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巡る僕らの叶い頃  作者: イノタックス
4章 神様という存在に

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34話 神に至る

やけにすっきりした表情の実留と一緒にお出かけした翌日。

午前6時。まだ寝たがっている瞼をこすり、長い階段を上った先で、神様は立っていた。


「待っていたよ、高宮巡」

「お待たせしました、神様」


夏の終わりの熱気はどこへやら。

裃神社には、穏やかな空気だけが存在していた。



「あの、神様」

「なんだい、高宮巡」


今日、一つだけ聞いておこうと思ったことがあるのだ。

わざわざスマホにメモをしたくらいには、大事なこと。


「なんで、今日、なのでしょうか」

「何か予定があったのかい?」

「いえ、そういうわけではなく」


誕生日とか、いずれ来る命日とか。

そういう『区切り』ではない、ただの夏休みの中の一日だったから。


「なんで、何のイベントもない今日になったのかが、気になって」

「なるほど、鋭いね」


お、これはもしや、何か重大な秘密が。


「特に理由はないよ」


なかった。


「どの世界でも、今日この日が神の座を受け渡す日だったから。僕もそうしただけさ」

「なるほど」

「だから君も、いずれ来たりしその日──神の座を受け渡す日は、今日と全く同じ日付だからね」


なるほど。


「次の世界の僕に受け渡す日のこと、ちゃんと覚えておきます」

「うん、まあ、……うん、覚えておくといい」


やけに歯切れが悪い返答。

──そういえば。


「あの、実留の願いって、結局何──」

「さあ、儀式を始めようか」

「え? うわっ!?」


神様の身体から、まばゆい光のような何かが出てきたかと思うと、次の瞬間には僕の身体に吸い込まれていた。


「えっと、神様?」


俯いたまま、何も語らない神様。

あ、あれ、どうしたんだろう。──って!


「か、神様! 身体が……!」


神様の身体が、足元からボロボロと崩れ始めた。

とっさに駆け寄り、倒れそうなその身体を支えたけれど。


「こ、これって……」


それはもう、重力にただ従うだけの──亡骸。

でも幸い、意識はあったみたいで。


「そうだった──うん、そうだった。力を失った神様は、前の世界でもこうなっていた。仕方のないことなんだ」

「そんな……!」


痛いのだろうか、辛そうに話す神様。

何億年もの間頑張った神様の最後が、こんな風になるなんて。


──自然と、目をつむっていた。

その光景が見たくなかったからではない。ただ、願っただけ。


「……っ、これは──そうか」

「え? あっ!」


神様の身体の崩壊が止まり、今度は光りながら、その身体が薄く、徐々に透明になっていった。


「これって、僕が願ったからですか?」


『神様の身体の崩壊を、防ぎたい』──僕はそう願った。

見ていられなかったから。こんなにも頑張った神様の最後がこんなのなんて、認めたくなかったから。


「ああ──君のおかげで、全身の痛みがなくなったよ」

「やっぱり痛かったんですね……早めに言っておいて下さいよ、そう願うように、って」


言ってくれていれば、素直に願ったのに。


「いや、前の世界では──僕はただ、崩れゆく神様を呆然と眺めているだけだったから」

「──え?」


どうやら、僕は前の世界と、違う行動をしたらしい。


「……やっぱり、ターニングポイントなのかもね」

「はい?」


ターニングポイント?

一体、何のことだろう。そんな言葉が神様から出てきたのは初めてだ。


「あの、神様」

「すまない、もう説明している時間はないみたいだ」

「……そう、みたいですね」


神様の身体は、ほとんど消えていた。

かろうじて見えるその顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。


「高宮巡──この世界の神よ」

「はい、神様」

「世界を、頼んだよ」

「……はい!」


ふわっ、と。

抱えていた重みは、一瞬で消えた。


「神様、か」


最後はどんな感情で、消えたのだろう。

きっと、ポジティブな感情だっただろう。


そう、思うことにしよう。



ちょっとだけ疲れたから、神社の隅のベンチに座り、一休憩。


「さて」


スマホで時間を確認。

時刻は午前7時。そろそろ1年参りをしに、神社に来る人がいるだろう。

邪魔にならないように、僕は家に帰ろう。



裃神社から帰る途中で、1年参りをしに来たであろう人とすれ違った。

すれ違った瞬間に、その人の願い事が『交通事故で死んでしまった愛犬を生き返らせること』だと、自然とわかった。


(……ああ、本当に)


神様になったのだなぁ、と。

のんきなものだけれど、ようやく実感した。


◆◆◆


大変なことが待っているだろうけれど。

いくつもの別れがあるのだろうけれど。


徐々に、慣れていこう。

みんなの願いを叶えながら、ゆっくりと慣れていこう。



焦る必要はない。

何億年もあるのだ。のんびりと、慣れていこう。

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