27話 努の真相
「……ん」
閉ざされていた意識が、次第にはっきりしてくる。
確か僕は、努の何らかの力で吹き飛ばされて、気絶してしまって──。
「っ!」
がばっ、と起き上がる。
それと同時、周囲の異変に気付く。
「なに、ここ……?」
どこまでも真っ白な世界が、そこには広がっていた。
「ここは夢の中だよ、高宮巡」
「っ!?」
正面に、見覚えのある人物が立っていた。
昔の(男の時の)僕の姿で、僕ではない存在。
「神様……?」
「正解。安心しな、僕は本物の神だからね」
こちらの考え──努かもしれない、という考えを読んだのだろうか。
「夢の中、ってどういうことですか?」
「そのままの意味だよ。明晰夢みたいなもの、と言えば伝わるかな?」
……まあ、おおよそ理解はできた。
でも、なんで神様が僕の夢の中に現れたのだろう。
そう考えたのも、読んでいたらしく。
「君に弥勒沢努の真相について考えてほしくてね」
「神様ならすぐにわかるんじゃないんですか?」
心が読めるのであれば、努の考えていることも丸わかりなのでは、と思ったのだけど。
そう簡単にはいかないようで。
「人間の世界に関わりすぎるのは、神様としての品格が落ちてしまうからね。それに、僕のミスから始まったことだけれど、すでに僕の手の届きづらいところまで事態は悪化してしまっているんだ」
手が届かない、ではなく『届きづらい』というあたり、本気を出せば神様が解決できそうな件なのかな。
──ん、『僕のミス』?
「神様のミス、ってどういうことですか?」
「……君になら教えてもいいんだけどね、高宮巡。君が考えてみるんだ、僕がしたミスと、今回の件の関連性について」
「はぁ……」
ほとんどヒントがない状態で、何を推理しろと。
「じゃあ、ヒントをあげよう」
「あっはい」
心を読まれるのにも、もう慣れてきた。
「弥勒沢姉弟の行った1年参りについて、よく考えてみることだ」
「は、はぁ」
『勘違い』から始まった1年参りについては、しっかり聞いた。
聞いた上で、とくにおかしな点はなかったと──いや、待てよ?
◆
あの昔話は、『瞳の視点からしか描かれていない』のでは。
そうだ、努視点での話ではない以上、瞳の考えが大いに反映された話なんだ、あれは。
ということは。
努の存在が入る余地が、まだどこかにあるはずだ。
『勘違い』──に関しては、とくに問題はないだろう。努がすでに法律がわかっていたのであれば、瞳の考えを訂正できたはずだ。
ならば1年参りにおかしな点があると考えた方がいいだろうか。
『努から入れ替わろうとしてきたのって、一回もないかも』
──あ。
◆
「気づいたようだね」
「……ええ、神様」
わかった。
なんでこんなことがわからなかったのか、そう思うくらいには簡単なことだった。
「まず、瞳がした勘違いについては、努も同じく勘違いをしたんでしょう」
「うん」
「でも、どこかのタイミングで、『双子で1年参りをする』という行為の意味に、気づいたのかと」
「……さすがだね、高宮巡」
僕と実留が過去に行った時のことを思い出していた。
九十九君と小林さんに、本来の願い事とは違う願い事をさせた時。
あの時、『二人でお参りしたのだから、二つ願い事が叶うのでは』と考えたんだった。
つまり。
「瞳のした願い事は、僕に話してくれた昔話の通りのこと──『努と入れ替われるようになりたい』というもので間違いないでしょう。──でも、努は違った」
「うん」
「瞳の願い事だけで、瞳の不安は解消される。そう考えた──のかはわからないですけど、努はおそらく『違う願い事』をしたのでは」
「さすがの推理力だよ、うん、まさにその通りだ」
双子で、というか二人で1年参りをするとき、二つの願いが叶う。
それに気づいたからこそ、僕と実留は過去から現在に帰ってくることができたのだ。
でも。
「努が何を願ったのかは、わからないです」
「そこは、答え合わせを実際にするべきだろうね」
「え? ……っ!」
真っ白な空間が、ぐにゃりと曲がり始めた。
夢から覚めようとしているのだろうか。
またぼんやりとしてきた意識の中で、神様の声が、かすかに聞こえた。
「努を止めてくれ、高宮巡」
──わかりましたよ、神様。
◆◆◆
「……ん」
目を開ける。
目の前には、努の姿。
周囲には、僕たち以外の姿はない。まだ1秒先の世界の中らしい。
「おはよう、巡」
「おはよう、努」
お互いに、作り笑いでご挨拶。
夢の中のことは──大丈夫、しっかり覚えている。
「夢の中で神様と会ってきたよ」
「っ! ……なるほど、だから冷静なんだね」
冷静かと言われると、微妙なところ。
全く混乱していないわけではない。
でも、と話を続ける。
「努は、瞳とは違う願い事を、1年参りでしたんだね」
「……そこまで読んでいるとはね、さすがだよ、巡」
神様のサポートがあってこそ、の推理だったけれど。
「でも、肝心なことがわかってないんだ」
「肝心なこと?」
「努が何を願ったのか」
それと、『神様のしたミス』についても。
「……ま、教えちゃってもいいかな」
軽いな。
思ったけど、口にはしないでおく。
「俺がした願い事は、『神様の力を得る』というものだ」
……は!?




