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ひとつの木の下で

作者: 凪沙 優

 無駄に広い草原にただ一つ立つ木の下で、俺『土岐暦(三十歳)』は考える。

 青い空、白い雲、爽やかな風。

 普通ならブルーシートを敷いて近くの店で弁当を買い、ゆったりピクニックを楽しみたいところなのだが。

 なんせ、周りには一本の木しかないのである。

 だが、俺は知っている。

 自分がこの物語の主人公である事を知っている。

 自分の人生なのだから、そりゃ自分が主人公なのは当たり前であるが、ここはそういう世界ではない。

 なんて言えばいいかな、例えば……。


 「急に突風が吹いて女の子のスカートが捲れないかな……」


 そうすると、木の葉が騒ぎ出し、次の瞬間。

 ブオォォォォォォ!!!っと正面から突風が吹きだしたのである。

 あまりの強さに顔を伏せ、突風に耐えようとした。

 

 「きゃっ!!」


 突然後ろから可愛らしい声がした。

 とっさに振り向き、そこにいたのは、黒髪短髪の女の子。

 中学生ぐらいだろうか。学生服のスカートの裾を抑えて風に耐えている。

 だが、そのバタバタ揺れるスカートの間からチラチラ白い布が顔を出す。

 やがて風が収まり、静かな時間ができた。

 数秒。数分が経っただろうか。

 俺は彼女を見つめ(主に下の方を)、彼女はそんな俺を見つめていた。

 この後の展開は分かる人には分かるだろう。


 「この変態!!!」

 「ひでぶっ!!!」


 殴られた。しかもパーではなくグーで。

 殴られ突っ伏している俺をよそに彼女はどこかへ去ってしまった。

 初めて会った人にグーパンチ決めるとは、最近の若い人ってストイックだな。

 

 さて、この一連の流れで分かっただろう。

 この世界は自分で描く人生なのだと。

 口に出したものが描かれて、終わったらまた白紙に戻る。

 ここはそういう世界なのだ。

 ちなみに彼女に殴られた時に感じた痛みも彼女が去った時に消えている。

 食欲もなければ喉が渇くこともない。


 何故こんな世界に迷い込んだのか。

 それは今これを書いている作者に聞いてくれ。俺は知らん。

 周りから見れば願い事が全て叶う素晴らしい世界なのだが。

 物を出しても、金を出しても、人を出しても、数分後には全て消え去ってしまう。

 ただあるのは一本の木だけ。

 一回木を半分に切ってみたこともあったが、すぐに再生して元通りになった。

 つまり、この木はこの世界において必要なものということだ。


 だが、それが分かったことで何になるのか。

 どういう意図があってこの世界を創ったんだよ作者。

 ちなみに俺には親もいないからこの名前もお前がつけたんだろ?

 だったらもっとマシな名前つけてくれよ。歳ももう三十路じゃねーか。

 いい歳なんだし、もっと若い奴にこの世界与えた方がいいんじゃないのか?

 若い奴の方が発想力豊かだから俺よりいいものが書けるぞ。


 長々と作者へのコメントを残したところで、そろそろ終わりにしようか。

 

 一呼吸おいて、俺は最後にこう言った。


 「この世界はフィクションであり、現実とは一切関係がございません」ってね。

 

 


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