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巡る僕らの叶い頃  作者: イノタックス
2章 神隠し(?)
13/40

12話 夏の遭遇

7月中旬、火曜日。

天候は晴れ、絶好の捜索日和。


いつもの起床時間より30分ほど早く起きて、身支度を素早く済ませ、2階の自室から1階の台所へ。

既に起きていたお母さんに『巡の家に行ってくる』と伝え、信じきった顔で送り出してくれたお母さんに心の中で謝りつつ、午前6時、家を飛び出した。

本当は、巡の家には行かない。『探しに行く』のだ。


──昨日、あんなことを聞いてしまったのだから。


◆◆


昨日、月曜日の放課後の出来事。


◆◆


「実留さん!」


校門を出たところで、後ろから声をかけられた。

聞き覚えのある声で、『さん』付け。

面識があまりないとはいえ、あたしのことも呼び捨てでいいのになー、なんて思いながら振り返る。

声の通り、そこには香里が立っていた。


「香里、どうかしたの?」

「その、えっと……じ、実はですね!」

「声が大きいよ、香里ちゃん」


……指摘したのは、あたしじゃない。

香里の背後から、瞳が姿を現す。


「ご、ごめん、瞳」

「まったく……周りの人の視線を気にしたくないから、学校の外で声をかけたんでしょうに。……まあいいや。実留、今時間ある?」

「ある……けどどうかしたの?」


香里はちょっと焦ってるし、瞳はなんか不安げにしている。

一体何があったのやら。


「私から話すね」


先に口を開いたのは、瞳。


「実はうちのクラスの生徒2人が、今日学校を休んだのよ。あ、その2人はカップルなんだけど……」

「うん」

「神隠しに遭ったっぽいの」

「うん。……うん!?」


酷く物騒で、それでいてファンタジーな単語が聞こえたんだけど。


「それを目撃したのが香里ちゃんなんだけど、そのことを巡に訊かれたから教えたの」

「……う、うん」


ああ、なんか。

この時点で、話の展開が読めてしまった。


「あ、じゃあここからは私が。……ついさっきまで巡と話してたんだけど、巡、本格的に調べようとしてるみたいなの」

「神隠しについて?」

「うん」


ああ、やっぱり。

妙な好奇心があるからね、(あいつ)


