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救出

 CHAPTER 20(救出)


 警備員と白衣の男が立ち去った後、俺はコンソールを操作して加茂川の情報を探した。

「やはり地下三階が怪しいか…… 」

 結局、加茂川や両親が収容されている場所は見つからなかった。建物の内部図を見ると、最下層の地下三階はその他の階と部屋の構造が違っていた。

「ゲームならラスボスは最下層なんだが…… 」

 時間がなかった。

「しまった、あと十五分しかない」

 俺は急いでエレベーターホールに引き返すと下りのエレベーターを待った。

「よし、来た」

 俺は飛び込むようにエレベーターに乗ると、カードキーを差し込んだ。

『このカードは予備カードです。聖域(サンクチュアリ)へ降りるには、使用者のIDを入力してください』

 無情な女声アナウンスが流れた。

「!」

 なんだって…… 

 IDって…… 

「ここまでかよ…… 」

 全身から力が抜け、その場にヘたり込んでしまった。


「修道士様、いかがなされたのですか。お体の具合でも悪いのですか」

 突然、背後で声がした。

 振り向くと、先刻会った修道士の集団だった。

「い、いや、大丈夫です」

 俺は立ち上がりながら答えた。

「修道士様もサンクチュアリへ行くのですか?」

「え、ええ」

「それはよかった!」

 引率の修道士の顔がぱっと明るくなった。

「実は、この者たちにメイン・ロッジの施設を案内しているのですが、サンクチュアリに悪魔が捕らえられていると聞いて、皆怖がってしまって…… 」

「はあ…… 」

 悪魔って、まさか加茂川のことか?

「あなたのような高位の修道士様がご一緒してくだされば安心です」

「そ、それは構いませんが…… 」

「ありがとうございます」

 またしても大勢の修道士たちに囲まれ困惑する俺って…… 

しかし助かった。この修道士たちと一緒に下へ行ける。



「おお、これは…… 」

「神よ…… 」


 ピラミッド最下層の中央ホールには悪魔が捕らえられていた。


 身の丈は三メートル以上あるだろうか。

 全身が真っ黒で頭には山羊の角が生え、コウモリの翼を持った、絵に描いたような悪魔の姿だった。

 その悪魔はホール中央の柱に太い鎖で厳重に縛られている。

 なんなんだ…… 、これは…… 


 邪悪な気配を感じる。

 こいつは作り物ではない。


 眠っているのか、時折、体がわずかに動いた。

 一緒に来た新米修道士たちは一心不乱に十字を切り、神に祈っていた。

 俺はそっと抜け出し、廊下に出た。


 あれは、本物の悪魔だったのか?


 それより今は加茂川を捜すことが先決だ。


 最下層は悪魔が捕らえられている中央ホールを中心に、その周りを小さな部屋が囲んでいるという構造だった。

 小部屋のほとんどは何かの実験設備のようで、白衣の男女がハイテクな機材を操作していた。


「ここは?」

 ホールの入り口から半周回った場所に今窓の小部屋とは違った雰囲気のドアがあった。

「これで開くか…… 」

 俺はカードキーを差し込んでみた。

「よし、開いた」

 二重扉を開けて中に入った。

 部屋の中は手術室のようだった。


「加茂川!」

 透明なケースの中に全裸の加茂川が横たわっていた。


「…… 」

 美しかった。

 透き通るような白い肌に均整のとれたプロポーションは神々しくもあり、その美しさは生身の女性であることを忘れさせるところだった。


 加茂川の体にはいくつものチューブや電極が繋がれ、周囲の機械へと延びていた。

「加茂川…… 」

 周囲の計器類が動いているところを見ると、加茂川はまだ生きているようだ。


 どうやって出すんだ?

「…… 」

 あたりを見回してみた。

 どこかにケースを開けるスイッチがあるといいのだが……


「手伝おうか」

 わっ!!


 振り向くとシャルが立っていた。

「し、シャル…… か」

「ここまで来ちゃったんだ。さすがだね」

 シャルは笑った。

 少し寂しげな笑顔だった。


「なんでここに…… 」

「ごめんなさい、試したの…… 」

 シャルはベッドの上の加茂川に視線を移して答えた。

「試した?」

 何で謝る?

