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「本当にあった怖い話」シリーズ

明かり

作者: 詩月 七夜

 以前、こんな体験をした。


 私の実家は田舎だ。

 付近は見渡す限りの田んぼと山。

 名産品も特になく、観光地としても誇れるところが無い。

 美点といえば、豊かな自然環境と水資源。

 今からの季節なら、育った稲が青々となり、一面の草原のようになり、とても目に優しい。

 吹き渡る風も涼しく、猛暑でもそれなりに快適に過ごすことが出来た。


 だが、夜は違う顔になる。

 都会暮らしの人は知らないだろうが、何もない田舎の闇夜は、本当に濃い。

 人工の照明に慣れている人などは、きっと身がすくむだろう。

 実際、都心部から遊びに来た友人は「こんなに真っ暗な夜を経験したのは、初めて」と、驚いていたのを思い出す。

 そんなに深い闇と接してきたからか、私は幼い頃から、その中に潜む「何か」を意識するようになり、怪異というものに興味を持つようになった。

 そして、昔語りをしてくれる祖父母の存在もあり、それこそ小さい頃には、幽霊の存在とかも信じていた。

 それは、今も変わらないのかも知れない。


 そんな実家から、私は一時期、離れて暮らしていた事がある。

 そう簡単に帰れる距離ではないので、必然、帰郷するのはゴールデンウィークやお盆、年末からお正月くらいになってしまった。

 そんな中でのある年のお盆。

 私はお土産片手に、いつものように実家へと帰ってきた。

 私の地方では、お盆の迎え火を毎年8月14日の夕方に焚き、送り火を翌日の夜遅くに焚く。

 小さい頃、祖父や祖母から聞いたが、これは「ご先祖様をお迎えする時は、早く出迎えて、遅くお送りするのだ」とのことらしい。

 昔からそうしていたので、その時も私は何の違和感もなく迎え火を焚いた。

 そうして家に戻った後のことだった。

 廊下を歩いていると、両親の部屋(和室)の電灯が点きっぱなしになっているのに気付いた。

 部屋の中を見ると、誰もいない。

 なので、私は電灯の紐を引き、消灯した(その時、ちゃんと消えたことは、間違いなく確認した)。


 その後、10分くらいして、またその部屋の前を通った時。

 何と、電気がまた点いているではないか。

 再度、室内を確認するが、またもや無人だ。

 人が隠れることが出来そうな場所も全くない。

 「さっき、紐を引きすぎたかな?」と思いつつ、電気を消す私。

 そうして、ちゃんと消したことを確認すると、私は部屋を後にした。


 それから一時間ほど経ってから、私はまたその部屋の前を通った。

 すると。

 またもや、室内の電気が点いている。

 この時、父は自宅にいなかったから、恐らく、母が点けたのだろう…そう考えた私は、台所に立っていた母の元へ行った。


「ねぇ、母さんの部屋の電気、点けた?」


 と、尋ねる私。

 もし「そうだ」と言ったら、消し忘れを注意するつもりだった。

 しかし、母は、


「点けてないわよ?」


 と答えた。

 私は首をひねった。

 父母の部屋に入りそうなのは、父母自身くらいだ。

 祖父母は、敷地内の別宅におり、母屋に来ても、夫婦の寝室には入ることはない。

 そんな私に、母が「どうしたの?」と聞いてくる。

 なので、私は今しがた体験したことを話した。

 すると、母は驚いた顔をしつつも、何かを察したように頷き、話し出した。


 昔、母がこの家に嫁いできた時。

 やはり、同じ事が起きたという。

 何度消しても、いつの間にか照明が点いており、夜遅くになると、普通に消すことが出来るらしい。

 怪異としてはそれだけで、幽霊を見たとか、物が動いたとか、そういった不可思議な現象は起きなかった。

 母は「古い家だったから、単に配線がおかしくなっているのかも知れない」と言っていた。

 

 だが。

 不思議なことに、この現象は、決まってお盆の時期だけに起きており、お盆が終わると、ちゃんと元に戻るのである。

 配線の故障では、説明がつかない現象に思う。


 思うに、これは合図なのではないかと思っている。

 迎え火に導かれて帰ってきた祖霊の皆さんが「帰って来たよ」と、子孫である私達に伝えてくれているのではないだろうか。


 今年もあと二カ月ほどでお盆が来る。

 まだ実家に帰っていない私は、ここ数年間、迎え火を焚きに行っていない。

 送り火も、同様だ。


 なので、今年は、迎え火を焚きに行きたいと思っている。

 そして、父母の部屋を見に行こう。

 亡くなった後も、子孫に里帰りの合図を告げてくれる、祖霊の皆さんに「おかえりなさい」と告げるために。


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