「危ないと思ったら何もしないっては言ってたけど、万が一神隠しじゃなくて事件だったら大変だから、瞳に相談したの」

「そんで、実留にも知らせておこうって話になってね」

「ありがたいけど、なんであたしに──」

「好きだったでしょ? 巡定のこと」


……黙秘権、発動。


「沈黙は金、雄弁は銀って言葉があるけど──あんたが今黙ったのは銅にも値しないよ」

「妙に語彙力あるね。ひょっとして今は努?」

「おおっと馬鹿にされてる? ほっぺたつねろうか?」

「すみません、無駄口でした」


素早く謝る。だって本当に怒ってるときって、本当に言葉を行動に移すんだもん、瞳って。


「あんたが好きだったかは、この際どっちでもいいとして……」


散々な言われようね、あたし。


「巡が今すぐに動くとは思えないわ、もうすぐ暗くなるし。だから神隠しについて何か行動を起こすとしたら──」

「明日の朝?」

「分かってるじゃない。で、実留には調べるのを止めさせるか、手伝ってもらうか……どっちかをしてもらおうと思ってて」

「あれ、選択権あるの?」


調べるのを止めさせて、って言われると思ってたのだけど。


「止めても聞かないでしょ、巡って。男の時からそうだったじゃない」

「……まあ、そうね」

「だから選択権は実留に託すわ」


……一つ、気になることが。


「瞳と香里は巡を止めないの?」


今の話の流れなら、香里はともかく、巡(巡定)と付き合いの長い瞳なら、止めると思ったのだ。

けれど、そうではないらしい。瞳が口を開く。


「私は止めないわ、巡に協力しようと考えてる」

「なんで?」


純粋な疑問──だと自分では思っていたのだけど、目の前の二人にとっては愚問だったようで。

今度は香里が口を開く。


「神隠しではなかったとしても、原因不明の失踪でクラスメイトを二人も失うのは、辛いの。だから、私の問題を解決してくれた巡を信じてみようと思ってて」

「結局のところ、巡に協力してくれ、ってこと?」

「……うん。勝手にお願いしちゃって、ごめんね」

「ううん、大丈夫だよ香里。……分かった、明日の朝、巡を探してみる。それじゃ!」

「あ……」


香里が何か言いかけていたような気がするけど、多分お礼だろう。

お礼を言われるほどのことは、まだしていない。これから──具体的には明日の朝、するのだ。


◆◆


翌日──現在。


◆◆


「さーて、と」


玄関を出て、道路に出たところで至極自然な問題にぶつかる。

どこを探したものか。巡は何処(いずこ)

全く見当がつかない。ああ、こんなことなら香里から聞いておくんだった。


「……あ、もしかして」


香里が言いかけてたのって、『場所』なのかも。

ああ……ミスったなぁ。香里と連絡先を交換してなかったのが仇となった。

別に嫌いとかではなくて、単に忘れていただけだから、余計に後悔している。


「うーん……」


家を出てすぐに巡に電話してみたけど、繋がらなかった。

数分したら、もう一度電話してみよう。それでも出なかったら、結局神隠しについては調べずに寝ていた、とかかな。そうであることを願いたい。


「……よし」


行く場所を、ひとまず決めた。

巡の家から裃神社への道を、探してみよう。



「いない……」


神社へのお参りを終えたっぽい人、それも片手で数えられるほどの人とすれ違っただけで、神社へ向かう上り階段の手前まで来てしまった。

来る途中で巡のスマホにもう一度連絡してみたけど、やっぱり出なかった。

多分、まだ寝てるのだろう。うん、きっとそうだ。そうに違いない。


「はたしてそうかな?」

「──!?」


階段をコツコツと下りてくる音。

間違いない、今の声の主は、その男のもの。



その声を、あたしは知っている。



「やぁ、端境実留。おはよう」

「は……?」


絶句してしまった。

姿を見て──ううん、正確には声を聞いた時から、困惑していた。


だって、目の前の男は。


「どうしたんだい? この姿がそんなに珍しいかい? いや、懐かしいのかな。……高宮『巡定』の、この姿が」


あたしのよく知る、『男の時の』巡の姿だったのだから。



「君には二つの選択肢がある」


はっ、と意識を目の前の何者かに戻す。

巡定の姿をした、何者か。信用すべきなの……?


「一つは、俺のこの姿について、この場で問いただすこと」

「そうするに決まってるじゃない、あんたは一体──」

「も う 一 つ は」

「っ!」


焦るな、とでも言いたげに、言葉を強めて私に告げる。


「高宮巡が今どこにいるのか、俺から聞き出すこと」

「……どっちかだけ、って感じよね」

「察しが良くて助かるよ。で、どっちにするんだい?」


……数秒悩んで、答えを出す。


「二つ目の方」

「答えるの、早かったね」

「当たり前じゃない、今のあんたの正体より、巡の身の安全の方が大事だもの」

「うん、実に──君らしい答えだ」


……妙に気分が悪い。

巡定の姿をしているが、こいつは間違いなく──『巡定じゃない』。

もちろん、巡でもない。全くの別人だ。

そんな、確信に近いものを感じている。


「巡は今、この近くにある田園地帯の真ん中で、神隠しの証拠を探しているよ」

「……嘘、じゃないわよね」

「君に嘘を吐いたところで、面白いことにはならないだろうからね。安心しな、本当のことだよ」

「……ありがとう」


嫌々ながらお礼を言って、私は走り出した。

この近くの田園地帯なら、香里の家に近いあの場所だろう。



この後、全速力で田園地帯まで走り切り、巡の後姿を見つけた。

あの人物が何者だったのかは分からないけれど、今はまだ、気にするべき時じゃない。

それよりも大事なのは、巡を叱ること。背後からそーっと近寄っていく。

さあ、堪忍なさい、巡!

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