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巡る僕らの叶い頃  作者: イノタックス
2章 神隠し(?)
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15話 事情聴取のような何か

「タイムスリップ、ですか」


そう呟いて、口に手を当て俯き、考え始める小林光里さん。

神社の近くに設置された石のベンチに座り、一通りの事情を話しただけなのだけど、妙に深刻な顔をしている。


たっぷり1分ほどが経過して、ようやく小林さんは口を開いた。


「私たちの問題に──」


あれ、もしかして『首を突っ込むな』みたいに言われたりするの?


「巻き込んでしまって、申し訳ありません」


深々と頭を下げて、謝られた。そっちの反応でしたか。

──上辺だけの言葉じゃないのは確か。だって小林さん、すごく悔しそうにしているんだもの。


「それと、ありがとうございます」

「へ? いや、僕たちは何も……」

「私たちのせいで、色々と大変な目に遭わせてしまったのに……それでもなお、私たちを助けようとしてくれているのですから」


……奇妙なほどに、礼儀正しい。

タメ口でいいのにな、なんて思っていると、今度は実留が口を開いた。


「それじゃ今度は、そっちの番よ。なんで道の真ん中でしん……倒れるようなことになったのか、分かる?」


さすがに『死』という単語は避けたみたいだ。さすが実留、こんな状況に陥っても冷静だ。

……道の真ん中で倒れていた理由、僕も一番気になってた。『いくつかおかしい点もある』から。


「そのことなのですが……すみません、分からないんです」

「え? いや、だって、あなたとその彼氏が一緒に倒れていたのよ? それにさっき、神社で何かをお願いしていたじゃない。あれって1年参りでしょ?」

「そう、なのですが……私たちが神様にお願いしていたのは、そんな物騒なことではないんです。──あの場所に二人でいた理由は、えっと……」


そこまでスムーズに話せていたのに、急に言い淀んだ。

言いたくないことならいい──とは言っていられない。この妙なタイムスリップの原因を突き止めなければいけないのだから。


「正直に話してもらえると、助かります。僕らのタイムスリップの原因も分かるかもしれませんし」

「……異世界に、行こうと思ったんです」


突拍子もない──なさすぎる単語が、小林さんの口から吐き出された。

そんな非現実的な──いや、この神社のことだ、どんなに叶わなさそうな願い事でも、叶えてくれそうだからなぁ。少なくとも、現時点で否定はできない。

色々と考えだした僕の様子を察してか、実留が話を続けてくれた。


「なんでそういう願い事にしたの?」

「……他言無用でお願いしたいのですが」

「もちろんよ」

「それでは。……私の家である小林家と、樹君の家である九十九家についてなのですが……端的に言いますと、非常に仲が悪いのです」


──え、そうだったのか。

そんな情報、情報通の瞳や努からも聞いたことがないのだけれど。


「両家の対立は、近しい親戚でも知っていたり知らなかったり、まちまちです」

「なんで対立なんかしてるの? この時代にそんなことがあるなんて、珍しいと思うんだけど」

「随分昔に、田畑の所有権で争った……と聞いています。ですが今では『対立している』という事実だけが残り、本当の原因が田畑の所有権にあったのかは分かりません」

「ああ……なるほどね。だからあなたと九十九樹君が付き合っても文句は言われないような、異世界に行きたがった、と」

「仰る通りです」


まとめるの上手いな、実留。


「しかし、1年参りは成功しなかったようですね。お二人が意識を失う直前に見た光景が本当なのであれば、私と樹君は──神様に殺された、ようですし」

「えっと、まあ、その……そうなるわね」


急に弱気になったな、実留。

無理もない。元に戻っていったとはいえ、その最初の段階の『死体』を見ていたのだから。

──そうだ、訊いておかなければいけないことがあった。


「あの、一つお聞きしたいんですけど」

「はい、なんでしょうか、高宮さん」

「さっき話した通り、元に戻っていくにつれて、小林さんと九十九君の持っていたカバンも二人の元へと戻っていってました。ということは、神隠しの瞬間にカバンを放り投げた……という感じになると思うのですが」

「はい、多分……」


一番気になっていたこと。

なぜ、カバンを放り投げたのか。


「カバンを放り投げた理由、分かりますか?」

「おそらく、ですが」

「はい」

「必要がなくなったから、だと思われます」


必要が、なくなった?


「私たちはお昼過ぎに、学校に部活に行く、と嘘を吐いて家を出る予定なんです。その時に怪しまれないように、通学用のカバンも持って家を出るつもりなのですが、異世界に行けるのなら必要ないかと思い、捨てたのでしょう」

「……なるほど、ありがとうございます」

「いえ、何かの参考になったのでしたら、幸いです」


『捨てたのでしょう』──捨てるだけならば『投げる』必要はないのでは?

まあ、今はその返答で納得したふりをしておこう。これ以上引っ張っても、おそらく納得のいく答えは出てこない。


──と、階段を上る音。


「お待たせ、光里……あれ、えっと」


九十九樹君、登場。

僕らのことを警戒しているようだ。仕方ない。


「初めまして、九十九君。僕たちは──」

「わ、私から説明します。お二人は少し休んでいてください」

「え? は、はい……」


そう言って小林さんは立ち上がり、九十九君の元へ駆けていき、話し始めた。

言われた通り、任せておこう。信頼のおける人からの説明の方が、より納得してくれるだろうから。


「……ねぇ、巡」

「なに?」

「さっきのカバンについての質問、必要だった?」


小声で訊いてくる実留。

必要か不要かで言うならば。


「絶対に必要だった。でも、納得のいく答えじゃなかった」

「ふぅん。ま、いっか。……少し疲れたわね、小林さんの言葉に甘えて、少し休んでよっか」

「そうだね。……僕も、少し疲れたし」


まだ緊張がほぐれきったわけではないけど。

今は少し、夏の暑さを楽しみつつ、休んでいよう。

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