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巡る僕らの叶い頃  作者: イノタックス
2章 神隠し(?)
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10話 聞き込み

「香里、ちょっといい?」


瞳と話してから授業とホームルームを終え、放課後。

僕は香里に会いに、香里のいるクラスに来ていた。


「巡?」


きょとんとした表情で、机の横に来た僕を見てくる。

周りは相変わらずざわざわしている。他のクラスの人間が来たから、という感じではなく、やっぱり例の件によるものだろう。


「ちょっと聞きたいことがあって。場所移動してもいい?」

「うん、いいけど……」


香里がカバンを持ち上げたのを確認してから、中庭へ向かい歩き出す。



「ごめんね、突然」

「ううん、大丈夫。巡のお願いならどんと来い! だからね」


お願い──ではないのだけれど。


「訊きたいことがあってさ」

「訊きたいこと?」

「うん。瞳から聞いたんだけど、神隠しを目撃した、って本当?」

「え、……うん、一応」


言い淀んでいる。

それに『一応』という言い方が気にもなった。


「一応、って」

「えっと、見たのは本当。だけど人が二人同時に消えたのを見ちゃったから、正直信じきれてない感じなの」

「なるほど」


まあ、仕方ないことだと思う。普通に生きていたら神隠しに遭った現場なんて見ないだろうし。

瞳の話だと、目撃したのは香里だけだったみたいだから、少し混乱しているかもしれない。少しずつ訊いていこう。

──と思い、気になっていることを訊こうと口を開きかけたら、


「ねえ、巡」

「ん?」


先に香里が口を開いた。


「なにか心当たりがあるの?」

「心当たり──神隠しについての、ってことで合ってる?」

「うん、その犯人とか」

「全然」


唖然とされた。仕方ないけれど……むぅ。


「なら、なんで」

「この件に興味が出てきたから。あと……」

「あと?」

「香里ならわかると思うけど、裃神社の神様は神隠しなんてしない、ってことを証明するため」


僕の言葉に少しは納得したようで、小さく『なるほど』と呟いた。


「そのために動こうと思ってね。僕や香里の願いを、願った通りに叶えてくれた神様なんだ。自分勝手に誰かをこの世から消すようなこと、絶対にしないと思ってさ」

「そう……よね、きっとそうだわ。うん、そういうことなら私も協力する。私にできることは──」

「急いでも解決しないよ。まずは情報を整理するところからだね」

「うん!」


スイッチが入ったらしく、俄然やる気の香里を静めつつ、情報の整理を始める。

とはいえ、ほとんどは瞳から聞いたから、後は穴埋めをする程度なのだけど──その穴の大きいこと、大きいこと。


「三つ、訊いておきたいことがあるんだ」


本当はもっと疑問点があるのだけど、絶対に訊いておきたいことは二つだけ。

──そう、『二つ』だけなのだ。最初に訊くのはその二つには入らない、不要……ではないけれど、絶対ではない質問。

一応聞いておこう、程度のものだ。


「三つ?」

「うん。一つ目は、『何時ごろに例の件を目撃したか』」

「何時……多分、午後6時過ぎだと思う。私の家の近くのコンビニで買い物をした時に、コンビニの中の時計で6時ちょっと前だったのを確認してたから、目撃したのはそのくらいの時間だよ」

