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巡る僕らの叶い頃  作者: イノタックス
3章 助けたものと、双子を繋ぐもの

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22話 その理由は正しくて

『道崎家には、かなみちゃんしか子供がいない』。

僕はお母さんから、確かにそう聞いた。

実際、今の今までかなみちゃんから『姉』に関する話が出ていないのだし、それが正しいのだろう。


では、いったいどういうことなのか。


「かなみちゃんって、お姉ちゃんがいるの?」

「うん、かおりおねえちゃん。えっとね、……えっと」


話しづらそう──というより、話の整理がついていない様子。

サポートに入ろう。


「ゆっくりでいいよ、かなみちゃん」

「うん。えっと、かなみがほいくえんに行ってたころのこと、なんだけどね?」


思い起こすように、たどたどしく話し始める。


◆◆


ほいくえんからかえってきて、おかあさんがおかいものに行くから、かなみはひとりでおるすばんをしてたの。

おとうさんもおしごとでいなかったから、かなみ、おへやでないちゃったの。


そしたら、ね? かなみのベッドにおいてあったキリンさんとクマさんのぬいぐるみが、ふわーってういたの!

びっくりしてたら、キリンさんたちをもちあげてる人が、キリンさんたちのうしろにいることがわかったの。

だれ? ってきいたら、かなみのおねえちゃんだよ、っていってたんだ。


うれしかったの。かなみにも、おねえちゃんがいるんだ! って。

おかあさんがおかいものからかえってくるまで、いっしょにいてくれたの。

おかあさんがかえってきたら、いなくなっちゃってたけど。


でもね、このおはなしをおかあさんにしたら、おかあさん、ないちゃってたの。

でもうれしそうだったんだ。へんだよねー。


それからもたまーに、かなみがひとりのときにおねえちゃんがいてくれたんだ。

だからかなみ、おるすばんがきらいじゃなくなったの!


おねえちゃんは、おはかにいるんだ、っていうのもおねえちゃんからおしえてもらったの。

だからおばあちゃんのおはかまいりのときに会えるのかな、っておもってたんだけど、あえなかったの。

きっと、どこかにおさんぽにいってたんだとおもうんだ。


あっ、それでね?

かなみがしんじゃってゆうれいになってたときは、おねえちゃんとずっといっしょにいたの!

おしゃべりとか、おままごととか、いっしょにしてくれたの!

だから、かなみ、さみしくなかったの。



それでね。

かなみのからだがとうめいになってきて、かなみ、こわくなってないちゃったの。

そしたらおねえちゃんがおしえてくれたの。


『かなみは、いきかえるんだよ』って。


よくわかんなかったけど、おねえちゃんがうれしそうだったから、かなみもうれしくなったんだ。

それで、『わたしのおやくめもおわり』ってちょっとかなしそうにいってたの。

それもなんのことかわかんなかったけど、じゃあね、っていわれたから、またね、っておへんじしたの!



じんじゃで目をさましてから、おかあさんとおとうさんにあうまえに、おねえちゃんに会いにいこうとおもったの。

おかあさんたちにないしょで、おねえちゃんをおうちにつれていったら、よろこんでくれるかな、っておもったから。


だから、おはかにいこうとしてたんだ。


◆◆


「……なるほど、ね」


大体の事情は把握できた。

つまり、だ。


「お墓にお姉ちゃんを迎えに行こうとしたんだね」

「うん!」


疑問点が、一つだけある。


「なんでランドセルを背負っていったの?」

「かなみのランドセルをせおったすがた、おねえちゃんに見せたことがなかったから。がっこうに行くようになってから、おねえちゃんと会えてなかったから」

「……なるほど」


──なんと言ったらいいのか。

姉に会いに行こうとした。その理由は正しくて。

それでも──伝えなければ。


「ねえ、かなみちゃん」

「なあに、めぐるおねえちゃん」

「……っ」


無垢な笑顔を曇らせるのは、したくないなぁと思いつつ。


「かなみちゃんのおねえちゃんは、きっと──」

「巡」

「ん?」


後ろで何やら考え込んでいた、香里から止められた。


「香里、これは伝えなければいけないことだから」

「うん、わかってる。だから──私が伝える」

「え? ……うん、頼んだ」


覚悟の決まった目。

僕にはわからないけど、香里に考えがあるのだろう。


「私、かなみちゃんと二人だけでお話したいんだけど、いい?」

「うん、いいよ!」


何かあったら呼んでくれ、と言って、月上君は隣の部屋、キッチンへ。

僕も月上君に続いて、キッチンへ入り、リビングの扉を閉めた。



「なあ高宮、香里とかなみちゃん、大丈夫かな」

「大丈夫だよ、月上君。……根拠はないけど、それでも」


境遇の似ている二人なんだ。

きっと、うまくいく。


「……っと」


ポケットの中で、スマホが震えていた。

誰だろう、と画面を見てみると。


「……またか」

「どうした、高宮?」

「いや、なんでもないよ。ちょっと電話出るね」


応答ボタンを押して、電話に出る。


「何の用? ……努」

『そう警戒するなって、巡。かなみちゃんの様子は大丈夫かい?』

「なっ! やっぱりお前、全部わかって──」

『言い忘れてたことがあったからさ。かなみちゃんの姉のことだけど』


こっちを無視して、話を進められた。

やはり、いつもの努と違う。

もしくは──いつも猫をかぶっていたのかも。


『かなみちゃんの姉は、もう』

「わかってる、それ以上はいい」

『そう? それじゃ、かなみちゃんと三ノ上さんの話が終わったころに、また』

「は!? ……切られた」


こっちの展開が丸わかりかのような言葉を言い捨て、電話は切られた。


「電話、弥勒沢からか?」

「う、うん」


──『また』ってのは、また電話する、という意味だろうか。

それとも、実際に会いに来るつもりなのだろうか。



なんとも腑に落ちない、心にモヤモヤが残った状態で、僕たちはリビングでの会話が終わるのを待つことになった。

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