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巡る僕らの叶い頃  作者: イノタックス
3章 助けたものと、双子を繋ぐもの

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20話 月上昇と一人の少女

十数分歩き、月上君の家の近くまで来た。

で、見つけた。


「あれ、だよね」

「多分……」


確かに、月上君の家の前で、月上君が一人のツインテールの女の子と話している。

うん、女の子には違いないんだけど……どう見ても小学生。ランドセル背負ってるし。


「あの女の子って、月上君の親戚とか?」


電柱の陰に隠れつつ、同じく隠れている香里に訊く。


「多分違う。ノボルの親戚って、年上しかいないらしいし」

「なるほど……」


となると、あの女の子は何者だろうか。

少なくとも、当初の懸念は間違いだろう。あの女の子が『もし仮に』『何かの間違いで』月上君の彼女──浮気相手だとしたら、自分の家に連れてくるなんてリスキーな真似はしないはず。だって親がいるのだから。


「直接訊いてみるね」

「うん、そうしよう」


香里と一緒に、僕も物陰から出て、月上君の元へ歩いていく。



「おれっちは香里一筋だ、安心しろって」

「うん、……えへへ」


──僕や件の女の子がいるのに、もうラブラブモード。

仲がいいのはいいことだ。



結局、修羅場めいたことは起きず(起こるはずもなく)、月上君の話で誤解はすぐに解けた。

とはいえ、話の中でいくつか気になった点があるから、訊いておく。


「この子──かなみちゃんを助けたのって、昨日だって言ってたけど……」



その女の子の名前は、道崎(みちざき)かなみというらしい。

道崎、という苗字はうっすらと聞き覚えがあった。1年くらい前だろうか、僕の両親が話していたような気がする。


月上君の話では、かなみちゃんが道をふらふらしながら歩いていたから、心配して話しかけたのだとか。

で、なぜかかなみちゃんは家に帰りたがらず、仕方なく月上家へ連れていったらしい。

警察にも連絡してほしくないらしいのだけど、家出ではないとかなみちゃんは言っていた。


じゃあ、なぜこんなに小さな子が一人で家からいなくなっているのに、親は気にしていないのだろうか。

そう訊くと、とても答えづらそうに俯いてしまった。


「おれっち、よくわからないけどさ」


しばらくの沈黙の後、月上君がしゃがんでかなみちゃんと目線を合わし、口を開いた。


「おれっちの両親も心配してるし、何があったのか教えてほしいな」


──香里や僕と話す時の元気な声とは違う、とても優しい声で。

んー、と少し考えた後、かなみちゃんは僕たちを順番に見て、最後に月上君に質問をした。


「おうちとけいさつにれんらくしない?」

「へ? ……もちろん、かなみちゃんが連絡してほしくなるまでは、しないよ」


月上君、うまく言ったものだなぁ、と感心した。

『絶対にしない』というよりも、信頼できる言葉だと思う。


「えっとね、かなみは──」


少しだけ言い淀み、悲しそうな表情をしてから顔を伏せた。

しかしもう一度顔を上げて、かなみちゃんは答える。


「いっかい死んだの」



「え、っと」


さすがの月上君も、なんと言ったらいいのか迷っている様子。

僕も同じ。だって、小学生の女の子が、自分は死んだことがある、なんて言っているのだ。そりゃあ混乱するに決まってる。


僕たちは、言葉に詰まってしまった。

一人を除いて。


「ねえ、かなみちゃん」

「なあに、おねえちゃん」


月上君と同様に、しゃがんで目線を合わせて。


「私、三ノ上香里っていうの。かおりって呼んでくれていいよ」

「うん、かおりおねえちゃん」


そういえば自己紹介をやっていなかったな、なんてのんきな考えが一瞬よぎったけど、それどころではないのでは。

そう口にしようとしたのだけど、香里が『私に任せて』と小声で伝えてきたから、香里に任せることにする。


「私も死んだことがあるんだけどさ」

「えっ、かおりおねえちゃんも?」


なるほど、とようやく気付く。

香里、同じ視点から話そうとしているのだ。


「幽霊の時って、どんな感じだった?」

「えっとね、ふわふわ浮いてた! おそらはとべなかったけど、ふわー、って」

「そうね、私もそんな感じだったわ」


察するに、かなみちゃんが『一回死んだ』のは本当のことらしい。

でもここにいる。生き返ったということだ。

となると、ある場所が頭に浮かんでくる。


「かなみちゃんは、1年参りをしたの?」

「ううん、おかあさんとおとうさんがしてたんだって」

「そうなんだ。優しいんだね、かなみちゃんのお母さんとお父さんって」

「うん! やさしいよ!」


元気いっぱいに答える。

──が、少し違和感があった。

『してたんだって』という言い方。まるで、誰かから教えてもらったかのようで。

香里も同じことを思ったらしく、質問が続いた。


「かなみちゃんのお母さんたちが1年参りをしてたってこと、誰かから聞いたの?」

「うん、えっとね……じんじゃで目がさめたときに、そこにいた人からおしえてもらったの!」

「なるほどね。……うん、わかったわ。教えてくれてありがとね」

「うん!」


誰から教わったのかはわからなさそうだったからか、香里はそこで訊くのをやめた。


「ノボル、巡、二人は何か訊きたいことってある?」

「いや、おれっちはないよ」

「僕は──うん、僕もないよ」


自然を装い、答える。

本当はあった。でも、それを訊いていいものか、わからなかったのだ。


『なぜ家に帰りたくないのか』。

帰ったら問題があるのか、それとも別の理由からか。


家庭の問題をずけずけと訊けるほどの心は持ち合わせていない。

これは、僕だけで調べる必要がありそうだ。

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