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疫病神

 CHAPTER 05(疫病神)


 教室の外が騒がしかった。


『一年の女子が喧嘩をしている』

 どこからともなくそんな声が聞こえてきた。

 俺はいやな予感がした。

 廊下に出て一年の教室のあるB棟へ向かった。


 B棟の廊下は既に黒山の人だかりだった。

「あんた、何とか言いなさいよ!」

 聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 俺は人垣をかき分け、野次馬の最前列に出た。

 喧嘩をしていたのはシャルと加茂川摩耶だった。


 けんかと言うよりシャルの方が一方的にまくし立てている。

 シャルは両手で加茂川の肩をつかみ、壁に押しつけでいた。

 加茂川は無抵抗でされるがままにしていた。

「おい、やめろよ」

 俺は前に進み出てシャルの腕を掴んだ。

 シャルは鋭い目で俺を睨んだ。

 初めて見るシャルの険しい表情に、俺は一瞬たじろいだ。

「何やってんだよ!」

 俺は腕を掴んだ手に力を込めた。

「やめろ、シャル」

 いつの間にかサキが傍らに立っていた。

 サキの言葉にシャルはようやく力を緩めた。

 解放された加茂川はその場にへたり込んだ。

「何があったんだ」

 サキはシャルに訊いた。

「だってこいつ…… 」

 シャルは加茂川を指さした。

 加茂川は今にも泣きそうな顔でこちらを見ていた。

「おい、おまえたち、なにをやってるんだ!」

 生徒指導の教師の声がした。

 野次馬の生徒たちは蜘蛛の子を散らすように去っていった。

 サキもシャルの手を引いて足早に立ち去ってしまった。


 残されたのは加茂川と俺の二人だけだった。

「なんだ、気分が悪いのか」

 教師は加茂川を見て訊いた。

「もう大丈夫です」

 加茂川は立ち上がると俺を避けるように教室へ入っていった。



「昼間の喧嘩は何が原因なんだ。加茂川と何があったんだ」

 家に帰るなり俺はシャルに詰問した。

「だって…… 」

 シャルが何か言いかけてそれをマリアが手で制した。

「だめ、規則違反よ」

「規則違反?」

 おれはマリアに訊いた。

「ごめんなさい、プライベートに関することだから詳しいことは教えることができないの」

「何なんだ、いったい」

 俺は少しいらついてきた。

「加茂川って、あの一年のこと知ってるのか」

 今まで黙っていたサキが訊いた。

「え、ああ…… 」

「じゃあ、今後あいつには近づかない方がいい」

「何だって?」

 少し怒りが混じっていた。

「それは…… 」

 サキが何か言いかけたとき、マリアが遮るように言った。

「ごめんなさい、本当に話せないの」

「ったく、ぜんぜんわかんねえよ!」

 俺は気分を害し、二階の自室に戻るため階段に向かった。


 自室に戻って課題をする気力もなく、ふてくされてベッドに横になっていたとき、ドアをノックする音がした。

 ドアを開けてみるとサキだった。サキは料理を乗せた盆を持って立っていた。

「夕食持ってきた。今日はマリアが作った」

「あ、ありがとう」

 俺は盆を受け取った、料理は肉じゃがと味噌汁の和風だった。

 サキは躊躇いがちに言った。

「シャルのこと…… 嫌いにならないでくれ」

「え、なんで…… 」

 サキの言葉の意味を測りかねた。

「あいつは…… 、敏感すぎるんだ」

「何?」

 サキはそれだけ言うとくるりと背を向け立ち去ってしまった。

「何のことだよ、まったく…… 」


 自分でも女々しいと思う。

 未練だった。

 