「それより、摩耶ちゃんでしょ。早くここから出さないと」

 シャルはそう言うと、透明ケースに繋がる機械を操作した。


 空気が漏れる音がして透明な蓋が開いた。


「大丈夫、薬で眠っているだけだから。…… まだ検査の前段階みたいね」

 シャルは加茂川の腕や脚に繋がれているチューブや電極を注意深く外していった。

「出血は…… 大丈夫ね。暁くんはなにか掛けるもの探して。裸のままじゃまずいでしょ」

「あ、ああ」

 俺は部屋の中を探した。シーツのようなものがあればいいのだが…… 


「あった」

 隣の部屋にシーツとストレッチャーがあった。

「これに乗せよう」

 俺は加茂川を、肌に直接触れないように注意しながら、ベッドからストレッチャーに乗せた。


「やっぱり、男の子ってこういう女の子の方が好きなのかな…… 」

 加茂川にシーツを掛けようとしたとき、シャルが独り言のように呟いた

「…… 」

「あたしも今度、黒髪ロングにしてみようかな」

 そう言うと、シーツを頭からすっぽりと被せた。


「これでよし、と」

 シャルはシーツの四隅を整えて言った。

「なあ、シャル…… 、なんで俺を手伝うんだ?」

 シャルのやっていることはたぶん、修道会にとっては裏切り行為だ。

「嫌いなんだ、こういうやり方」

 シャルは目を伏せ寂しそうに言った。


「これからどうするんだ?」

 俺はシャルに訊いた。

「とりあえず、上へ」

 俺とシャルは加茂川を乗せたストレッチャーを押して廊下に出た。

「そう言えば、あたし、暁くんにカードのID教えとくの忘れてたんだけど、よくこの下まで来れたね」

 シャルは不思議そうに言った。

「運良く他の修道士と一緒に降りられたんだ」

 運良く?

 いや、運じゃないな。

 俺はシーツを被せられた加茂川を見た。


「なあ、さっきの話だけど…… 。試した、とか言ってたけど、あれ、どういう意味なんだ」

 俺はシャルに訊いた。手術室でのシャルの言葉に引っかかるものがあったのだ。

「え? 何の話かわかんない」

 シャルはわざとおどけて話をはぐらかした。

「…… 」

 まあ、いいか。

 気になるけど、シャルはこのまま味方に付けておきたい。


 頭までシーツを被せた人体を乗せたストレッチャーを押す修道士とシスター、という俺たちの姿は、やはり遺体を運んでいるように見えるらしい。

 通りかかった他の修道士やシスターは立ち止まり十字を切った。

 シャルは俯いて、さも泣いているかのような演技をしている、と思ったら、必死に笑いを堪えていただけだった。


『緊急警報。侵入者を確認しました。ただ今よりエレベーターの運行を停止し隔壁の封鎖を行います。各警備担当は規定のマニュアルに沿って作業を開始してください。一般職員および修道士はリーダーが人員を確認し各階の集会所またはホールに集合してください』


 突然、警報が鳴り響き女声アナウンスが緊急警報を告げた。

「しまった。ばれたぞ」

 俺は立ち止まって周囲を見回した。

 一般の修道士たちは困惑しながら早足でどこかに向かっていた。

「暁くん、こっち」

 シャルはストレッチャーを掴んである方向を指さした。

 ここはシャルを信じるほかはない。

 ストレッチャーを押してシャルの示す方角へ向かった。


「ここ、早く、誰も見てないうちに」

 シャルは回廊の奥の少し死角になっているドアを開けた。

「よかった、ここ、昔のままだ」

 シャルはドアを閉めると、スイッチを押し部屋の灯りを付けた。

「ここは…… 」


 その部屋は様々な機材や家具が雑然と積み上げられた、物置のようだった。

「ここ、まだ使ってるのかな…… 」

 シャルはそう言いながら機材の山をよじ登り奥の棚に手を伸ばした。

「おい…… 」

 あぶないぞ。


 見上げた視線の先にシャルのスカートが翻っていた。

「あ、今日はスパッツ穿いてないから見ちゃだめ」

 え?

