日、500円をお賽銭として払った。結果、呼びかけに反応できるまでには回復して、月上君の名前も思い出した。ということは──」

「もっと払えば、記憶が戻るかもしれないのね!」

「そういうことなら、喜んで協力するよ。いくらくらい──」

「──いや」


乗り気の瞳と努を、月上君が制する。

思った通り。本気で三ノ上さんのことが好きらしい。


「おれっちが全額払う。これは元々、おれっちの問題でもあるんだ。高宮達には悪いが、おれっちに全額払わせてくれ」

「でも、500円で単語一つしか思い出せないんじゃ……」

「一生かけてでも、払いきってやる」


すごい人だなぁ、と。

純粋に、そう思った。


「じゃあ、残りは全て月上君に払ってもらうことにするよ」

「で、でも、残りのお金がいくらかなんて分からないじゃない」

「分かるよ」

「え?」


多分、だけど。瞳の心配には及ばない。


「17450円だと思う」

「……えらく具体的な数字ね」

「うん。僕が1年参りで払ったお賽銭から、300円と500円を引いた数なんだ」

「……ああ! ようやく巡の考えてること、分かってきたよ」


努、もう理解したらしい。


「『カオリ』と『ノボル』がそれぞれ300円と500円だったのは、両方とも大切な言葉だったから、そこまで高かったんだと思う。でもそれ以外の言葉なら、もっと価値は下がっていくはず……というのが、僕の考えだよ。だから、17450円で足りるはずなんだ」


繰り返すが、多分、なのだけど。

なにせ神様のことだ。人間には推測しかしようがない。


「今日はもう遅いから、明日の朝、裃神社にお参りに行くことにするぜ」

「そうするべきだね。……お金は用意できるの?」


『払ってもらうことにする』なんて言っておきながら、そこに触れていなかったことを今更思い出した。


「大丈夫だ。いつか香里が元気になった時のために、貯めておいたデート代があるんだ」


それなら一安心だ。


「じゃ、そろそろ帰ろっか」


丁度、ゆっくりとした音楽と同時に、面会時間終了を告げに看護師さんが来た。

時刻は午後5時55分。急いで帰ろう。

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