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J2計画

CHAPTER 21(J2計画)


「サキちゃんのチョイスにしちゃいい方じゃない」

 三人が着替え終わった。

 シャルはグレーのショートパンツに黒のオーバーニーハイソ、ピンクのタンクトップにオフホワイトのカットソー。加茂川はデニムのショートパンツにネイビーブルーのパーカーを羽織っていた。

 俺は紺のズボンにライトブルーのシャツという警備員の制服である。


「なあ、どうしてこんなことになったんだ、俺たち。J2計画って、何なんだ」

 俺は着替えが終わって一息吐いているシャルに訊いた。

「…… 」

 シャルは黙って俯いた。

「やっぱり、教えられないのか…… 」

 俺はサキを見た。サキも黙り込んでいた。

「第二のイエス…… 」

 シャルが呟いた。

「え?」

「神の子、つまり第二のイエス・キリストを人工的に作り出すのがJ2計画…… 」

「シャル!」

 サキが叫んだ。

「もういいよ、サキちゃん、ここまで来ちゃったんだから…… 、隠し事はなしにしよう」

 シャルは辛そうに顔を上げた。

「第二のイエス・キリスト、って…… 」

 どういうことだ?

「簡単に言うと、暁くんの力、つまり『聖なる血(ホーリーブラッド)』の奇跡の力を使って第二のイエス・キリストを作り出すのが目的」

「そんなことしてどうするんだ?」

 今の世の中に第二のイエスが現れたとして、信者を増やす以外何の得があるんだ?

「シュミット神父とうちの修道会の権威が絶大なものになるし、なにより宗教界がひっくり返る」

 サキが言った。

「第二のイエスが世界中で奇跡を起こせば、どんな布教活動より効き目があるでしょ」

「それで、うちの修道会がバチカンが持っている権威を独り占めできる…… 」

「宗教で世界征服しようってわけか」

 なんとなく意図は判った。

 しかし、そんなにうまく行くものだろうか?

「おまえたちは初めからそのつもりで…… 」

「違うよ!」

 シャルは即座に言い切った。

「このことを聞いたのはここに来てからだよ。少なくともあたしとサキちゃんは」

「そう、か…… 」

「…… 」

 サキは黙って目を伏せた。

「それじゃあ、妖魔や怪物を操っていたのは…… 」

「神父様とその友達の悪魔、でしょ」

 シャルが答えた。

 神父と悪魔がグル、って、どうなってるんだ。


「変だと思ったんだよね。あたしの結界がそう簡単に破れるわけないんだから…… 、神父様がやったんなら無理もないけど」

「それじゃタウの寺院もグルなのか?」

「それは違うみたい」

「違う?」

「目的は判らないけど、本当にあたしたちの邪魔をしていたことは確か」

「加茂川は? 彼女もこの計画のために連れてこられたんだろ」


「彼女の存在が計画をスタートさせたのよ」

「マリアちゃん!」

 振り返ると部屋の入り口にマリアが立っていた。

 黒いビジネススーツにタイトスカートという出で立ちだった。

 手には大型のリボルバーを握っていた。

「やっぱりここだったのね。あんたたち、いつもここでサボってたから」

 マリアは銃口をこちらに向け、不敵な笑みを浮かべた。

「…… 」

「こんどはちゃんと対人用の実包が入ってるから、当たったら痛いだけじゃすまないわよ」


「加茂川の存在が計画をスタートさせたって、どういうことなんだ」

 俺は少し気色ばんで訊いた。

「『聖なる血(ホーリーブラッド)』、つまりあなたが見つかったときはまだ調査の段階だったの。『聖なる血(ホーリーブラッド)』がJ2計画にとってどのような効果をもたらすかのね。ところが偶然、確率操作者ラックブレイカー、しかもあなたに好意を持っている存在が確認された…… 」