 機材の上からすとんと飛び降りたシャルの手にはコンビニの袋が握られていた。

「見えた?」

「い、いや…… 」

 ピンクでフリルが付いていた。

「…… 、まあ、いいや。暁くん、はい」

 シャルはコンビニ袋の中から何かを取り出すと俺に差し出した。

「え? 何?」

「山梨限定の信玄ポッキー」

 いや、そうじゃなくて。

「なんでお菓子が?」

「昔、修行をさぼって、この部屋でお菓子食べたりダベったりしてたんだ」

 シャルはいたずらっぽく笑って続けた。

「女の子の修道士はみんなこの場所知ってたんだけど、まだ使われてたみたいだね。いつもの場所にお菓子隠してあったし」

「いいのか、勝手に食べて」

 俺は手にしたポッキーとシャルを交互に見ながら訊いた。

「大丈夫。この部屋のお菓子は誰が食べても構わないってルールだから」

 シャルはポッキーをくわえながら答えた。

「これからどうするんだ」

 しょうがないので俺もポッキーを口にした。


 とりあえず加茂川は救出したが、建物は閉鎖され、現状は非常にまずい状態にあることは確かだ。

「もひもひ、サキちゃん…… 」

 シャルは携帯電話と話していた。相手はサキのようだ。

 どうでもいいけど、ポッキーくわえながら電話するなよ…… 


「なんか着替え持ってきてくれない? 動きやすいのがいいな」

『☆※△□▽◇!!』

 ポッキーをくわえながら話す緊張感のまるでないシャルに対し、電話の向こうのサキはかなり興奮している様子だった。

 実際、シャルのやっていることは修道会に対する裏切り行為なのだから無理もない。


「うん、例の部屋で待ってるから、あ、マリアちゃんには内緒だよ」

『▽☆◇△※!』


「サキちゃん、なんだか機嫌悪かったなあ。どうしたんだろ」

 シャルは携帯電話を切ると再びコンビニ袋の中を漁りはじめた。

 そりゃ機嫌悪くもなるだろうよ……


「どうやってここまで来るんだ? エレベーターも動いてないんだぞ」

 シャルはサキに何か頼んだようだが、この建物全体が封鎖されている中、どうやってここまで来ることができるのだろうか。

「サキちゃんなら大丈夫だよ」

 シャルはこともなげに答えた。

「大丈夫って…… 」

 本当に大丈夫なのだろうか。


「シャル、俺の両親がどこにいるか知らないか? ここにいるんだろ」

 俺はもうひとつ、気になっていたことを訊いた。

「え? 暁くんのご両親? ここじゃないよ」

 シャルはコンビニ袋の中からカントリーマアムを取り出しながら答えた。

「え? ここじゃないのか」

「伊豆大島の保養所だよ。本当は伊豆大島で合流してから一緒にこっちへ来る手筈だったんだけど、予定が狂っちゃったの」

 シャルはカントリーマアムをくわえながら答えた。

「それじゃ、大島で実験台にされてるのか? 加茂川みたいに」

「そんなことないと思うよ。大島は保養所だけしかないから」

「…… そうなのか」

「あたしも大島行きたかったなあ。あそこ、大きな露天風呂があるんだよ」


「しかし、この建物はどうなってるんだ。宗教施設だと思ったら実験室みたいなのがあるし」

 地下はまるで悪の秘密結社の基地のようだ。

「地下はほとんどシュミット神父の趣味だけどね」

「趣味?」

 趣味で人体実験やっているのか。

「錬金術とか、占星術とか、神秘科学とか…… 」

 中世なら異端審問にかけられているな。


「それから、あの悪魔はなんなんだ。まさか本物じゃないよな」

 中央ホールに鎖でつながれていた悪魔は作り物には見えなかったが、まさか本物だとも思えなかった。

「ああ、山田さん?」

「え?」

「山田さんでしょ。あの悪魔」

 山田さん、て……

「あ、やっぱり本物じゃないんだ。特殊メイクにしてはよくできていたけど」

「本物だよ」

 そうだろう、まさか本物…… 本物だって…… 、え? 本物?

「本物なのか?」

「うん」

 そういう重要なこと、カントリーマアムかじりながらさらっと言うか?

