表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/25

探索

CHAPTER 18(探索)


 カードキー?

 シャルが落としたのか?

 いや、これは俺に使わせるためにわざと落としたに違いない。

 すると、加茂川はこのカードキーが必要な場所にいるってことか。


 そっと部屋を出てみる。

 廊下には誰もいなかった。

「エレベーター、階段の方がいいかな」

 俺の泊まっている階はピラミッドのかなり上部にある。加茂川が捕らわれているとすれば、おそらく下の方だろう。

「クラスA、か」


 俺はカードキーを見た。


「十階建てなのか…… 」

 エレベーターホールの案内板を見た。

 この建物は上部が宿泊所、下部が集会所になっているようだ。

 外から見たこの建物の印象より階数が少ないのは、通常のビルより天井が高いせいだろう。


「上からいくか…… 下から調べるか…… 」

 とりあえずエレベーターに乗ってみた。しかし行き先の階数ボタンを見て考え込んでしまった。

「あれ、これは…… 」

 操作盤の下の方にカードスロットがあるのに気が付いた。

「もしかして…… 」

 俺はカードキーをスロットに差し込んだ。

 ピン! と電子音がして操作盤の一部が開き新しいボタンが三っつ現れた。

 ボタンには『B1』『B2』『B3』と書かれていた。

「バイオハザードかよ」

 ゲームのようだ。

『B1』のボタンを押した。

『クラウズーラが選択されました、地上階はキャンセルされます』

 女声のアナウンスが流れた。

「クラウズーラ?」

 エレベーターは降下していった。


「ここは…… 」

 エレベーターの扉が開いて見えた光景は、近代的な病院のような廊下だった。

「地下に病院?」

 俺は廊下に進み出た。

 特に当てもないが、とりあえず片っ端から調べてみる他はない。

「本当に、加茂川はここにいるのだろうか…… 」


 そんなことを考えながら廊下を進んでいくと、前方からおれと同じような修道服を着た集団がやってきた。

 俺はフードを深く被り直し、少し俯き加減で集団とすれ違った。

「もし、そこの修道士様」

「!」

 すれ違いざまに突然、声をかけられた。

 もうばれたのか?


 俺はその場で立ち尽くした。

「修道士様。あなたにはとても強い力を感じます。さぞや徳の高い修道士様とお見受けいたします」

 集団の先頭にいた男が俺に言った。

 力? 徳?


「修道士様にお願いがあります」

 俺は仕方なくその男に向き直った。三十代くらいだろうか、痩せて貧相な男だった。

「この者たちは先週からこのロッジにて修行を始めた新参者でございます。これからの修行の励みになるように、何かお言葉をかけてやってください」

「…… 」


 困った。

 なんて言えばいいんだ。

 修道士の集団を見ると、年齢も体格もまちまちだったが、皆きらきらした目で俺を見つめている。

「…… 、皆さんに…… 、神のご加護が、ありますように…… 」

 俺は何とかそう言うと、ぎこちなく十字を切った。

「あ、ありがとうございます」

 修道士たちは口々にそう言うと、俺の前にひざまずき、中には感激の涙を流している者もいた。

「私たちも修行を積んで、早くあなたのような徳を身につけたいと…… 」

 いや、だから俺は仏教徒だって…… 修行もしてないし…… 


「総合管理室?」

 一番奥の部屋で鍵のかかったドアを見つけた。

 脇にはエレベーターと同じくカードスロットがあった。

「ここか」

 カードキーを差し込むと、簡単にロックが外れた。

 部屋の中は、SF映画にでてくるような、何かの管制室のようだった。

 正面の壁一面に巨大スクリーンがあり、その周囲にいくつもの小さなモニターが並んでいた。

 巨大スクリーンにはこの建物の平面図だろうか、ショッピングセンターの案内図のような画像が表示されていた。


「ダンジョンのマップみたいだ…… 」

 この建物は必要以上に入り組んだ構造になっていた。

「こっちは監視カメラか」

 小型のモニターには監視カメラの映像らしく、廊下やどこかの部屋の映像が映し出されていた。

「どこかに加茂川がいるのか?」

 モニターを一つずつ見ていったが、やはりどこにも加茂川の姿はなかった。


「これで操作するんだろうけど…… 」

 スクリーン正面にはキーボードと無数のスイッチやダイヤルがあるコンソールがあった。しかし、これをどう操作するのか皆目見当が付かない。

 間違った操作をして警報装置でも鳴り出したら大変だ。

「これは?」

 コンソールの右下に青いスイッチがあり、その右隣に小さな張り紙があった。

『はじめにこれを押す。その後カーソルでメニュー選択』

 女の子の字だ。


 少し迷った後、青いスイッチを押してみた。

 メインスクリーンの表示が切り替わり、メニュー画面が現れた。

「メニューっていっても、俺にはなにがなんだか…… 」

 カーソルキーを操作してメニュー画面をスクロールしてみると、気になる表示を見つけた。


「J2計画 『聖なる血(ホーリーブラッド)』と救世主の創造」

 J2計画?

