16話 神社で会議
4人で、神社のベンチに腰掛けながら。
「なるほど、タイムスリップでこの時間に来たんですね。……俺たちの問題に巻き込んでしまい、すみません」
また謝られた。今度は小林さんじゃなくて、九十九君からだけど。
「あたしたちは気にしてないから、大丈夫よ。それより──」
実留が目配せしてくる。
小林さんと九十九君が話している間に、僕たちもある作戦について話していた。
「1年参りに関して、少し聞きたいんですが、いいですか?」
「はい、どんなことでもお答えします」
「そんなに固くならないで、小林さん。責めたりするつもりはないんだから」
「は、はい」
「では、二つほど聞きたいことがあるので……一つ目から」
疑問点はいくつかあるのだけど、その中から二つだけ選んで訊く。
「1年参りは、小林さんと九十九君、二人とも行っていたんですよね?」
「ええ、そうです。二人で行っていました。時間はずらしたりして、家の人にばれないようにしていましたが……」
「なるほど」
後半部分は今回は必要ない情報なので切り捨てるとして、──うん、思った通り。
「では、二つ目。異世界に行くのをやめるつもりは……ありますか?」
少しだけ、言葉に詰まる。
仕方ないだろう。この提案は、彼らの居場所を奪おうとするものなのだから。
怒る可能性も考えて、おずおずと訊いたのだけど。
「はい、あります」
「おれもそうするつもりです。異世界へは──どちらにせよ、行けないようですし」
意外と──いや、そうでもないか。
小林さんだけでなく、九十九君にもすでに、異世界が存在しないという情報は伝わっているのだから。
「でも、どうしよっか、九十九君」
「そうだな、1年参りが無駄になることに──」
「あの、そのことなんですけど」
僕と実留で考えた、とある作戦を二人に伝える。
「な、なるほど。それなら僕は、今日のお参りを済ませて、1年参りを完了させます」
そう言って立ち上がり、九十九君は拝殿前へ。
「私ももう一度お参りして、お願い事を変えてみます。……あの」
「はい? ……え」
小林さん、目を潤ませている。
「本当に、ありがとうございます」
「いえ、気にしないでください。半分は『僕たちの願い』になるわけですし」
「そう……ですね。では、お参りしてきます」
さっきの作戦を聞いてもなお、不安が抜けてなさそうな小林さん。
それを見かねたのか、実留が立ち上がり、小林さんの手を握る。
「大丈夫、きっとうまくいくわ」
「は、はい!」
たたっ、と走り出し、九十九君の後を追っていく。
「さて、と」
あとは、神様頼りになってしまうから。
「僕たちもお参りしていこうか」
「そうね。……何をお願いすればいいのかわからないけど」
「そうだなぁ。それじゃあ……」
彼らの1年参りが、うまくいくように祈ろうかな。
◆◆◆
それから1時間ほど経って、小林家へ。
僕と実留は少し離れた場所から様子を見ている。
『小林さん──光里さんとお付き合いさせていただいてます、九十九樹です』
ガッチガチに緊張した声で、小林家の人々に挨拶する声が聞こえた。
正直なところ、作戦がうまくいくか少し不安だったのだけど。
「大丈夫よ、巡」
「え? ……あ」
少しだけ、震えていた手を実留が握ってくれた。
「見て、温かく迎え入れてくれてるわ」
「ほんとだ。……よかった」
『小林家と九十九家を仲良くする作戦』、うまくいってよかった。
◆◆◆
小林さんと九十九君から、改めてお礼を言われてから、僕と実留は神社の拝殿の裏に、隠れていた。
1年参りに来た誰かから見つかって、『僕が二人いた』みたいなややこしいことにならないように、隠れる必要があったのだ。
「九十九君の願い事は叶ったし、あとは──」
「小林さんの1年参りの願いの『変更』がうまくいけば、帰れるわね」
「うん」
何度か口にした『作戦』は、そこまで複雑なものじゃない。
最優先事項である『小林さんと九十九君が安心して付き合える』環境を作るために、九十九君の願い事を『小林家と九十九家を円満な関係にする』というものに変更してもらう。
それと同時に、小林さんの願い事を『僕と実留を元の時間に戻す』というものにしてもらった。
二人が一緒に1年参りをしてくれていたおかげで、願いを一つ僕らが使えた、ということに──なるといいのだけど。
「本当に大丈夫かな」
「大丈夫……だと思うんだけど、うーん……」
さっきと打って変わって、だいぶ不安げな実留。
それもそうだろう。元の時間に帰れなければ、色々な問題が出てくるのだから。
「信用ないなぁ、この僕に対して」
「……ん?」
なんか、聞き覚えのある声が──
──って、え?
「──え?」
神社の裏手、誰にも見つからないと思っていた場所。
隠れていた僕らの目の前には、確かに見覚えのある顔の『男』──高宮巡定が、静かに立っていた。