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機体との出会い

「働いてもらうって言ってもそんなに簡単に仕事は回ってこないと思うけどね。その時が来たらまぁ、一緒に頑張ろうか」


「仕事が回ってこないってどう言うことっすか?」


「ん? ああ、僕たちの仕事は基本的に対ロジアン戦が主だからね。そう簡単にロジアンが近くに出てくることもないからね…でも、最近はヘイツのお偉いさんから極秘で領土外の任務も増えてきたからあと一人や二人位は養えると思うよ。ね?」


「…私? ええ、まぁ、確かにそれくらいの余裕はありますけど…余った分は機体にかける余剰費として確保しておきたいんだけど」


「って事だね。人類の敵であるロジアンが出てこないことで安全は保たれてるし、でもそれによって腹がすいて餓死する心配もない」


 おーん? 何となくだけどこの隊の存在理由が分かってきたぞ。早速その意味も無くなってしまっているが。まぁ、それも安全的な見方をすれば良いのだろう。いや、軍人の意味。

 何となく疑問だった第一黒機隊の目的も判明し、特に気になる所も思い浮かばないので結構な速度で走っている車内から流れる景色を眺める。早朝にヘイツから出たので出始めた朝日が眩しかった。

 流れる景色と走る車内の微妙な振動で眠くなってきたのだが徐々に見える景色が怪しくなってくるのにつれて眠気も無くなってきた。もしかして普通に誘拐だったとか? そんな考えが一瞬頭に過るがこんな魔黒に侵された二十代後半の男なんて需要のある組織とかが少なすぎる。この場合の組織が大体危ない系なので安心できないが。


 雲ひとつない快晴だったあの空の面影もなく、建物の影に隠れ、入り組んだ道を進んでいく。数十分と無言の空間が車内を包んでいたが意外にも時間の流れは早く感じ、目的の場所に到着したのか速度が落ち着いてきた。


「ここが私たちの拠点。…ねぇ、何で寝てるのかしら?」


「…ん? 僕の事だったらそれは見間違いだと思うけど…」


「…はぁ、兎に角。着いたんだから車庫開けてもらえます? 入れないんで」


 ああ、そう言うことね。了解。と、眠っていたせいで崩れていた体制を直し、ジャケットの胸ポケットから何か取り出し、スイッチを押した。ほぼ同時に車庫、と呼んでいた壁が地面から持ち上がるように開いていく。


「おお、すげぇ…」


「お、分かってくれる? これ作るのに結構掛かったんだけど発注して良かった…」


「でも、開くのに時間が掛かるのってどうなんすかね?」


「何でサーヤと同じことを言うのさ…」


 事実なんじゃないんすか。喉まででかかったでかかった言葉を飲み込む。


「事実なんじゃない? 本当の事だしね」


 言いやがったよこの女…。いや、別に良いんだけどね? 俺が言わなかったってだけで悪いことではないんだけどな。そこはまぁ、常識って感じで。俺的には上司への配慮かな。

 そんな事を一切必要としないサーヤは落ち込んだクルシュを視界にも入れず、駐車していく。と言っても前進して停止するだけなのだが。


「…ああ、着いたみたいだし最初に軽く内装だけ案内するよ」


「りょ、了解」


 仕方ない。これは仕事だ。割りきらなきゃ…。永遠と呪詛のようにぶつぶつと呟くクルシュの姿は見ていて心にくるものがある。いや、嘘である。そこまで心は痛まないのだがずっと黙っていても面倒なものは変わりない。

 ドンッ、と車の扉を閉める音が広い駐車スペースに響き渡る。出て改めて見るがこの車以外に二台の車が見え、他には大型二輪の姿があった。名前の通りの駐車スペースなのだろう。アイズヴァフェ…長いので略称で呼ぶがAZVEの機体の姿は何処にも見られなかった。見た感じ、外観は壁だけだったので中身がどんだけ広いのかが想像つかない。


「(上に保管スペースがあるのか)」


 そう判断し、先を行くクルシュに着いていく。

 進んだ場所には今時珍しい蛍光灯で光源を確保している階段があった。そこを上っていき、凡そ一階分程上ったときに鉄製の扉があった。


「開けるための鍵とかないから防犯的な側面で見るとヘイツよりもガバガバだけどね。でもAZVEの機関銃なら数十秒ほどは耐えるらしいよ。流石に試したことないから聞いた話、って体でしか言えないけどね」


「そもそも鍵とかあったとしてもクルシュが無くしちゃうから外したんじゃない…。あの時はどうしようかと…本格的に呪おうかと思ったくらいだったわ」


「え、あれ嘘とかじゃなかったの…?」


 神妙な顔立ちになったのだがサーヤが無表情で見つめ、諭し、諦めたような表情に変わり少し力をいれ、扉を開く。鈍い重低音が空間を響き渡らせゆっくりと開いていく。その先にあったのは武骨なほど機械機械しているAZVFの姿だった。


