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巡る僕らの叶い頃  作者: イノタックス
2章 神隠し(?)
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9話 事件?

晴天。まぎれもなく晴天。晴れ晴れとした月曜の朝。

だというのに、僕の心模様は穏やかではなかった。

穏やかじゃなかった期間、実に1週間。


そんな調子だった理由は単純。

実留と街中へ買い物に出かけた先週、実留の家まで一緒に帰って、そこで別れた。

その後に実留がどこかへ行ったのが気になり、後をつけたら着いたのは神社──裃神社だった。


何かを熱心にお祈りしていた。

何を祈ったのか。あの日の会話で、なんとなくの(当たってほしくない)予想はついている。


『男になろっかなー』


あの言葉が、どうにも気になっていた。

まさか本気で言ったのではないだろう、と思いたいけれど、僕のことが未だに好きであるという事実がどうにも引っ掛かって、結局『本気なのでは……』なんて悩んでしまっている。


それが、僕の心が穏やかではない原因二つのうちの一つ目。

二つ目は、


「今日もお昼、一緒に食べるわよー!」


などと張り切って(一方的に)僕と約束を取り付けているこいつ、実留のこの様子。

いつも通りのテンションなのが逆に、色々と考えさせられてしまう。男になるために1年参りを始めたことを隠しているのでは……とか、そういった類のことを色々と。


訊こうかとも考えた。

でも「男になるために1年参りを始めたの?」なんて馬鹿正直に訊いてしまったら、色々と崩れてしまう気がして、訊けていない。

僕に後をつけられていたと知ったら、悲しむんじゃないかな、なんて考えたり。


──保留しよう、一旦。

これ以上僕一人で考えても埒が明かない。


……ん、「一人で考えても」?


そうだ、他の人にも意見を聞けばいいじゃないか。なるべく秘密を守ってくれて、それでいて実留のことをよく知っている人、といえば……。



「それで私のところに来たってことなのね」

「そうなんだよ、瞳」


瞳のクラス前の廊下にて。

誰に相談しようかと悩んだ結果、真っ先に浮かんできたのが瞳だったから、昼休みに(実留と昼食を済ませた後に)瞳に会いに来た。

──のだけど、なんだか瞳の後ろ、クラスの中が妙に騒がしいのが気になった。

普通の昼休みのざわざわとした雰囲気とは違う、どこかピリピリとした──不安げな空気というか。


「ねえ、何かあったの?」


小声で訊いてみた。

他のクラスのことだから訊いていいのか分からない──と思ったのだけど、好奇心がその上を行った。

仕方ないよね、それくらう変な雰囲気だったんだから。


「ちょっとね」


返ってきた言葉は、どこかそっけなかった。

とはいえ、予想通りの返答。拒絶させているわけではないようだから、少し顔を近づけて、訊いてみる。


「ちょっと、って?」

「……うーん、ま、巡なら話してもいいかな……?」


好感触、ではなかろうか。はてさてどんな事情が──。


「ここで話すのはちょっと。だから、ついてきて」

「へ?」



「……うん、ここならいいかな」


瞳の後をついていき、着いたのは中庭──数分前まで実留とお弁当を食べていた場所。

僕だけ先に教室に戻っていたから、念のため実留がいないか確認。……うん、大丈夫そう。さすがにもう教室に戻ったみたい。

そもそも、今いるこの場所は中庭の一番奥の、どの教室からも見えにくい場所。

こんな人気のない場所まで来ないと話せないこと、という認識でいいのかな。──なんて考えていたら、瞳が口を開いた。


「ごめんね、こんな場所まで連れてきちゃって」

「え、うん、別にいいけど……本当に何があったの? 聞いちゃダメなことだったら、訊かないよ?」

「大丈夫、話せないようなことじゃないから」


……の割には、いつもの瞳より幾らかテンションが低い。

ここに来るまでにも気になっていた。努と入れ替わっているわけではなさそうだし、瞳自身に──あるいは瞳の友達に何か起きた、とか?


