黒服再び
CHAPTER 11(黒服再び)
尾行られている。
ショッピングモールを出て、通りを渡ったところで何者かに尾行されているのに気づいた。
さりげなく振り返ってみる。
黒っぽい服の男が二人、こちらを伺っていた。
いつかの連中の仲間か。
どうする? シャルたちを呼ぶか?
ポケットの中のスマホを握りしめ考えた。
「どうしたんですか?」
突然黙って険しい表情をしている俺に向かって加茂川が訊ねた。
「いや、ちょっと…… 」
俺が言いかけたとき、黒いワゴン車が俺たちの横に急停車した。
ワゴン車の中から二人の男が飛び出し、俺たちの行く手を塞いだ。
見覚えがある顔だった。
振り向くと後ろから先ほどの男たちが走って追いかけてきた。
俺たちは四人の男たちに囲まれる格好になった。
「加茂川摩耶さん」
男の中の一人が歩み出て言った。
男たちの狙いは俺ではなく加茂川だったのか。
「何の用ですか…… 」
加茂川は俺の背中に隠れるような格好で怯えた声で答えた。
「私たちは…… 」
男が言いかけて突然、地面に崩れ落ちるように倒れた。
「?」
倒れた男の向こう側にサキが立っていた。
サキは男の後ろから踵落としを食らわせたのだ。
「!」
残りの男たちが反応するより早くサキは次の男の脇に飛び、肘で鳩尾を突いた。
「ぐえ」
男はくの字になって倒れた。
「暁くん、こっち」
シャルの声がした。
俺は加茂川の手を引いて声のする方向へ走ろうとした。
加茂川は掴もうとした俺の手を避けるように身を翻した。
「え?」
加茂川の予想外の行動に戸惑ったが、直ぐに体勢を立て直して言った。
「こっちだ、早く」
「は、はい」
加茂川は俺と同時にシャルの背後へ回った。
「あ、おい」
男の一人が加茂川に掴みかかろうとした。
俺は男の右手首を掴んだ。
「う、あつっ!」
男は自分の手首を押さえてうずくまった。
まただ。
どうしたんだろう。そんなに強く掴んだつもりはないのに。
「暁くん、目瞑って」
シャルは何か黒い筒状の物体を地面に放り投げた。
「うわっ」
物体は激しい閃光を放ち、男たちの目を眩ませた。
特殊部隊が使う閃光手榴弾だった。
「逃げて!」
俺と加茂川、シャル、サキの四人は、男たちが怯んでいる隙に全速力で駆け出した。
まだ息が荒かった。
俺たちは2ブロック、距離にして100メートルほど全力で走り、男たちが視界から見えなくなる裏通りまで来た。
シャルと加茂川はまだぜいぜいと息をしているが、サキは全く息が乱れていなかった。
「何なんだあいつらは」
俺が呟いた。
「魔族のオーラを感じた…… 」
シャルが言った。
「魔族の?」
俺が言うと加茂川の顔が強ばった。
「あの人たち、あなたに用があったみたいだけど…… 」
シャルが加茂川を問い詰めるように言った。
「…… 、知りません。本当に…… 」
加茂川は怯えた表情で答えた。
「低級妖魔を操っていたのはあいつらなんだろうか、でもなんで俺じゃなくて加茂川なんだ?」
てっきり、狙われているのは俺だと思っていたのだが……
「これ」
サキが小さなボタンのような物を差し出した。
よく見ると銀色のピンバッジだった。
「何だ?」
受け取ってみると、おそらく純銀製のバッジに飾り文字で『TT』とアルファベットが浮き彫りになっていた。
「あいつらが付けていた」
どうやら格闘した際、男の服に付いていた物をはぎ取ってきたらしい。
「TT、か、何だろう」
「ちょっと見せて」
シャルがバッジを受け取り、陽にかざしたり裏返してみたりした。
「見たことないマークだね。マリアなら何か知ってるかもしれない」
加茂川を見た。
まだショックから立ち直っていないようで、怯えた表情で乱れた息を整えようとしていた。
まったく、とんだデートになってしまった。
「サキちゃん、マリアちゃんは何て?」
マリアに携帯電話で連絡を取っていたサキに、シャルが訊ねた。
「早く帰って来いだって」
携帯電話を切ったサキが答えた。
「まだ近くに連中がいるかもしれないからタクシー使えって」
サキが続けた。
「じゃ、注意して表通りまで行こうか」
シャルが先頭に立って歩きだした。サキはさりげなく後方を警戒しながら俺と加茂川の後ろに付いた。
「その前に、加茂川の部屋にも寄ってくれ」
シャルに言った。
「うん、そのつもり」
シャルは素っ気なく答えた。
「加茂川」俺は加茂川に向き直って言った。「荷物をまとめて俺の家に来るんだ。しばらく俺の家で匿うから」
「え?」
加茂川はきょとんとした表情で俺を見た。
「ちょっと、何を…… 」
シャルは立ち止まり振り返った。
「このまま加茂川を一人にしたら、また奴らが襲ってくるかもしれないだろ。今日、狙われたのは加茂川なんだから」
俺は抗議の表情を浮かべているシャルに言った。
「だめだよ、そんなことできるわけないじゃん」
シャルが反論した。
「できるできないって問題じゃないだろ。それに、俺の家に誰を入れようと俺の勝手だ!」
感情的になっていた。
「あの、私のことは…… 」
俺の剣幕に驚いた表情の加茂川が言った。
「一人でいるより俺たちと一緒の方が安全だろ。どうせこいつらも一緒に住んでるんだし、部屋はまだあるから」