「なるほど」


今は夏。午後6時過ぎでもまだ明るいうちに入る。何かを見間違うことはないだろう。

さて、二つ目の質問に入ろう。


「二つ目は『目撃者は香里だけか』。知り合いじゃなくても、人影が周りにいた、程度の情報でいいんだけど……誰かいた?」

「ううん、私だけだと思うよ。私の家の近くで見たんだけど、その場所の周りって田んぼだらけだから、人がいたらすぐに分かると思う」

「なるほどね」


香里の家の正確な場所は分からないけど、田んぼだらけというと……うん、なんとなく分かってきた。


「じゃあ、最後の質問。目撃した『正確な場所』について訊きたいんだけど、分かる?」


スマホを起動し、地図アプリを立ち上げて香里に渡す。


「正確な場所……」

「できる限りでいいけど、思い出してほしいんだ」

「う、うん。えっと、コンビニから帰ってきて、この道を曲がって、家まで5分くらいの場所だから……ここ、だと思うわ」

「ありがと。どれどれ……」


地図アプリの中心が示していたのは、確かに田んぼの真ん中だった。少し離れた場所にその場所を挟むように二つ住宅街がある、程度の情報しか得られそうにない。

現段階で、予想の範囲内で言えば、だけど──十分な情報が得られた。


「ありがと、それだけ知りたかったんだ」

「え、もういいの?」

「うん。聞きたかったことは全部聞けたよ。それじゃ、解散ということで……」

「……ねえ、巡」

「ん?」


心配しているような声色で、名前を呼ばれた。

一体なんだろう。


「万が一、だけど……本当に神隠しだったとしたら、あまり深入りはしない方がいいと思うわ。あの二人みたいにいなくなっちゃったら、私」

「香里……」


香里、震えてた。

心のどこかに、恐怖心のようなものがあるのだろう。


「大丈夫だよ、危険だと思ったら、それ以上は何もしないから」

「本当に?」

「うん」

「……なら、いいけど。それじゃあね」


納得してくれた──のかは分からないけど、香里は荷物をまとめて校門に向かった。

さて、僕も帰るとしよう。


帰ってから、やらなければいけないことがあるのだ。


◆◆◆


夕ご飯を食べ終え、お風呂に入って、自室にて。

お母さんに許可を得て、裃地区の地図帳を部屋に持ってきてある。


「……さて」


地図帳を机の上に広げ、最初に田んぼだらけの場所を探す。

かなり簡単に見つけることができたので、次は──『九十九』という苗字の家を探そう。

『九十九』というのは、神隠し(仮)に遭った男子生徒の苗字。僕の予想では、田んぼを挟むようにある二つの住宅街のうち、どちらかにその家があると思っているのだけれど、さてどうだろう。



「……あった」


5分ほどして、ようやく見つけられた。

確かに、住宅街の中にその家があった。

──情報通り、大きめの家だ。庭もかなり広め。


さて、次だ。『小林』という苗字の家を探そう。

神隠し(仮)に遭った女子生徒の苗字だ。



「よし、あった」


全国的に見ればかなり多い苗字だから探すのが大変かと思ったけれど、そんなことはなかった。

九十九家がある場所と、田んぼを挟んで反対側に位置する住宅街の道路沿いに、小林家はあった。

こちらも情報通り、やや大きめの家。


お金持ちのご子息とご令嬢──実留からの情報通りだろう。


苗字やお金持ちだという情報は、家に帰ってきてから瞳に電話して聞いたこと。

僕は親しい人以外の人の情報はあまり興味がないけど、瞳は逆。弥勒沢家もそこそこ大きな家らしく、そこに出入りする人から色々な情報を入手しているらしい。

情報屋とまではいかないけれど、この地区の情報量であいつに勝つのは僕には不可能だ。


──閑話休題。


九十九家と小林家の中心地点は、田んぼを挟んだ住宅街に位置しているのだから、当然だが田んぼのど真ん中。

そこから一番近い道路の近くに……やっぱりあった、『三ノ上家』。


九十九君と小林さんが消えた場所は、この道路で間違いなさそうだ。

さて、次に行うことは──実地調査だ。



そう思い、玄関で靴を履くところまではいったのだけれど。


『こんな遅い時間に出歩いちゃダメ』


とお母さんに言われてしまった。

そこでようやく、今が午後10時過ぎだと知った。

女の子だから……と言われたら言い返すつもりだったけど、時間の問題なら仕方ない。


明日の朝、神隠しがあった場所へ行ってみよう。

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