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巡る僕らの叶い頃  作者: イノタックス
3章 助けたものと、双子を繋ぐもの

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25話 努を探そう

「──というわけで、努がいなくなっちゃったの」

「なるほど」


電話から約1時間後、僕と実留、香里、月上君は弥勒沢家の居間に集まっていた。

もちろんそこには何やらメモ帳を携えた瞳もいる。瞳には伝えずに実留たち3人を連れてきたけど、特に気にせずに通してくれた。


「どこにいるか、まだわからないの。手当たり次第に探してみたんだけど、努の魂の場所がわからない以上、探しようがなくて……」

「無理やり努と入れ替わってみよう、とかはしてみたの?」

「ううん、してない。というかできないの。努の返答がないと入れ替われないから」

「そっか……」


かなり厄介なことになってきてるな。

手がかりを探したいけど、今のところ何にも掴めそうにない。


「……ねえ、巡」

「ん?」


全員黙って数秒経ったころに、香里に話しかけられた。


「弥勒沢君──努君の昨日の消え方とか、もう話してあるの?」

「電話で話したよ。ね、瞳」

「うん。直接見たわけじゃないからわからないけど、努にそんな力があるなんて、知らなかったわ」


やっぱり知らなかったか。

それもそうだ、僕自身も、弥勒沢姉弟には『それぞれの魂を入れ替える』という力しかないと思っていた、というかそう教えられていたのだから。


「……ねえ、ちょっと気になったんだけど」

「なに?」


実留が何かに気づいたように顔を上げ、瞳に訊きだした。


「努と同じで、私と巡も神様と会ったことがあるんだけど」

「えっ、そうなの? 一体いつ──」

「ちょっと長くなる話だから、そこは今は置いといてくれると助かるわ」

「……わかった」


確かに『過去に行ったときに会った』なんてややこしい話、短くまとめられそうにない。


「で、巡には話したんだけど、巡と一緒に神様に会う前に、一人で神様『っぽい人』にも会ったの」

「『っぽい人』?」


……ああ、思い出した。

確か、変な感じがしたとか言っていたような。


「私が巡と一緒に神様に会ったのは、裃神社でのこと。それよりも前にその存在に遭遇したのは、裃神社に続く上り階段の手前で。……ずっと、違和感があったの」

「違和感?」


ここから先は、僕も詳しく聞いてはいない。


「多分、裃神社で会った神様と、階段の手前で会った『神様』は、別の存在だと思うの。私に対する態度が、少し違っていた──気がするの」

「なるほど。……それが、今回の件とどういう関係が──」


あくまで想像だけど、と前に置いて。


「階段の手前で会った『神様』は、努じゃないのかな、って」



「ま、まさか」

「さっきも言ったけど、あくまで想像だから、そこまで本気にしないでね、瞳」


でも、と僕の方を向いて。


「巡たちへの態度が、階段の手前で会ったあの存在の態度とよく似ていたから」

「なるほど……」

「で、でも!」


瞳が声を上げる。


「一瞬で消える力があるなんて、私知らなかった。1年参りをしたのは私たちが子供だった時だけだし、そんな力があるなんて──」

「あ、あくまで想像だってば! 混乱しないで、瞳」


瞳の横に座る実留が、珍しく泣きそうになっている瞳をなだめている。

瞳のやつ、メモ帳で顔を覆い始めた。……本格的に泣き出しちゃった。

双子だから、心配とかいろいろな感情が溜まりに溜まって、限界を超えちゃったのかな。



5分後。


「取り乱してごめん……」

「あたしこそごめんね、変なこと言って」


やっと落ち着いたみたいだ。

さて。──ここに来てからずっと気になっていたことを、訊くことにする。


「ねえ、瞳。その……メモ帳? ってどうしたの?」


僕らが来た時から、ずっと持っていたメモ帳。

サイズは一般的なメモ帳くらい、電話の横に置いてある感じのやつ。かなりシンプルなものだ。


「これ、努の部屋の、畳んだ布団の上に置いてあったの」

「え!? じゃあそれに何か手がかりが──」

「ううん、白紙だった。ほら」


メモ帳を渡される。

表紙をめくると、なるほど確かに──え?


「本当だ、なんも書かれてないな」

「え? ……あ、うん、そうだね」


月上君に合わせたけど、いやいや、そんな馬鹿な。

ちゃんと書かれているじゃないか、わけのわからない文章が。


『1秒先で待ってるよ、巡へ』という、明らかに僕だけに宛てた文章が。


◆◆◆


結局、中身のことは何も言わずに、メモ帳は瞳に返した。

実留と香里にも、例のメモは見えていないみたいだった。

やっぱり、僕だけに宛てたメッセージなのだろうか。『1秒先』っていったいどういうことだ……?


「どうかしたの、巡」

「ううん、なんでもない」


僕と一緒に努の部屋をくまなく探している瞳から声をかけられたが、やはりメモのことは言えなかった。

ちなみに、僕と瞳以外の3人は、下裃町で努を探している。

僕と瞳は、努が帰ってきたときのためのお留守番だ。


「……ねえ、巡」

「ん?」


何かを迷っているかのような顔をして、瞳が話しかけてきた。


「長い付き合いだから、話しておこうかなって」

「……? 何を?」

「私と努が、どうして1年参りをしたのか」


──聞きたい。

気になってはいたけれど、ずっと『子供のよくある勘違い』という全くわからない話で誤魔化されていたから。

だから今日も、訊かずにいたのだけど、まさか瞳の方から話してくれるとは。


「私がした勘違いは、ね?」


懐かしむように、瞳が話し出した。

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