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巡る僕らの叶い頃  作者: イノタックス
2章 神隠し(?)
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13話 痕跡

「やっぱり、小林光里(みつり)って書いてある! いなくなった子の名前よね?」

「う、うん……そうだね」


実留は証拠が見つかって喜んでいるけど、同じようには喜べていない僕がいる。

不安しかない。だってあの場所は僕が既に探した場所。それも、一番最初にここに来た時に。

誰かに細工された? ──それだったらいい。一番マズいのは──現在進行形で神様が関わっている、ということ。


「ねえ、実留」

「あ、こっちにも! 九十九……(いつき)って!」

「は?」


近寄って確認する。

……なるほど確かに、いなくなった生徒の片方、九十九樹君のものらしきカバンだ。

放り出されたかのようで、中身は周囲に散乱している。その中の一冊のノートに、九十九君の名前が書かれていた。


──放り出された?

自分で考えた状況に、少しの違和感を覚える。

なぜ放り出す必要があるのか。……神隠しに遭おうとしている人物が、わざわざ学校用のカバンを持ってきている、と考えると。……やっぱりおかしい箇所がある。

普通なら──仮に僕なら、どこから神隠しに遭ったかを誰かに知らせるような真似はしない。

『この場所で消えた』という痕跡を残すこと自体、おかしいと思うのだけれど。


「どうしたの、巡?」

「いや、それが──え?」

「ん?」


なんだろう……今、見てはいけないものを見てしまったような。

実留が僕に振り返った瞬間、実留の背後の地面に、……人が、二人。倒れている。


「っ!」

「ちょ、巡? ……え、何これ!?」


駆け寄って確認する。

一人は男子生徒、もう一人は女子生徒。


「実留、この人たちに見覚えは?」

「ない、けど……どう考えても、いなくなった二人でしょ」

「多分。……実留、そっちの女子の身元確認、頼む」

「いやいや、頼むって言われても……」


大丈夫、僕らでも確認する方法がある。


「胸ポケットに学生証が入ってるかも。僕はこっちの──多分九十九君、の確認をするよ」

「わ、わかったわ」


こういう時に頼りになるのが、学生証。

……さすがに、こんな状況は想定していないか、なんて考えつつ、男子生徒の胸ポケットに手を入れようとして──気付く。


「実留、これって」

「ひっ、嘘でしょ……?」


男子生徒の身体が、カチコチに固まっていた。

実留の反応から察するに、女子生徒──多分小林さん、の身体もそうだったのだろう。


「死んでるのか……!」



呆然とする実留に休むように言って、僕は二人の身元確認を急ぐ。

男子生徒は──うん、やっぱり九十九樹君。女子生徒の方も、小林光里で間違いなさそうだ。

二人の学生証を元の場所に戻しつつ、またもや違和感。


二人の肌の色が、さっきよりも生気を帯びてきているような。

気のせいだろうか。……息を吹き返したとか? いやいや、そんなまさか。


──念のため、確認。


「っ! 実留、この人たち、まだ生きてる!」

「い、いやいや、身体は固まってたし、息もしてなかったじゃない。死んでるわよ!」


現状の実留にしては、冷静な判断。

しかし、九十九君の身体が、徐々に柔らかくなってきている。


「もしかして……」


九十九君の手首を持ち上げ、脈を確認。

──うん、ある。弱弱しいけど、脈は確かにある。

というか、手首を持ち上げた時に、腕がだらんとしていたから、やっぱり生きている。

よかった、息を吹き返した……よね。


「実留、もう二人は大丈夫だと思う。確実に生きてるよ」

「ほ、本当?」

「うん。だって息もしてるし、身体も柔らかくなってきた……し……」


……ちょっと待て。

僕は何か、重大な勘違いをしていないか。


息をしていなかった人が、息を吹き返した。

硬直していた身体が、柔らかくなってきた。

脈も、確かにある。


──全部『元に戻った』と言い換えられないか?

だとしたら……。


「実留、気付いた?」

「え、ええ。さすがに気付いたわ。カバンが──」


カバンが、二人の元へと戻っていく。

もしかして。


「時間が、巻き戻っている……?」


あり得ない話、ではない。この町は、そういうことが起こる町。

──神様の、力によって。


「やっぱり、神隠し……だ……」

「あれ、眠……く……」


強烈な眠気とめまいに襲われた。

マズい、立っていられない。ドサッ、と実留が倒れた。


「み、実留……」


耐えきれず、しゃがみ込む。

周囲に人影は──いない。ということは、神様の仕業、と考えるのが妥当だろう。


──大変なことに、実留を巻き込んでしまった。

そう後悔しつつ、僕も倒れるように──眠りについた。


◆◆


「言われた通り、『遡り』、発生させたよ」

「さすがだね。お駄賃をあげようか」

「お駄賃って……言い方が古いよ、『神様』」


◆◆

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