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巡る僕らの叶い頃  作者: イノタックス
1章 叶い、始まる
6/40

5話 中庭でお昼ご飯

「なあ、巡」

「なに?」


7月3日、昼休み。

僕のクラスに入ってきた努が、話しかけてきた。


「昨日、思い返したらおかしなことが出てきてさ。三ノ上は巡の提案の後、月上の呼びかけには答えていた……ような反応を見せたけど、最初に病室に入った時の呼びかけには反応していなかっただろ? なぜなんだ?」

「ああ、そのこと。一応『反応』はしていたよ」

「え?」


気付かなくても無理はない。よーく観察しないと分からないことだったから。


「口を動かしかけていたんだ。でもその時、月上君は別のことを話していたから、遠慮したんじゃないのかな」

「遠慮……三ノ上が? ……っと、あいつはいないか」


『あいつ』──月上君は、今は購買に行っていてクラスにはいない。

話を続ける。


「遠慮については……無意識に行ったことだと、僕は考えてる。まあ、今回の件で、そのこと──遠慮したことは、別に深く考えるべきことじゃないと思うよ」

「まるで、他に考えるべきことがあるような言い方だな」

「さすが努、理解が早くて助かるよ」


どちらかと言えば、瞳よりも努の方が観察眼的なものがある。

一言二言足りない僕の説明でも、先を読んで話を進めてくれるから助かっている。


「妙だと思ったことが一つ。なぜ『カオリ』という単語だけ憶えていたのか」

「いやそれは、大切な人からの呼びかけだから──」

「そうじゃない。もっと適切に言うなら『なんで三ノ上さんは、単語一つだけ憶えていることを許されたのか』とかかな。……うん、悪くない」

「憶えていることを、許された? ……それ以外の単語は忘れているのに、か」


なんとなくだけど、伝わってくれたようだ。


「今日の放課後、また努と瞳も病院についてきてくれる?」

「もちろん。何か力になれるのか?」

「僕一人だと言葉足らずになりがちでね」


なるほどな、と努が頷く。

付き合いが長いから、すぐに分かったようだ。


「理解した。潤滑油になれ、ってことだろ?」

「うん。面倒くさい役を任せちゃうけど……」

「気にすんな、巡。……それじゃ、そろそろ行くよ。また放課後にな」

「うん」


言って、努は少し急ぎ気味にクラスを出ていった。

あまり待たせると怒るからな、瞳は。今日も努は、瞳とお弁当を食べるのだろう。


いつもは僕も誘われていたけど、昨日と今日は僕が前もって断っておいた。

その理由は──


「巡、行こ?」


こいつ──実留から誘われているから。

既にお弁当の入った袋を机の上に置き、準備はしてある。


「無理に僕と食べなくてもいいのに」

「そう言いながら、準備して待っててくれたじゃない」

「善意を無下にはできないからね」

「巡とお弁当を一緒に食べたいだけよ。善意とか、そんな難しいものじゃないわ」


……弥勒沢姉弟ではないけれど、実留の言葉、本心から出たものだと分かる。

こんな優しい表情もするんだな、と思った。


歩き出した実留の後を、袋を持って追う。



中庭。

僕のクラスからもよく見える、緑が豊かでベンチがいくつか置かれている──広場と言ってもいいような場所。

いつも『いいなぁ』とは思っていたけれど、中々入れなかった場所。

入れなかった理由としては、


「ここ、女子だらけだからねぇ」


そう、この中庭、ほとんど女子でいっぱいなのだ。

たまーに男子もいるけど、それは必ずカップルの片方だったりする。

『中庭でお喋りしながらお弁当を食べる』という習慣は、男子にはきついらしい。

努はそんな風に言ってた。


「で、どうなの。本当に明日で解決するの?」


目をキラッキラさせながら訊いてきた。


「まだ分からない」

「あれ、でも今朝は『今日確認する』って言ってたじゃない」

「三ノ上さんのところに行って、直接確認しないといけないんだ」


他人伝いでもいい……のだけど、できれば確実な方法を取りたい。


「なるほどね。じゃ、また明日結果を教えてね」


実留は文学同好会に入っているから、今日もそれに出ないといけない。

……『いけない』というのは正しい言い方じゃないのだけど、実留は真面目だから、出なければいけない、と考えているらしい。


「女の身体には慣れた?」

「唐突だね」

「女子の会話はこんなもんよ」

「はぁ」


女子の、というか『実留の』と言った方が適切なような。


「で、どうなのよ」

「うん、慣れたよ。……多分」

「多分?」

「えっと……」


そこで、言いよどむ。

言っていいものなのか。というか、女子同士でこういう会話を、普通するのだろうか。


「ああ、アレね」

「アレ? ……あ、うん、アレ。まだだからさ」


一瞬戸惑ったけど、すぐに理解した。

ご飯時だからか、いつもそうなのかは分からないけど『アレ』という言い方でいいのか。

憶えておこう。


「アレが来たら──ううん、来る前に買い物に行こっか。ナプキンとか、色々買うものがあるし」

「そんなに色々買うの?」

「頭痛薬とか」


なるほど。

CMで見たことがある。あれって本当に使ってるんだな。



「ごちそうさまでした。……どんな小さなことでもいいから、何か困ったことがあったら言いなさいよ?」

「うん、ありがとね、色々気を使ってくれて」

「そんなこと気にしないの」



その後。

僕がお弁当を食べ終えるまで、待っていてくれた。


実留って意外と優しいんだな、と感じた。

女子同士の会話で、初めて知れることがたくさんだ。

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