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巡る僕らの叶い頃  作者: イノタックス
3章 助けたものと、双子を繋ぐもの

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28話 裃神社の神様は

「神様の力、って」


そんな、まさか。

驚きもあるけどひとまず反論したい。──したいのだけど、思い当たる節が多すぎて。


「巡にはもう見せただろう? 一瞬で消えたり、1秒先の世界へ移動できたり。これらが『神様の力を得る』という願い事をした、という証明になるはずだぜ」

「……なんで、そんな願いを」

「まあ、どうでもいいじゃないか」


再び右手を僕に構えてきた。

発せられる突風。また直撃してしまい、背後の壁に激突──しなかった。


「神様!?」


僕の後ろで、昔の姿の僕──神様が僕の身体を支えてくれていた。


「あ、ありがとうございます」

「例には及ばない。これも、僕のした『ミス』なんだからね」

「は、はぁ……」


戸惑いつつ、支えてくれていた神様から離れる。


「……まだ、巡を神様にするつもりなんですか」

「うん、その予定だよ」

「また、繰り返すつもりですか!」

「……うん、そのつもりさ」


──え、ちょっと待って。

僕を神様に、ってどういうこと?


「あの、それっていったい、──っ!」


3度目の突風は、僕の目の前に瞬間移動した神様によって防がれた。


「……っ! どいてください!」

「いい加減諦めるんだな、努」


怒鳴る努に、神様が優しく、なだめるように語り掛ける。

──それにしても。


「『その』巡が消えて俺が次の神様になれば、誰も悲しい思いをしなくて済むんですよ!?」

「そこに君の意思はあるのかい、努」

「ありますよ! 俺は、神様になろうと──」

「言い方が悪かったね。『希望』しているのかと訊いているんだよ、僕は」


全く話の全貌が見えてこない。

努が神様に? ──なれるものなのかな、そんな簡単に。


「簡単にはなれないよ、神様なんて存在には、ね」

「あ、はい」


また、心を読まれていたようだ。

訊く前に先回りして答えてくれた。


「……努。『希望』してならなければ、その後に『希望』は生まれない」

「でも、今のままでは絶望しか──」

「僕がいつ、絶望したと言った?」


さっきよりも強い口調で、今度は叱るように。


「僕はこの数十億年の人生の中で、一度だって絶望したことはない。この僕──『高宮巡』は、一度たりとも絶望なんてしていない!」


胸を張って、大きな声で。

自信満々に、神様はそう口にした。


──って、ん?

……え!?


「ちょ、ちょっと待ってください、神様。神様が、僕……?」


一体全体、どういうことなんだ。

神様の正体が、僕……?

いや、でも。


「僕は僕として、ここに存在していると思うのですが……」

「神様は、一巡前の世界の巡だよ」

「え、……え?」


努が、またよくわからないことを言っている。

混乱している僕を優しく見つめて、努の方へ向かいなおして、神様が問いかける。


「努、もういいじゃないか。真実を、この世界の僕に伝えよう」

「……っ、巡が絶望しても、知らないですよ」


神様を睨みつけながらも、努はその申し出に了承した。


「いいか、高宮巡。君の運命について話すから、しっかりと聞くんだ。くれぐれも、冷静にね」

「は、はい」


僕の方を向いて、僕の目を見つめて、話し始める。



「前提として。この世界は、何度も繰り返されているんだ。この世界が終わるたびに、神様という存在によって、作り直されている」

「ループしている、ってことですか?」

「いや、ループではない。あくまで『作り直されて』いるだけだから、作った世界によって違う出来事、例外ってやつが起きたりする。──努の存在が、まさにそうだ」


努の存在が、例外……?


「僕が元いた世界、つまり『一巡前の世界』では、努は瞳と同じ力、双子それぞれと入れ替われる力しか持っていなかった。だけどこの世界では、1年参りの途中で『別の願いに変更する』という例外的な行為を行ったから、今こうして努は神様の力を得ているのさ」


……なるほど?

正直よく理解できていないけれど、一々質問しても仕方ないから、何も言わないでおく。


「一応言っておくと、努に与えた力は神様の力の全てではない。『神様である』という力は僕固有のもので与えられないから、正確には神様の『大半の』力を与えたんだけどね。その力で、過去を見てしまったのさ」

「過去、ですか?」

「ああ。一巡前の世界のことも見てしまった。これが僕のミス、『過去を見る力も与えてしまった』。──それで結果的に、努は神様になろうとし始めたんだ。」

「え、なんでそんなことに……」


──もしかして。一つの考えが、僕の中に生まれた。

目の前の神様が、一巡前の世界の僕なのであれば。


「どの世界でも『高宮巡』だけが神様になっていたから、僕を救おうとして、とかですか?」

「……本当に、この世界の僕の推理力には目を見張るものがあるね。努、この質問には君が答えるべきではないかな?」

「ええ。……そうだよ、巡。人間としての生を全うさせてあげたくて、俺が次の神様になろうとしたんだ。……まあ、俺を神様にする気はないみたいみたいだけどね」


そう言って残念そうに、というか自嘲気味に笑う。


「裃神社の神様は、代々、高宮巡のみが受け継いできたものなんだ。だから、僕はこの世界でも君を神様にするつもりだ」

「──孤独な時間を長く過ごすことになるんだよ、巡」

「口を挟まないでくれ、努。いやまあ、その通りなんだけどね。神様になれば、様々な力が手に入る代わりに、永遠に近い時間を過ごさなければならなくなる」

「それでも神様になろうと思うのか、巡」

「口を──まあいいや。どうする? 神様になるかい、『高宮巡』?」


うーん。

少しだけ考えて、でも迷わずに。


「なります」


僕は、そう答えた。

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