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巡る僕らの叶い頃  作者: イノタックス
1章 叶い、始まる
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2話 変化後、初登校

1年参りを達成できる人は、はっきり言ってかなり少ない。

雨でも雪でも台風でも続けなくてはいけない、という点では相当難しいだろう。

だからこそ、祈りが届き、願いを叶えてもらった人のことは、すぐに広まるわけで。


「巡定ちゃん、聞いたわよ! 頑張ったんだってねぇ」

「あはは……あ、僕は巡と名乗ることにしまして」

「分かったわ、知り合いにも伝えておくわね!」


別に閉ざされた社会ではないけれど、なにせ町単位の話。やっぱり広まっていた。


「巡、人気者じゃない」

「あはは……」


乾いた笑いしか出ない。



自宅を出てから5分ほどで、実留の家に着く。

そこまではよかった。そこから──つまり実留の家を出発してから、まだ10分ほど。

なのに、既に3人ものおばちゃんに話しかけられた。


「あら、高宮さん家の?」

「そうなんですよ、こいつがあの巡定で……」

「まぁ、そうなのね」


4人目に突入。

さすがに疲れた。学校まであと5分くらいなのに……。

そんな風に思っているのを見抜いたのか、おばちゃんとは実留が話をしてくれた。


ほんとに、後で何かお礼をしなくては。



学校に着いて、まず職員室へ。

今朝お母さんが連絡してくれたから、割とすんなり──生徒手帳を見せたくらいで本人確認は取れた。

先生たちも、この地域の噂を知っているのだ。

ただ数人、他の地域から転勤してきた先生たちはポカンとしていた。

あくまで噂だから、伝えていないのだろう。


町役場への手続きも先生たちがやってくれるとのことだったので、安心してクラスへ入る。

──途端、変な目で見られた。「転校生……?」と呟くクラスメイトも。


「さ、自己紹介しちゃいなさい」

「えっ、この場で?」

「もっと後にするつもり?」


いえ、この場で行いますとも。……説明は早い方がいい。

簡単に、なるべく簡潔に。


「高宮巡定改め、高宮巡です。今まで通りよろしく──」


──で、言い終わったのではない。

人が、クラスメイトの波が押し寄せてきたのだ。


(ああ、またか……)


クラスメイトの質問をよそに、天を仰ぐ。

……白い天井が見えただけだったので、クラスメイトに向き直り、一つ一つ質問に答えていく。



「おっ、君、もしかして……」


クラスメイトの質問攻めが終わり、午前中の授業と昼食を終えて、昼休み。

図書室にでも行こうかと思っていたら、後ろから声をかけられた。

聞きなじみのある声。この声は──


(ひとみ)


軽いウェーブがかかった黒髪ロングの、弥勒沢(みろくざわ)瞳だった。


「やっほ、巡定……じゃなかった、巡、だったっけ」

「うん、そう名乗ることにしたよ。……もう別のクラスにまで広まっているんだね」

「そうみたいよ。少なくとも私のところまでは、ね」


一体誰が伝えたのだろう──なんて考える必要はないだろう。情報は、友達から友達へと伝わっていく。

情報屋のような面白い存在は、残念ながらこの高校にはいない。


ところで。


(つとむ)は?」

「まだクラスにいるんじゃないかしら」


……そっか、瞳と努は『同じクラスにはならない』んだった。

特に、この裃高校のような、複数のクラスがある学校では。


簡単な話なのだけど、彼ら姉弟は『双子』なのだ。



少し待っていると、努もやってきた。


「ごめん瞳、ホームルームが長引いた」

「そっちの担任、話長いんだっけ」

「ああ。ところで、巡定……か?」


恐る恐る訊いてくる。……ちょっといたずらしたくなった。


「いえ、私は巡です」

「なるほど、巡定が巡と名乗るようになったって話、本当だったみたいだな」


やっぱり努のクラスにまで広まっていた。どうしよ、僕って有名人になっちゃったの?

というか、知ってたんじゃないか、僕が僕だってこと。


「その制服は?」

「実留から借りた」

「ああ……実留から、ねぇ」


複雑な表情で話す瞳。

……一応、言っておく。


「実留が僕のことを好きだったって話なら、実留自身から聞いたから知ってるよ」

「なんだ、それならいいんだけど。……え、まって、実留から言ってきたってこと? あの奥手な実留が?」


散々な言われようだな、実留。


「今朝言われたんだよ。告白とかじゃなくて、そうだった(・・・・・)、って事実をね」

「なるほどねぇ。……難儀なものだね、実留も」


努の言葉に『ホントだよね』と言おうとして、違和感を覚えた。

実留『も』と言っていた。つまり──


「僕は難儀だとかは思ってないけど」

「ああいや、そういう意味で言ったんじゃないさ。巡定……じゃなかった、巡は望んでその身体になったんだから、巡の心配はそれほどしていないさ」


それほど、というところに努の優しさを感じた。

……じゃあ、どういう意味で言ったのだろう、さっきの『も』は。


「最近──およそ1か月前に1年参りを終えた人がいるんだ。この学校の女子生徒なんだけど……」

「前に言ってた子?」

「うん、瞳には言ってたね。そう、あの子」


この双子同士の会話は、主語が『アレ』とか『あの子』とか、あこそど言葉になりがちだ。

……当たり前だけど、どの女子生徒のことか分からない。


「その女子生徒の名前は三ノ上香里(みのうえかおり)と言って、まあ平たく言えば俺のクラスメイトだ。友達ってほど親しくはなかったから、ちゃんと三ノ上さんの現状を知ったのはつい最近のことだ」

「その子が何か悩んでるの?」


裃神社への1年参りを終え、大願を叶えたというのに、一体何を悩んでいるというのだろう。

1年参りで大願が叶ったからって、もう二度と別の大願を叶えることができなくなるわけではない。また1年参りをすれば、その悩みも解決するかもしれないのに。


「悩んでいるのはその子自身じゃないのよ」

「瞳、どういうこと?」

「なあ巡、首を突っ込む覚悟はあるのかい? この件に、関わろうとする意志があるのかい?」


しつこいくらい──努にしては珍しく、重ねて確認してきた。

だけど、答えは決まっている。


「あるよ、覚悟もしてる。1年参りに関する悩みなら、もしかしたら力になれるかもしれない」


尤も、僕が力になれるのなら、目の前の彼ら──弥勒沢姉弟も力になれるだろうけど。

彼らもまた、『1年参りをし終えた人たち』なのだから。


「うん、いいだろう」

「上から目線ね、努」

「機密事項みたいなものじゃないか。……うん、まずは重要なことを一つ、伝えておこう」


……重要なこと?

『悩み』に関することだろうか。


「三ノ上香里に関することさ。彼女は一度──死んでいる」


──え?

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