「巡なら絶対大丈夫だと思うけど、他の人には話さないようにしてくれる?」


いずれ広まっちゃうかもしれないけど、と付け足して苦笑する瞳。

もちろん話さない、と答えるとどこか安心した様子で、話し始めてくれた。



「昨日の夜、私のクラスの中で付き合ってた──カップルってやつね。その女子生徒と男子生徒が……えっと」


早くもそこで言葉が途絶えた。

『絶対に言いふらしたりしないから』と伝えようとしたけど、直前で思い留まって、口をつぐむ。

瞳のこと態度、あれだ。言い淀んでいるんじゃなくて、どうやって伝えたらいいか、まとまっていないんだ。


「その二人が、何かやらかしたの?」


犯罪のようなことをしてしまったのだろうか。それとも、僕らの年齢ではやってはいけないあれやこれやをしてしまったとか?


「ううん、その二人は何もしてない……と思う。そうじゃなくて……簡単に、端的に話すわね」

「うん」


そうしてもらえると助かる。


「その二人、物理的に『消えた』らしいのよ」

「……ん?」


物理的に、と言ったようだけど。


「神隠しにでもあったの?」

「状況から考えると、そうなんじゃないか──ってクラスの中では噂になってる」

「はぁ」


割と冗談口調で言った『神隠し』なんて言葉が、まさかいい線をついていたとは。

しかし、神隠し──というと、どうしても浮かんでくる場所がある。

裃神社。


……だけど、今まで裃神社の神様に神隠しにあった、なんて話は聞いたことがない。

そもそもどんな神様を祀っているのかすら知らないから、『神隠しなんてありえない』と言い切ることはできないけど。


……ん、少し引っ掛かることが。


「さっきの瞳の言い方だと、目撃者がいるみたいに聞こえたんだけど」

「その通りよ。……そう、一連の──仮に神隠しとするけど。その神隠しを目撃した人が、香里ちゃんだったの」

「……『三ノ上香里』のこと?」

「ええ」


そういえば、香里は瞳と同じクラスに転入したのだった。


「昨日は見間違いだろうと思って誰にも言わなかったらしいんだけど、今朝その二人が学校に来ていないことを知って、ちょうど香里ちゃんに会いに来てた月上君に話してたの」


月上君──僕と同じクラスの月上昇君のことだろう。


「で、月上君ってリアクション大きいじゃない?」


あ、話が見えてきた。


「月上君のオーバーリアクションで、他の人にも伝わっちゃったってこと?」

「そういうこと。……だからうちのクラス、あんな雰囲気になってたのよ」

「なるほど。……あのさ、瞳」


新たに浮かんだ疑問を、口に出す。


「そのカップルの、それぞれの親は捜索願を出してたりしないの?」


瞳は『昨日の夜』と言った。

ということは、一晩中帰ってこなかったってことになる。普通は心配すると思うのだけど。

あ、もしかして子供に興味がない家庭だったりするのかな。それなら仕方ない……のかもしれない。


「捜索願は出してないみたい。それどころか『体調が悪い』だか『熱がある』だったか──そんな感じの理由で、学校に休みの届けを出してるのよ」

「妙だね」

「でしょ? 私の友達から聞いた話だと、至って普通の家庭らしいのよ。その二人の、どっちの家庭もね。ますますおかしいでしょ?」


確かにおかしい。


「香里にも話を聞きたいんだけど……放課後に行ってみようかな」

「え? ……ひょっとして、首を突っ込むつもり?」

「当たり前じゃん、なにか力になれるかも──」

「うーん、どうかなぁ。今話したことが全部だから、新しく聞けることはないと思うけど」


──瞳はそう言ってるけれど、まだ聞けることはいくつかある。

それに、『引っかかっていること』もある。

おそらく、瞳よりも香里に訊いた方が分かること。


「ま、止めはしないから、好きにすればいいと思うわ」

「そうさせてもらうよ。ありがとね、色々聞かせてもらって」

「どういたしまして。……あ、実留のこと、なんにもアドバイスできてないけど……」


その点についても大丈夫。……そっちについても、新たに『引っかかっていること』が出てきたから。


「実留のことはこっちで考えてみるよ。そろそろ昼休み終わるし、戻ろっか」

「そうね。……あ、次の授業体育だった! ごめん、先に戻ってるね!」


そう言って、瞳は走って生徒用玄関へ向かった。

僕のクラスの昼休み明けの授業は生物だから、急ぐ必要はない。ゆっくり戻ろう。



放課後、香里に忘れずに会いにいこう。

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