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巡る僕らの叶い頃  作者: イノタックス
3章 助けたものと、双子を繋ぐもの

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23話 生き返った私だから

巡がキッチンの扉を閉めたのを確認して、私は話し始める。


「かなみちゃん、これから私は変なことを訊くけど、自分に正直に答えてくれる?」

「……? うん!」


変な言い回しだったけど、かなみちゃんはそこには触れずにいてくれた。

──どう伝えるかは、もう決めてある。


「かなみちゃんのお姉ちゃんは、優しかった?」

「うん、すっごくやさしかった! かなみといっぱいおしゃべりしてくれて、ゆうれいのときもかなみのそばにいてくれたから」

「よかったね。かなみちゃん、またお姉ちゃんに会えると思う?」


残酷なことだけど、訊かなければ。


「え? ……うん、それは──」

「かなみちゃん、さっき『嘘』をついてたね」

「……っ」


この反応、当たりね。


「かなみちゃんは、お姉ちゃんを迎えに行ってはいない」

「……」


沈黙。肯定と捉えて、続きを話す。


「かなみちゃん、ひとつだけ教えておくね」

「……?」


一度死んだ私だから。

生き返った私だから、言えることがある。


「たとえもう一回死んでも、お姉ちゃんには会えないと思うよ」


命は尊いものなのだ。

私たちが生き返れたのは、ただの奇跡。


奇跡は、そう何度も起きないのだ。



泣き出すかと思った。

こっちの言うことを聞かなくなるまで泣いて、疲れて寝ちゃうような子供かとも思っていた。


──けれど、そうではなかったようで。


「……なんで、しのうとしてるってわかったの?」


拗ねるような声色で、予想通りの反応。

心を読んだわけでも、何かを調べて知っていたわけでもない。


「かなみちゃんのお話を聞いたから、わかったんだよ」


あやすように、諭すように、優しい声で伝える。


「小学校に行くようになってから会えていなかったお姉ちゃんに、死んだら会えた。それなら、もう一度死ねば会えるかも、って思ってるのかなー、って」


生きているうちには会えず、死んだら会えた『人』。

それを生きている人と捉えるか、死んでいる人と捉えるか。


かなみちゃんは子供だけど、小学1年生が『幽霊』を理解していないわけがない。

保育園の時に会えていたのは──理由はわからないけど、きっと裃神社関連だろう。だから、そこは深く考えないようにしておく。超常現象を理解しようとしても無意味だ。


話を戻そう。

ここからは私のただの憶測になるのだけど。


かなみちゃんのお姉ちゃんは、おそらく『生まれる前に死んでしまった』のだろう。

しかし、裃神社で何かを願い、生き永らえた。……この表現が正しいかは別として、どちらにせよ、願いは叶った。


しかし、生き返ったわけではない。

私自身が身をもって体験したことだからわかるけど、裃神社の神様は、時に非情だ。

生まれる前に死んでしまっていたとしたら、私と同じような『三文銭』を持っているか怪しい。

持っていたとしても、願いの全ては叶わない。


私の場合は『言葉』を失い、生き返った。

かなみちゃんのお姉ちゃんは──『期限』を得て、生き永らえた。

それなら、かなみちゃんがさっき言っていたことの意味が分かる。


『私のお役目も終わり』。

きっと、かなみちゃんのお姉ちゃんは、もう──。


「かなみ、もうおねえちゃんに会えないの?」

「うん、そうだと思う」

「……かなみ、おねえちゃんに会いたい」

「うん、そうだね」

「かなみ、は」


つー、と。

かなみちゃんの頬を、涙が伝った。


「かなみは、まだおねえちゃんとおはなししたかった」

「うん」

「かなみ、もっとおねえちゃんといっしょにあそびたかった」

「うん」


濁流のように、涙が溢れだしていた。


「かなみ、まだおねえちゃんにおれい、いえてない……!」


本当に、お姉ちゃんのことが大好きだったのだろう。

ならば、こう伝えるのが正しいだろうか。


「ねえ、かなみちゃん。……生きてみようか」

「……え?」

「精一杯生きて、いーっぱい遊んで、ものすっごく色んなことを経験して、それで──最後まで生きて、さ」


二度目の人生をもらえたのだ。

だから、一度目よりも大切に。


「天国で、お姉ちゃんといーっぱい話そうか」

「……うん」

「そうすれば、今よりももっと、お話ししたいこと、増えるんじゃないかな?」

「……うん!」


相も変わらず、大粒の涙を流しながら。

それでも、頑張って笑顔を作って、応えてくれた。


「よし、それじゃ、かなみちゃんのおうちに帰ろうか」

「う、うん」

「……大丈夫だよ」


怒られるのが心配なのだろうか。

でも、きっと大丈夫。ぎゅっ、とかなみちゃんをだきしめる。


「ノボルや巡もいるし、何より──私がついてるから、安心して」

「……うん!」


──うん、なんとか説得できた。

かなみちゃんがいい子で、本当によかった。


◆◆◆


香里に呼ばれて、リビングへ。

そこには、ランドセルを背負った、目の下が赤いかなみちゃんが立っていた。

僕も月上君も、何も訊かなかった。──かなみちゃんが、笑顔だったから。



月上家からかなみちゃんの家に着くまで、かなみちゃんはずっと香里と手をつないでいた。

どこか、通じるものがあったのだろう。


◆◆◆


かなみちゃんの家に着き、インターホンを押そうとした香里を制し、かなみちゃんがドアを開ける。

自信がないのか、それとも恥ずかしいのか──『ただいま』と小声で言って、数秒後。道崎家の奥から、かなみちゃんのお母さんとお父さんが出てきた。


「え、えっと」


──1年参りは、昨日で終わっている。

だから、怒られると思っていたのだろう。『ごめんなさ──』と謝罪をしかけていたが。


「……ふぇ!?」


かなみちゃんのお母さんが、かなみちゃんを抱きしめていた。


「おかえり、おかえり、かなみ!」

「……っ! ただいま、おかあさん!」


かなみちゃんのお母さんは、堰を切ったように泣き出していた。

それにつられてかなみちゃんも、泣いていた。

かなみちゃんのお父さんは、その二人を包み込むように、ぎゅっと抱きしめた。


──嗚呼、よかった。

一件落着だ。


◆◆◆


ひたすら泣いた後、かなみちゃんは眠ってしまった。

やはり疲れていたのだろう。当たり前か、知らない高校生3人と半日は一緒にいたのだから。


後日月上君の家にお礼をしに来るらしいので、僕と香里もその日にまた月上家へ行くことになった。

そんな約束をして、道崎家を出た僕たちを待っていたのは。


「やあ、巡」

「……努」


僕らのことを(結果的に、とはいえ)散々振り回していた、努だった。

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