13話 痕跡
「やっぱり、小林光里って書いてある! いなくなった子の名前よね?」
「う、うん……そうだね」
実留は証拠が見つかって喜んでいるけど、同じようには喜べていない僕がいる。
不安しかない。だってあの場所は僕が既に探した場所。それも、一番最初にここに来た時に。
誰かに細工された? ──それだったらいい。一番マズいのは──現在進行形で神様が関わっている、ということ。
「ねえ、実留」
「あ、こっちにも! 九十九……樹って!」
「は?」
近寄って確認する。
……なるほど確かに、いなくなった生徒の片方、九十九樹君のものらしきカバンだ。
放り出されたかのようで、中身は周囲に散乱している。その中の一冊のノートに、九十九君の名前が書かれていた。
──放り出された?
自分で考えた状況に、少しの違和感を覚える。
なぜ放り出す必要があるのか。……神隠しに遭おうとしている人物が、わざわざ学校用のカバンを持ってきている、と考えると。……やっぱりおかしい箇所がある。
普通なら──仮に僕なら、どこから神隠しに遭ったかを誰かに知らせるような真似はしない。
『この場所で消えた』という痕跡を残すこと自体、おかしいと思うのだけれど。
「どうしたの、巡?」
「いや、それが──え?」
「ん?」
なんだろう……今、見てはいけないものを見てしまったような。
実留が僕に振り返った瞬間、実留の背後の地面に、……人が、二人。倒れている。
「っ!」
「ちょ、巡? ……え、何これ!?」
駆け寄って確認する。
一人は男子生徒、もう一人は女子生徒。
「実留、この人たちに見覚えは?」
「ない、けど……どう考えても、いなくなった二人でしょ」
「多分。……実留、そっちの女子の身元確認、頼む」
「いやいや、頼むって言われても……」
大丈夫、僕らでも確認する方法がある。
「胸ポケットに学生証が入ってるかも。僕はこっちの──多分九十九君、の確認をするよ」
「わ、わかったわ」
こういう時に頼りになるのが、学生証。
……さすがに、こんな状況は想定していないか、なんて考えつつ、男子生徒の胸ポケットに手を入れようとして──気付く。
「実留、これって」
「ひっ、嘘でしょ……?」
男子生徒の身体が、カチコチに固まっていた。
実留の反応から察するに、女子生徒──多分小林さん、の身体もそうだったのだろう。
「死んでるのか……!」
◆
呆然とする実留に休むように言って、僕は二人の身元確認を急ぐ。
男子生徒は──うん、やっぱり九十九樹君。女子生徒の方も、小林光里で間違いなさそうだ。
二人の学生証を元の場所に戻しつつ、またもや違和感。
二人の肌の色が、さっきよりも生気を帯びてきているような。
気のせいだろうか。……息を吹き返したとか? いやいや、そんなまさか。
──念のため、確認。
「っ! 実留、この人たち、まだ生きてる!」
「い、いやいや、身体は固まってたし、息もしてなかったじゃない。死んでるわよ!」
現状の実留にしては、冷静な判断。
しかし、九十九君の身体が、徐々に柔らかくなってきている。
「もしかして……」
九十九君の手首を持ち上げ、脈を確認。
──うん、ある。弱弱しいけど、脈は確かにある。
というか、手首を持ち上げた時に、腕がだらんとしていたから、やっぱり生きている。
よかった、息を吹き返した……よね。
「実留、もう二人は大丈夫だと思う。確実に生きてるよ」
「ほ、本当?」
「うん。だって息もしてるし、身体も柔らかくなってきた……し……」
……ちょっと待て。
僕は何か、重大な勘違いをしていないか。
息をしていなかった人が、息を吹き返した。
硬直していた身体が、柔らかくなってきた。
脈も、確かにある。
──全部『元に戻った』と言い換えられないか?
だとしたら……。
「実留、気付いた?」
「え、ええ。さすがに気付いたわ。カバンが──」
カバンが、二人の元へと戻っていく。
もしかして。
「時間が、巻き戻っている……?」
あり得ない話、ではない。この町は、そういうことが起こる町。
──神様の、力によって。
「やっぱり、神隠し……だ……」
「あれ、眠……く……」
強烈な眠気とめまいに襲われた。
マズい、立っていられない。ドサッ、と実留が倒れた。
「み、実留……」
耐えきれず、しゃがみ込む。
周囲に人影は──いない。ということは、神様の仕業、と考えるのが妥当だろう。
──大変なことに、実留を巻き込んでしまった。
そう後悔しつつ、僕も倒れるように──眠りについた。
◆◆
「言われた通り、『遡り』、発生させたよ」
「さすがだね。お駄賃をあげようか」
「お駄賃って……言い方が古いよ、『神様』」
◆◆