「え…… 」

「昔、神父様が黒魔術で呼び出したらそのまま居座っちゃったんだって」

「居座った、って…… 」

「でも、話の解るいい悪魔だから心配ないんだって」

「いい悪魔? っておい」

 このところ妖魔とか怪物とかさんざん見てきたから今更悪魔と言われても驚かないが、いい悪魔だって?

「そうだよ、だから普段は信者のために悪魔みたいなコスプレしてあそこにいるんだよ」

「え、コスプレ?」

 ますますわけわからん…… 

「本当はもっとイケメンなんだから」

「イケメンの悪魔、ね…… 。山田さん、ていうのか? あの悪魔」

 本当に、ここが何処なんだか判らなくなってきた。

「そうだよ。本当の名前は教えられないからって。仮に、ね」

 仮名か……


 ストレッチャーの上ではまだ加茂川が眠っている。

 後先考えていなかった。

 加茂川を人体実験から救い出したものの、これからどうなるかは全く見当が付かなかった。


「そうだ、そろそろ摩耶ちゃん起こそう」

 シャルが立ち上がり言った。

「起こす?」

 起こせるのか?

「薬はもう切れたみたい。でもまだ精神封鎖が解けてない」

「精神封鎖?」

「テレパスを使った催眠術よ。脳の一部をブロックしてるだけだから簡単に解ける」

 そう言うと、シャルは加茂川の額に手をあてがい目を瞑った。

「…… ん、う…… 」

 しばらくすると、加茂川の息が荒くなり体を動かした。

「加茂川…… 」

 俺はストレッチャーからずり落ちそうになったシーツを押さえた。

「! 、先輩?」

 加茂川が目を覚ました。

「あ」

 加茂川はそのまま起き上がろうとしたが、自分が全裸だと気付き慌ててシーツを引き寄せ体を隠した。

「もうすぐサキちゃんが着る物持ってくるから…… 、あ、これ食べる?」

 シャルはそう言うと手に持ったお菓子の袋を差し出した。

「い、いえ…… 」

 加茂川は恥ずかしそうに身をよじらせながら答えた。

「あの…… 、私、どうしたんですか?」


 俺たちは今までのことをかいつまんで加茂川に話した。

「そう、だったんですか…… 、夕食をいただいた後、急に眠くなって…… 」

 夕食に睡眠薬か何かが入っていたのだろうか。

「…… 」

 加茂川は俺の顔を見て顔を赤らめた



「シャル、おまえ自分が何をしているのか判ってるのか」

 突然、頭上からサキの声がした。

「!」

 見上げると天井の通気口の蓋が開き、サキが顔を覗かせていた。

「サキちゃん」

 シャルがうれしそうな声を上げた。

「サキ…… 、ここまでその中、通ってきたのか…… 」

 俺は通気口から飛び降りてきサキに訊いた。

 シスター服ではなく、グレーのフリースに黒のレギンスを穿いていた。

「地上階は外壁をラペリングで、地下は駐車場から通気抗を伝って」

「ラペリングって…… 」

 サキは右肩にザイルの束を掛け、左肩に大きな布のバッグを掛けていた。


「それよりシャル、これからどうするんだ」

 サキは大きなバッグをシャルに差し出しながら言った。

「うーん、どうしようか」

 シャルは暢気に答えてバッグを受け取った。

「…… 」

「ありがとう、あ、摩耶ちゃんの下着も持ってきてくれたの?」

 シャルはバッグを開けて言った。

「ああ、自分のだけど、たぶんサイズは合うと思う…… 」

 サキは加茂川を見て言った。

「相変わらずスポブラか、もっとかわいいの持ってないの?」

 シャルがバッグの中から下着を取り出した。

「うるさい、それが一番楽なんだ」

 サキは少しむっとして答えた。

「暁くんのもあるよ、はい」

 シャルは紺色のズボンとライトブルーのシャツを取り出した。警備員の制服だった。

「暁くん、ちょっと向こう向いていてね」

 シャルはシスター服を脱ぎだした。

 俺は慌てて背を向けると、修道服を脱ぎ、着替えを始めた。


「摩耶ちゃん、下着はサキちゃんのだけど我慢してね」

 背中越しにシャルの声が聞こえた。

「は、はい…… 」

「摩耶ちゃん、胸、きつくない?」

「あ、大丈夫です」

 その時、ぱしっとハリセンの音がした。

 ハリセン?


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