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実験

CHAPTER 09(実験)


 家に帰ってみると見知らぬ来客があった。

 神父の格好をしている初老の外国人と白衣を着た看護師のような数名の男女だった。


「神父様」

 出迎えたマリアが言った。

 神父様?


「おお、これは。マリア君。体の調子はどうだい」

 神父はマリアの手を取って言った。

「は、はいおかげさまで。きわめて良…… 」

「悪魔払いも大切だが、大事な体なんだから十分に気をつけてくれたまへ」

「あ、ありがとうございます」


「サキ君。体の具合は」

 神父はサキの腕や腰に手を回しながら聞いた。

「はい、良好です…… 」

 サキはあからさまにいやな顔をした。


「シャル君はいつもかわいいね。萌え萌えだねー」

 今度はシャルの頭をなでた。

「ありがとうございます神父様」

「かわいいは正義。貧乳はステータス」

 いきなり胸を揉んだ。

 おい……

「神父様でなければ12番ゲージで頭を吹っ飛ばしてさし上げるところですわ」

 シャルは引きつった笑顔で言った。


「あれってセクハラじゃないのか?」

 俺は傍らのマリアに小声で訊いた。

「あのくらいは挨拶のうち」

 本当かよ……



「初めまして。聖モニカ修道会日本支部のヨゼフ・シュミットです」

 神父が俺に向き直り、握手を求めてきた。

 なんか、いやな予感がする。

「はあ、貴船暁、ですが…… 、あの…… 」

「シュミット神父は日本支部の責任者で、私たちのボスなの」

 いぶかしむ俺の表情を察して、マリアが先回りして説明した。

「すばらしい」

「え?」

 神父は握手で握った手をなかなか離そうとしなかった。

「これが『聖なる血(ホーリーブラッド)』、神の手なのですね」

「いや、あ、あのー。うげ」

 神父は両手で俺の右手をなで回し、手の甲にキスをした。手の甲とはいえ男にキスされるのははっきり言ってキモイ。

「これまでの事件について報告書を送ったら、神父があなたに興味を持って、会いたいって来ちゃったのよ」


「早速ですが、あなたの血液サンプルをいただきたい」

 いきなり神父は俺に向き合って言った。

「血液サンプル、って」

 いやな予感は的中した。俺は医者が苦手だ。

「現代科学の粋を集めた私の研究所で『聖なる血(ホーリーブラッド)』の謎を解明し、神の奇跡を科学的に実証するのです」

 神父は大仰なポーズでまるで自分の言葉に酔いしれているかのように語った。

 研究所?

 しかし、科学と宗教って相入れない存在ではなかったのか?

「これを君に」

 神父が何かを差し出した。

 紙パック入りのアップルジュースだった。

「?」

 きょとんとしている俺に神父は言った。

「日本では血液を抜かれるとジュースが貰えるんでしょう」

 献血かよ!

「あ、暁くんいいなー」

 後ろでシャルが言った。

「それじゃあ、君にはこれを」

「わーい」

 神父はシャルに細長い棒付きキャンディーを差し出した。

 おい、それって田縣神社の……


 

 俺は全裸でベッドに寝かされ、頭、両腕、両脚、胸などのいろいろな場所に電極を張り付けられていた。

 金属のひんやりとした感触が全身に点在していた。

 俺の部屋に見たこともない機材が大量に運び込まれ、俺から延びた電線に繋げられている。

 作業を行ったのは神父が連れてきた医師や看護師らしい白衣の男女だ。しかし、気になったのはその白衣に混じってちょこまかと動き周り、荷物を運んだり機械を操作したりしている数名の小人の存在である。


 修道衣のような薄茶色のフードを着たそいつらは、はじめ子供に見えた。

 しかしそうではなかった

 いわゆる小人症でもなく、手足のバランスは大人と同じかむしろ長いくらいだった。

 胎児がそのまま老人になったような顔で薄緑色の肌をしていた。


 何とも不気味な姿だった。

 やはり何かの障害を持った人たちなのだろうか。

 サキが彼らを何か汚い物を見るような目で見ていたのが心に引っかかっていた。



 深夜、何かの気配で目が覚めた。


「え?」

 体に何か柔らかい物がまとわりついている。

 いい匂いがした。

 夢?


 いや、夢じゃない。


 ベッド脇のランプを灯した。

 布団の中に誰かいる。

「うわっ!」

 ぜ、全裸だった。

「にゃあ」

 全裸のシャルが俺の布団の中にいた。

「な、何してる…… 」

 シャルはそのまま俺に抱きついてきた。

 柔らかい…… 

「うわあ…… 」



「抜け駆けはだめって言ったでしょ」

 騒ぎを聞きつけてマリアとサキが俺の部屋にやってきた。

「だってー」

 シャルはいたずらが見つかった子供のように言った。

「これはいったい…… 」

 予想外の出来事に俺はかなり動揺していた。ほとんどパニクっていたと言っていい。

 どうしてシャルが全裸でここにいるのか、てゆーかまだ抱きつかれたままだし。おい、どこ触ってる。

「おまえはサカリのついた猫か」

 サキが言った。

「内規違反。すぐに出なさい」

 マリアがそう言うと、シャルは残念そうにベッドから降りた。床に落ちていた自分の服を取り上げると恥ずかしそうに体を隠した。

「どうせ交配実験もするんでしょ。だったら私でも…… 」

 シャルがそう言うと、マリアは恐ろしい形相でシャルを睨みつけた。


 交配実験?


「交配実験、て、どういうことだ」


 マリアはサキがシャルを連れて部屋から出て行ったのを見届けると、ゆっくり話し出した。

「絶対数が少ないから確証されているわけではないんだけど、むしろ都市伝説レベルの話かもしれないけど、『聖なる血(ホーリーブラッド)』を持つ男性が子供を作った場合、その子が女の子ならかなり高い確率で『聖なる血(ホーリーブラッド)』の因子を持つと言われているの」

「『聖なる血(ホーリーブラッド)』は遺伝なのか?」

「それはまだ確認されてないわ。実のところよく解ってないのよ。あまりにも実例が少なすぎて。ただ、あなたの御両親の遺伝子には『聖なる血(ホーリーブラッド)』の因子が全く見つからなかったから遺伝によるものではないかもしれないわ」

「両親、て、親父とお袋に何かしたのか!」

 急に親父とお袋が心配になってきた。

 そういえば、どこかに連れ去られていたのだ。

「安心して、ちゃんと合意の上でした血液検査だから。決して人体実験なんかしてないから」

 マリアは俺の顔色が変わったので慌てたのか、うろたえ、言い訳がましく答えた。


「で、実験のため、俺に子供作らせるのか」

 俺はモルモットにされるのか。

 マリアは笑いながら答えた。

「それはないって。シャルが勝手に先走ってるだけ。今すぐ子供作るなんてさせないから安心して」

「あたりまえだ」

 弱冠十七歳で一児の父親にされてたまるか。


 このところ異常な事が立て続けに起こったせいなのか、マリアが去った後、俺はしばらく放心状態にあった。



「女の子って、あんなに柔らかかったんだ…… 」

 シャルの肌の感触がまだ体に残っていた。 


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