 サッカーか?

 サッカーと『聖なる血(ホーリーブラッド)』に何の関係があるのだろう?

 俺は『ENTER』キーを押して画面を開いてみた。

「え、俺?」

 画面にはどこで撮られたのだろうか、俺の顔写真と生年月日、身長体重やそのたの詳細が書き込まれていた。

「被験者ナンバー1だって?」

 やはり、俺は何かの実験のために連れてこられたのか。

「これは…… 」

 次のページには俺の両親の写真があった。

「被験者ナンバー2と3だって? …… 親父とお袋もここにいるのか…… 」

 そう言えば、あの三人組が家に来たとき、両親は既に保護したと言ってたな…… 。保護ってこういうことかよ。

「加茂川!」

 次のページには『被験者4』として加茂川のデータがあった。

 J2計画って、何なんだ?

 次のページを表示してみた。

 しかし、ほとんど外国語で全く読むことができなかった。


「錬金術?」

 怪しげな実験器具。

 瓶の中の胎児。

 ホムンクルスか?


「聖書?」

 マリアの受胎告知やイエス・キリストの誕生など、キリスト教徒でない俺でもどこかで見た記憶があるような画像がテキストの所々に入っていた。


「あなたも興味ありますか」

(わっ!!)

 突然後ろから声をかけられた。

 心臓が破裂するかと思った。


 振り向くと白衣を着た男が立っていた。

 眼鏡をかけ、少し白髪の混じった髪、四十代くらいに見えた。

「まさかこの日本に、このような逸材が眠っていたとは、奇跡は本当にあったのですね」

 逸材? 奇跡?

 俺は男に正体がばれないように俯いたまま黙っていた。

「昔からその存在が予言されていたものの、その記録がほとんど残っておらず、伝説の中にしか存在しないのではないかと思われていた男系の『聖なる血(ホーリーブラッド)』が二十一世紀になって見つかったのですから、これが奇跡と言わずして何なのでしょう」

 男は全く不審がらずに話を続けた。


 俺は初めて口を開いた。

「あの、それで計画って…… 」

 俺はこの男からいろいろ聞き出したかったのだが、変な質問をして部外者だと悟られるのは避けたかった。

「ご安心ください、なんと運のいいことに『聖なる血(ホーリーブラッド)』保持者と同時にラックブレイカー、つまり確率操作能力を持った魔族の娘も確保することができました。この魔族の能力を使えば計画の推進スピードは二倍にも三倍にも速くなることは確実です」

 加茂川の能力…… 。

 それにしても計画って何なんだ?

 ここで何をやってるんだ?


「先生、こちらにいらしたのですか」

 白衣を着た別の研究者が入ってきた眼鏡の男よりかなり若く見える。

「どうした」

 眼鏡の研究者は振り返り言った。

「『聖なる血(ホーリーブラッド)』のサンプルが二本足りないんですが、ご存じありませんか」

「足りない?」

「はい、昨日、計画変更で機材を移動した際にどこかに紛れてしまったと思うんですが…… 」

「サンプルナンバーは?」

「Cの203と204です」

 若い男は手元のバインダーを見ながら答えた。

「解った、こちらでも探しておこう」

「すみません助かります」

 男はそう言うとそそくさと部屋を出て行った。


「誰か、いるんですか」

 若い白衣の男と入れ替わるように、青い制服を着た警備員がふたり、慌ただしく入ってきた。

「何かあったのですか」

「ええ、侵入者がいるようなんです」

「!!」

 再び心臓が破裂しそうになった。

「侵入者ですか?」

 白衣の男は怪訝な顔で警備員に訊いた。

「どうもそのようなんです。クラスAのカードキーが一枚紛失してまして、それが使われた形跡があるんです」

「!!」

 それは俺だ…… 。


「しかし、この建物に外部から侵入できるのですか? 何かの間違いではないのですか?」

 白衣の男が訊いた。

「そうだといいんですが…… 。最近、悪魔崇拝者の活動が活発になってまして、全国の支部にも警戒するように通達が出されてるんです」

「そうなんですか。それは大変ですね」

 緊張気味の警備員に対し、白衣の男の言葉にはあまり危機感は感じられなかった。

「あ、それで、今セキュリティーのプログラムを変更しまして、今お持ちのカードキーは三十分以内に所定のカードライターでIDを再入力してもらいたいんです。お手数ですが」

「はい、解りました」

「あ、そちらの修道士様も、三十分以内にお願いします。でないとカードキーが使えなくなってしまいますから」

 警備員は俺に向かって言った。

「あ、はい、解りました」

 そう答えたが、IDなんて知らないぞ。

 つまり、俺のカードは後三十分で使えなくなってしまうのか。

 かなりまずい事態だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