 マリアの言葉を聞いて加茂川の表情が一瞬強ばった。

「その、J2計画って、俺たちをどうするつもりなんだ」

 第二のイエス・キリストを作り出すって、具体的にどうやるのだろう。

「…… 」

 マリアは少し考え込んだ。

「それは…… 、シュミット神父から訊いて…… 」

 どうやら俺たちにとっては良い話ではなさそうだ。 

「それからシャル、サキ。あなたたちは二、三日学習室で反省すること」

「えーっ、やだなー、あそこの図書室って中二病主人公のSFファンタジーしか置いてないんだもん」

「あれは聖書だ!」

 シャルの神をも恐れぬボケにサキのハリセンが炸裂した。

「もー、サキちゃん、さっきから容赦ないなあ」

 シャルは頭をさすりながら言った。

「いいから二人とも、もう行きなさい」

 マリアは顎で二人を促した。

 シャルとサキは渋々部屋を出て行った。

「これはだめ」

 マリアは脇を通り過ぎようとしたシャルからコアラのマーチを取り上げた。


「さて、おふたりさん、私たちも行きましょうか」

 マリアは銃をハンドバッグにしまうと部屋の出口へ向かった。

「!」

 部屋を出ると数人のホムンクルスたちに囲まれた。

 薄緑色の不気味な化け物だ。



「おー、ミスター・ホーリーブラッド」

 シュミット神父はいつものようにハイテンションだった。


 俺と加茂川は、秘密のエレベーターを使って、地下三階から更に下の『空間』に連れてこられた。

 そこは天然の巨大な洞窟で、中央部に人工的に作られた直径二十メートルくらいの円形のプールと、それを取り囲む大小様々な機械があった。

 神父はちょうど俺たちが立っているプールの縁の反対側に立っていた。

「俺たちをいったいどうするつもりなんだ」

 俺は向こう側の神父に向かって言った。

「私は奇跡を起こしたいのです」

 奇跡だって?

「この世界に新しいイエス・キリストを誕生させるのです」

 それはさっき聞いたな。

「新しいイエス・キリストって、具体的にはどうやって生み出すんだ」

「これを見てください」

 神父がそう言うと円形のプールの中に青白い照明が灯った。

「!」

 プールの中心部に小さな子供の姿があった。

 男の体には様々な場所からチューブが延び、周囲の機械と繋がっていた。

「私の第五世代のホムンクルスです」

 ホムンクルス?

 俺は周囲に立っている薄緑色の肌をした妖怪のようなホムンクルスを見た。プールの中のホムンクルスは、ほとんど人間と区別が付かない姿をしている。

「錬金術と最新のクローン技術を融合させ、私は人間そっくりのホムンクルスを作り出すことに成功しました。しかし、ホムンクルスにはある重大な問題があるのです」

「…… 」

 重大な問題って…… 

「神の創造物ではないホムンクルスには魂が存在しないのです」

 神父は大げさに俯き額に手を当てた。

「しかーし、我が友人である山田一郎氏の協力によってホムンクルスに人間の魂を定着させることに成功したのです」

 山田一郎?

 魂を定着?

 わけがわからん。

「誰だよ、山田一郎って…… 、あ、あの悪魔のことか」

「そのとおり。シャルから聞いたのね。あのおしゃべりが…… 」

 マリアが言った。


「悪魔、か…… 。でも、人間の魂をホムンクルスに定着、ってそんなこと本当にできるのか」

「実例はあるわ」

「え?」


「サキがそうよ。あの子の人間離れした身体能力はあなたも知っているでしょう」

 なん、だって…… 

「サキ、が…… 」

 確かに、サキの運動能力は常人を越えている。

 しかし、それ以外は普通の女の子にしか見えない…… 。

「サキは生まれた時からの難病で、まず2年は生きられないと言われてたの。そこで彼女のDNAを使ってホムンクルスを作り、魂を移し替えたの」

「そうか…… 。サキが……  サキがホムンクルスだってこと、シャルは…… 」

「当然、知ってるわ。だってずっとパートナーだったんだもの…… 」

「…… 」

 サキがホムンクルス…… 。

 下着姿は見たことあるけど、全く普通の女の子と変わりはなかったが…… 

「老いもしないし寿命も無限。子供を作れないことを除けば完璧な人間よ」

「不老不死なのか」

「理論上は、ね」

「あなたの場合はちょっと違います」

 突然、神父が会話に割り込んできた。

「違うって…… 、何が違うんだ」

 俺はプールの向こう側の神父に向かって言った。

「第二のイエスを作るこの計画では、あなたの持つ奇跡、『聖なる血(ホーリーブラッド)』の力を最大限に生かすため、魂の純粋な部分、核の部分だけを取り出して移植するのです」

「核の部分だけ、って。…… じゃあ俺はどうなるんだ」

「あなたの人格は、消滅します」

 何だって!

 実はホムンクルスになって不老不死ならちょっと良いかな、なんて一瞬思ってみたりもしたが、俺の人格が消滅したら意味がないじゃないか。

「ふざけるな! 何が第二のイエスだ。俺は絶対にいやだからな」

「でも、あなたには選択の余地はないんですよ」

 神父が不気味な笑いを浮かべた。

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