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巡る僕らの叶い頃  作者: イノタックス
3章 助けたものと、双子を繋ぐもの

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19話 三ノ上香里からの相談

7月下旬、土曜日。の、午前10時。


「なつやすみ、だー」


特にやりたいことはない、けれどなぜか嬉しい。

今日から始まる夏休み。


「なつやすみ、だー」


自室のベッドに寝転んで、天井をぼんやり眺めながら、何度か呟く。

することがない。──課題はあるからすることがない、というのは嘘になる。

正確には、『やりたいこと』がない。


「うーん……」


旅行に行く──とかは面倒だしなぁ。遠出はない。

じゃあ近場なら? ……これまた面倒。

なぜか。


「……あつい」


僕の行動と思考を邪魔するのは、全てこの気温のせいだ。

……いやまあ、エアコンはつけているから、外気温ほど室温が高いわけではない。

だけど、女子になった影響だろうか。今まで通りにエアコンをつけていると、どうも身体が冷えてしまって仕方がないのだ。


「ん?」


僕の部屋のドアをノックする音。

勢いをつけて起き上がり、ベッドから出て立ち上がり、ドアを開ける。

そこにいたのは、お母さん。


「お友達が来てるわよ、巡」

「友達?」


ベッドの上に置いてあるスマホを見たけど、特に着信履歴やメールは入っていない。


「なんて人?」

「三ノ上香里さん」

「ああ、香里が……」


……なんで、僕の家に?

不思議がっている僕を見て、お母さんは何やら勘違いしたようで。


「都合があるって言って、帰ってもらう?」

「ううん、大丈夫だよ。今行くから」

「わかったわ」


ドアが閉められて、再び自室に一人。

もう一度スマホで確認したけど、香里から連絡は来ていない。

何か急な用事でもあるのかな。



玄関で少し話し、何やら相談があるとのことなので家に上がってもらう。

台所にいたお母さんに事情を話して、許可が下りたので2階の自室に連れていく。

ベッドに座らせるのも変かな、と思い、床にクッションを置いて座ってもらう。

ついでに、壁に立てかけておいたミニテーブルも足を組み立て、クッションの前に置く。


「今飲み物持ってくるから」

「あ、おかまいなく、です」

「はーい」


再び1階の台所に行き、コップを2つ出し、麦茶を入れてお盆に乗せて、自室に戻る。

これだけでちょっと汗かいた。やっぱり暑いなぁ、今日。


「お待たせ、香里」

「あ、わざわざありがとね」


ミニテーブルにコップを二つ置く。

一つを差し出すと、香里は小さく「いただきます」と言って、こくっ、と麦茶を一口飲んだ。


「いきなり来ちゃってごめんね、巡。予定とか、大丈夫だった?」

「うん、なんの予定もないから安心して。……で、どうかしたの?」


今日の香里、いつもより元気がない。

察するに、月上君に会えないから──なんて単純な理由ではない、だろう。

学校が休みの日に、会ってないことだって今までに何回もあっただろうし。


「あの、えっとね」

「うん」


意を決したかのように、ぐっ、と拳を握りしめて、僕の目を見て話し始める。


「ノボルのことなんだけど──」


あれ、やっぱり『会えてないからさみしい』なんて惚気話を聞かされるのかな。

そう危惧したのも束の間。続く言葉で、ちょっとした事件なのだと知ることとなった。


「浮気、してるかもしれないの」


◆◆◆


「浮気、ですか」

「だと思います」


思わず、お互い敬語になる。


「でも一体、なんでそんな考えに」

「ノボルが女の子と歩いていた、って教えてもらったの」

「はぁ」


少しばかり、違和感を覚えた。

人づてに聞いただけなのに、なぜ自分の彼氏を疑うまでに至ったのか。


──『教えてもらった』という言い回しが、ヒントだろうか。

もしかして。


「瞳から聞いた、とか?」


情報通に近い知識量を持つ瞳であれば、そんな情報も仕入れることができたりするかも。

そう思い、訊いたのだけど。


「あ、惜しい! 努君から聞いたの」

「努から……?」


同じ弥勒沢でも、弟の方だった。

でも妙だな、努は確かに香里と面識はあるけど、そこまで仲良くはなかったと思うのだけど。

……一応、訊いてみよう。


「なんで努が?」

「わからない。偶然見かけた──って言ってたから、善意からじゃないかな」

「なるほど」


おそらく違う。

努はそんな──『不確かな情報を流す』なんて真似はしない。

でも、今ここでそれを言っても仕方がない。どうしたものか、と考えていると。


「……ん?」


ベッドの上に置いていた、僕のスマホが振動し始めた。

立ち上がり、スマホを手に取る。誰からだろう……って、え?


「どうかしたの、巡?」

「……あ、いや、なんでもない」


動揺して、思わず眉をひそめてしまったのを、香里の言葉で気づく。

気にするな、ただの偶然だ。そう思い、電話に出る。


「……もしもし」

『ああ、やっとつながった。急にごめんね、三ノ上さんの電話番号、知らなくて』


……まるで、僕と香里が一緒にいることを知っているかのようで。

冷静に、冷静に。そう心に念じて、言葉を繋げる。


「何の用かな、──努」

『三ノ上さんに話したのは、本当のことだよ。月上が女の子と歩いていたってのは、僕がこの目で見た、間違いないことだ。調べに行ってみたら? それじゃ、またあとでね』

「え、ちょっと! ……切られた」


なんて言うか──言いたいことだけ言って電話を切られた感じがする。

──努、僕と香里が話していたことの内容まで知っていたみたいだけど、いったいなんで。


「……ねえ、香里」

「う、うん」


いったい、何が起きているんだ。

何か大きなものが動いている気がするけど。


「調べに、行ってみよっか」


ひとまず、月上君と件の女の子とやらについて、調べに行ってみよう。

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