「機体置くスペースとかAZBFの発射口とか作ってたら僕たちの部屋が無くなってね…。でも、スペースは少ないけど一応十分に生活できるから。これは実証済み」


「別に誇ることじゃねぇと思うんすけど」


「確かにね…」


 メイルの言葉に同調するようにサーヤが頷く。

 それを無視するようにクルシュは一歩進んで中に入る。


「一応アイズ…メイルの戦歴とか記録とかを見てある程度元は設計してもらったんだ。乗る機会はまだ、当分先だと思うけどこの際だし紹介しよう。別に隠せないからって事じゃないからね」


「最後のが本音じゃねぇの…」


 これまた無視し、入り口入ってすぐ近くの機体を指差す。鉄筋に四肢を固定され、壁に押さえつけられている。


「僕の愛機だね。基本的に僕は遠距離でしか活躍できないって考えてもらえば十分だよ。因みにサーヤは…」


「後方で敵の位置とかを随時報告するから」


「って訳だし君には期待してるよ。って意味を込めてこっちの機体だね」


 そう言って指を指した先にはクルシュの機体同様、全身を黒の塗装で覆われた機体があった。だが、前者のクルシュの機体は遠距離戦ーー機体の横に吊り下げられている武器を見るとスナイパーライフル装備のためのぶれない為のがっしりとした図体とは違い、指された機体は全体的に細かった。


「今後の君の愛機になる機体だよ。戦歴を見てみると殆どが全線、至近距離での敵の機体を破壊ってのが多いみたいだったから全力で装甲を軽くし、最低限に押さえたスピード型っぽいのを依頼しておいたよ」


 操作方法が書かれているのか分厚い本を渡される。ペラペラと捲ると太字で囲まれたとある文が気になった。


「『軽量化に伴いエネルギー消費を最低限』…え?」


「ああ、そのまんまの意味だよ。軽く、速くを考えていたせいでエネルギー関係が全然積めなくなってね…そのせいでそのせいで最先端のエネルギー武装は使えなくなったけど…問題ないよね? 主装備は純鉄武装だもんね? どっちも高いんだけどね…」


「いや、気になるっちゃ気になるけど一番は稼働時間がどうかって…あ、え? 30分? 正気っすか」


「…行けるよね?」


 昼近い時刻になってきたので太陽がてっぺん近いところに昇ってくる。その影響で機体を入れるために無駄に天井が5、6メートルは最低でもある場所にある小窓から入ってくる光が機体の横に掛けられた二刀のナイフほどの大きさしかない(と、言っても実寸大は大型二輪程あるが)刃を怪しく光らせる。

 聞かれた眼差しは是非を問うものであったがその置くに覗かせる光を見れば答えは一つしかなかった。


「勿論。無敗の異名は伊達じゃないっすから」


「そりゃ、心強い。じゃ、次は僕たちの専門技師の説明に行こーー


『緊急伝令。緊急伝令。市街地付近、凡そ500メートル先にロジオンの姿を確認。数は最低でも10との事。至急リーク区西に向かって欲しいとの事です。繰り返しますーー』


ーー帰ってきてからだね。操縦服は操縦席に置いてあるからさっそく仕事に行こうか? 入った初日に仕事とは運が良いね」


 空間全体を響きかせるかな切り音に似た音に遅れるように伝令が走る。

 それに合わせるように空間に置かれた電飾が赤色に変色し、警告する。これまたジャケットの胸ポケットから何かを取り出したクルシュからAZVFを起動するためのキーを受けとる。


「操作は汎用機と同じっすか」


「少し、癖があると思うけど大本は同じかな? 多分。まぁ、直ぐ慣れるよ」


 押さえつける鉄筋をかけ上がるように登り、胸付近にある操縦席を開閉させる。そこに滑り込むように入り込み、流れるようにキーを挿入する。起動までにそこまで時間はかからず、挿入と同時に電源が入った。

 全方位を光が多いつくすかのように光り、AZVFの文字が正面のモニターに写り、AZVFの顔に当たる部分のカメラの映像に変わった。左右にある操縦幹を握る。


 何度もやって何度も慣れないのだが右腕を覆っていた魔石は起動と同時に溶け出すように重量に沿って床に垂れる。そうして腕を覆っていた魔石がなくなった右腕でしっかりとレバーを動かす。

 流れるように鉄筋は上に持ち上がり、機体に掛かる押さえつけを無くした。それを待っていたのかのように二刀のナイフを掴み、足に取り付けられた小型のブースターを全力で稼働させ進みだした。続くようにクルシュの機体もブースターを稼働させて少し遅れながら加速し始めた。

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