幸せのカケラ 1
初投稿です。
この世界にありふれた小さな幸せを書き綴っていきます。
結びに。
万を超える小説に埋もれたこの一冊を見つけていただき、ありがとうございます。
冷気を孕んだ風が小さくヒュオっと靡く。まるで刺されたかのような痛みが頬を擦り抜け、体は温めようと身震いする。悴んだ手を温めようと息を吐けば、タバコのように煙が上がった。
「寒いね」
その問いの答えは共感だと思っていた。でも、君は平然と僕の隣に立って寧ろ微笑みで返して見せた。そしてかぶりを振ってこう言うんだ。
「ううん、温かい」
不思議だった。こんなにも大地は凍てついて、空は僕らを白色に染めようと粉雪を降らし続けているのに、どうしてそんなことが言えるのか。
困惑している僕を見て楽しげに君は笑みをこぼす。
「そうか。君は人間じゃないんだね」
冗談で言ったけれど、どうやら君の耳には届いていなかったらしい。じゃなければ、急に僕の手を、君の小さな両手が握りしめる事はないだろう。
当然だけど、僕は反射的に手を振り払った。だってそうだろう。急に握られたら誰だって同じはずだ。
君は初めからこうなることがわかっていたのだろう。握った手を離されても驚くどころか、その余裕の笑みを崩そうともしない。それが幼い僕にとってはちょっとだけど、気に食わなかった。
でも、そんな想いは次の一言で、瞬きの間に消えてしまうことになる。
「温かいでしょ」
気がつけば、寒さなんて消えていた。それはいつだったのか、明確な瞬間は覚えていない。でも、そうだ。確かに寒さは消えている。凍える真冬の雪が降り注いで、切り裂くような風が吹いても、僕は今それを感じていない。ただ、確かな温もりが体中に巡っているだけだ。
すっと差し伸べられる、小さな左手。それはまるで、君はどうしたい?と問いかけられているよう。相変わらず君はその無邪気な笑顔を隠そうともしない。僕はやっぱり、全てを見透かしているような、そんな顔が気に食わない。
でも。
その手を、僕は握った。
そして、こう言うんだ。
「別に」
隣でクスクスと笑う声。
「そっか」
雪の降るありふれた日常の1ページ。きっといつか、雪のように溶けて無くなってしまうだろう。でも、確かに感じるこの温もりは一生、忘れる事はない。
これは雪の日に起こった、ロウソクのような小さな温もりの話。