『久しぶりだな。呼び出しなんて。何の用だ』

 チャットのウインドウを開き、あらかじめメールで打ち合わせておいた時間にログインした。

 相手は、別の高校に通っている俺と同じ高校二年生の小澤だった。

 小澤は中学時代に同じ学習塾へ通っていた間柄で、妙に気が合い、お互い別々日の高校へ進学した今になっても、時折メールで連絡しあっている。

 確か、加茂川と同じ中学だったはずだ。

『悪い、ちょっと訊きたいことがあって』

『メールじゃだめなのか』

『うん』

 本当は直接会って話をしたかった。

 しかし、今はどこへ行くにもサキが付いてくる。


『うちの高校の一年に加茂川っているんだが』

『加茂川? 加茂川摩耶か?』

『そうだ。知っているのか?』


 少し遅れて返事が返ってきた。


『悪いことは言わない、あいつだけはやめといた方がいい』

『どうして? 彼女に何があったんだ』


『疫病神、だからさ』

 しばらく間が開いて書き込まれる。


『疫病神?』


 おそらく言葉を選んでいるのだろう。しばらくの沈黙の後に小澤の書き込みが表示された。

『あの通り美人だからね。入学した当初から評判になっていて、先輩とか同級生、それから他校の生徒までいろんな奴にコクられてた。実際、何人かとつき合ってたらしい』

『つき合っていた』という文字に俺は少し動揺した。しかし、よく考えてみればあのくらいの美人なら彼氏の一人や二人いてもおかしくはない。


『不思議なことに、加茂川とつき合った奴は例外なく不幸なことが起こっているんだ』

『不幸って?』

『交通事故にあったり、自宅が火事になったり、両親が離婚して転校を余儀なくされたり。噂だが、難病にかかって死んだ奴もいるらしい。それに、男だけじゃなく、女子の友人とか、グループ学習のメンバーまで、多かれ少なかれ加茂川と関係した人間は必ず何らかの不幸が身に降りかかっている』

『単なる偶然だろ』

『俺もそう思うけど、 でも、そんなことが続いているうちに、友達もいなくなって、それで、付いたあだ名が疫病神』


『疫病神』

 俺は昨日一年生から聞いた言葉を思い出していた。


『加茂川本人も両親は小さいときに離婚したか死んだかで、今は親戚に生活費出してもらって一人暮らししてるそうだ』

 そんな…… 

 家族もいないのか……  


 友達も家族もなく、あいつは今までひとりぼっちだったのかよ。


『あ、今思い出したけど。加茂川って飼育係を一年の時からずっとやってて』

『飼育係?』

『そう、毎日ウサギに餌をやったり、花壇に水をやったりしていたな』


 涙が出そうだった。

 加茂川が一人ぼっちでウサギや花壇の世話をしている姿が脳裏に浮かんだ。

『でも、あいつが育てた花は普通より大きくきれいに咲くって一部で噂になってたな。なんか特別な才能があるみたいだ』

 大きくきれいに、って、俺は屋上のプランターに植えられた花を思い浮かべていた。


 …… 花だけなんです。花だけは…… 

 加茂川の言葉が脳裏に浮かんだ。

 そういうことだったのか……



「マリアちゃーん、シャンプー知らない?」

 廊下でシャルと鉢合わせした。

「わっ!」

 バスタオル一枚だった。(おそらく下には何も着ていない)

「カゴの中になかった? 脱衣所の」

キッチンで朝食の準備をしていたマリアが答えた。

「サキちゃんかなあ…… 」

 シャルは踵を返すと風呂場へ向かった。

「ボクは使ってない」

 突然ドアが開き、サキの上半身が見えた。

「!」

 おい!

 下着姿で出てくるな!

「そか…… 」

「シャル、早くシャワー浴びないと、朝ご飯食べる時間がないでしょ」

 キッチンからマリアの声。

「はーい」

どたばたとシャルは風呂場へ駆け込んでいった。

「ふう…… 」

 一息ついたらサキと目が合った。

 まだドアが開いたままだった。

「あっ」

 サキは顔を赤らめ、慌ててドアを閉めた。


 また慌ただしい一日が始まろうとしていた。


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