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エクソシスト

 CHAPTER 02(エクソシスト)


「ただいま」

 俺は築十五年、建売住宅の我が家の玄関を開けた。

 親父ががんばった二階建て4LDK。

 

「? 、外出してるのかな」

 外出しているのなら玄関には鍵がかかっているはずだ。

 いつも返事をしてくれる母親の声がないことに何か違和感を覚えた。


 玄関から二階への階段を上り自分の部屋のドアを開けた。


「! ……」

「あ……」


 部屋の中に白いブラジャーがいた。


 いや、白いスポーツブラに飾り気のないシンプルな、これも白いショーツだけの、つまり最低限の下着だけ身につけた少女が立っていた。


 美少女だった。

 引き締まってスリムなスタイルでボーイッシュなショートカット。


「え? あ、すいません」

 おそらく生涯で初めてだと思う。

 こんな際どい姿の、同年代の女性を間近で目撃したというのに、意外と冷静に俺はドアを閉めた。


 深呼吸して辺りを見回してみた。

 この近所は皆建売住宅で似たような家が並んでいる。小さい頃は隣の家と間違えて上がり込んでしまうことがよくあった。

 壁の色とタペストリー、フローリングの廊下の色、天井の照明。確かに、ここは我が家に違いなかった。


「あ、もう帰って来ちゃったんだ」

 背後で声がした。

 振り返るとそこにも少女が立っていた。下着姿の少女より年上のようで、同級生だったら学級委員長タイプの利発そうな美少女だった。髪はストレートのセミロング、グレーのTシャツの上に白い薄手のカットソーを羽織り、明るいブルーのデニム地のショートパンツを穿いていた。

 ちなみに生足だ。

「あ、あのー」

 俺の脳裏には数多くの質問事項が浮かんできた。しかしあまりにも項目が多すぎて結局、言葉にすることができなかった。

「すまない、急いでたものだから、この部屋使わせてもらった……」

 ドアを開けて先ほどの少女が出てきた。今度は下着姿ではなく丈の短い白いワンピースにふくらはぎの途中まである黒のレギンスを履いていた。

「だめじゃない、隣の部屋はどうしたの?」

 セミロングの少女が言った。

「シャルが荷物広げちゃったから……」

 ショートカットの少女が答えた。

「なーに? どうかしたの?」

 隣の部屋のドアが開き、三人目の女の子が顔を覗かせた。

 髪をツインテールに纏め、淡いピンクのブラウスにえんじ色のチェックのミニスカートを穿いていた。

 他のふたりより若干幼く見えた。

「あ、髪型変えたんだ」

「萌えキャラはやっぱりツインテールっしょ」

 ツインテールが笑った。

 かわいいじゃないか……

「髪はピンクにしてみる?」

 年長の少女が言った。

「今度、ね」

 

「?? 、あのー」


「ごめんなさい、急な話だったんでいきなり押しかけちゃったみたいで」

 一番の年長者らしい少女が言った。

「貴船暁、さんね」

「え、え……」

「私たちは聖モニカ修道会練馬支部から来た対魔族戦闘部隊です」

「あ、あの……」

 ちょっと待て。


 しばらく、頭の中が真っ白になっていた。

 想像の斜め上を行く展開に、思考回路が機能することを拒否していた。

 今日は想定外の出来事が多すぎる。

 聖モニカ修道会?

 対魔族戦闘部隊?

「簡単に言うとエクソシストね。私たち」

 年長者が続けた。

 エクソシストって、あの、悪魔払いのか?

 でも、あれは普通、神父のイメージだろ。

 俺の目の前、普段着の少女じゃイメージが違いすぎる。


 あまりにも突っ込み所が多すぎて、どこから突っ込んだらいいかわからない……


「だからその……」

「練馬って東京だからね。埼玉じゃないよ」

 一番幼い少女が言った。

「おまえは余計なこと言うな」


 すぱーん、と、乾いた音


 ボーイッシュな少女がどこからともなく取り出したハリセンで後頭部を叩いた。


 ハリセン?


「サキちゃんいたいー」

 突っ込み所がまた一つ増えた。 


「あ、自己紹介がまだだったか」

 年長の少女が二人のやりとりを無視して続けた。

「私がチームリーダーのマリア」

 マリアと名乗る少女はボーイッシュな少女を手で示した。

「で、こっちがサキ」

「……」

「……」

 サキは俺に軽く会釈した。互いの間に気まずい空気が流れたのはうっかり着替えを覗いてしまったせいだ。

「それからこっちがシャル」

 マリアは幼い少女を指し示した。

「よろしくね」

 シャルは敬礼のような形に右手を挙げた。

「本当は七人いるはずなんだけど、補充が間に合わなくて今はこの三人」

「補充?」

 何気なく訊いた。

「でも死んだのはふたりだけで、ひとりは療養中、ひとりは結婚引退だから」

 シャルが答えた。

 ふーん、そうなのか…… 

 え?

 今、さらっと言ったな…… ふたりも死んでるのかよ。


「で、君たちはなんでこの家にいるんだ」

 先刻から抱いている根本的な疑問を少女たちに投げかけた。


「あたしたちは君を護るために来たんだよ」

 シャルが答えた。

「そう、あなたを保護するのが私たちの仕事」

 マリアはシャルをちょっと睨んだ。

「保護?」

 弱冠十七歳だが俺は男だ。

 俺を護りに来たという少女達はどう見ても俺とたいして年齢は違わないだろう。

 そんな女の子に何ができるというのだろう。

「あー、今あたしたちのこと、女の子だと思ってバカにしたでしょ」

 シャルが俺の顔を指さしていった。

 ちょっとした表情の変化から心を見透かされた?


「だいたい、護るって、何から護るんだ?」

「悪魔」


 悪魔?


「私たちはエクソシストだって言ったでしょ」

 マリアが微笑む。

 この表情で荒唐無稽な話をうっかり信じそうになる。


 中二病かよ。


「中二病じゃないよ。あたしたちは本当にエクソシストなんだから」

「あなたは特異体質なのよ」

 マリアはシャルを抑えて言った。

 理知的な目で俺を見つめている。

 こんな近くから美少女と目を合わせるという経験のなかった俺は、鼓動が大きく速くなっているのを感じた。


「特異体質?」

「霊的な意味でね」

「霊的?」

 霊が見えるとか、心霊現象を経験したことはない。

「すぐに信じてもらえるとは思わないけど、とにかくあなたは闇の勢力から狙われている」


 もうわけがわからない。


「さっきから気になってたんだが、俺のおふ…… 母はなんでいないんだ」

「ご両親は、既に安全な場所に避難してもらったから」

 避難?

「豪華ホテル並みの保養所だよ。修道会の」

 シャルが言った。

 そうか…… 。


「ご両親からはちゃんとこの家の使用許可もらってるから」

 マリアはA4サイズの書類の束を差し出した。

 英語と日本語と、他に何各国かの言語で書かれていた。

 何かのかの契約書のようだ。

 最後のページには確かに、俺の親父のサインと実印が押してあった。


「で、君たちはいつまでここにいるつもりなんだ?」

 もしかして、俺は一生こいつらに保護されなくちゃならないのか?

「それは…… 。あなたを狙っている闇の正体が判るまでね。…… 、一週間で終わるか、もしかしたら何年もかかるかもしれない」

 マリアが答えた。

「何年も、って……」

「安心して、持久戦になるようだったらこちらも戦略を変えるし、それに、ご両親にもすぐに会えるようになるから」


 …… 


 半ば押し切られるように三人の同居が決まってしまった……


 ただ、唯一気になったのは、この三人の少女が、俺の夢にでてきた三人の天使によく似ているということだった。


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