少年の帰還
僕は自分よりも他者の方が大切だ。
そう思うようになったのはいつだろうか。
居場所を与えてくれた人。生き方を教えてくれた人。友人になってくれた人。愛情を持ってくれた人。家族になってくれた人。
彼らのおかげで何もなかった自分はこうして生きていられる。
だからなのだろう。自分よりも、誰かを大切に思うようになったのは。
そして誰かの死を、自分の死よりも恐れるようになったのは。
「ここは・・・」
辺りを見渡すと僕は、ある街の路地裏にいた。
いつからここにいるのかは覚えていない。自分が誰なのか、なんという名前なのかすらわからない。
持ち物も何もなく、あるのは今僕が着ている布切れだけである。
思い出そうとすると、頭が
僕はとりあえず、ここがどこなのかを聞くことにしようと考え、僕は人の声がしたところへ歩いた。そして話している男二人に尋ねようとした。
するとその二人組は僕を見た瞬間、顔を強張らせて去っていった。他の人たちにも聞こうとしたが、皆同じ反応をし何も答えてはくれなかった。
こうしていくうちに、わかったことがある。それは僕は街の人たちに恐れられているということだ。
それが分かったのは、街を歩いていた男が僕を見るなり、怯えながらこう言ったからだ。
「あ、悪魔の子だ・・・!!」
そういった男は、震えながら走り去っていった。
他にも、
「よ、よるな化け物‼︎」
「こ、こっちにくるな‼︎悪魔め‼︎」
そうやって、僕の目の前を通る度、何度も何度も悪魔、化け物と人々は言うのだった。
僕は一体何者なんだろうか、なぜ皆僕の近くに来ないのだろうか。
きっとこの記憶がないのと何か関係があるのだろうか。僕は、知らず知らずのうちにそのように思われるのに慣れていた。
しばらくの間、僕は何も考えずに空を眺めていた。こうしていると、さっきまで言われていたことも、忘れそうで少し気分が楽になった。
「ぐぅ〜ぅ」
すると突然、お腹が大きくなった。お腹が空いてきた。このような扱いをされているから、きっと誰も僕に食べ物を与えていなかったから、何も食べていないんだろう。
僕は立ち上がり、無意識に街の市場の方に足を進めていた。そして、街に売られている食べ物を、物欲しそうに見ていたら、
「こっちを見るな、化け物め‼︎」
と、その店の店主はいい、僕に石をぶつけてきた。
僕はとてもショックだった。お腹が空いているのに何も食べることができないことに。
僕は、この街にいるのが嫌になり、街の外に出ることにした。
しかし、外までの道は僕にはわからなかった。けどこのままこの街にいても誰も僕を助けようとはしてくれないだろう。そう思うとますます街の外に行きたいと思うようになった。
僕は走り出した。ただひたすら走った。街の人の声も何も聞こえない。考えることは一つ。外に出ること。ただそれだけを考えて走った。
気がついた時には、僕は倒れていた。力尽きてしまったんだろう。脚が動かない。立つことができない。
どこまできたか前を見て確認してみたが、まだ街の中だった。それに周りには誰もいない。
このまま一人、何もわからず孤独に死んでしまうのだろうか。
僕は楽になりたいと思い、目を閉じて眠ろうとした。
その時、
「君、大丈夫‼︎」
声が聞こえる。
僕はまた目を開けて、前に顔を向けた。
「よかった。まだ生きてるわね」
顔を向けた先には、一人の女性が立っていた。
年齢は大体30代前半くらいだと思う。
「く、食い物・・・」
無意識に僕は起き上がり、この女性に対して食べ物を求めていた。すると女性は、背負っているカバンからリンゴを出して、
「食べて。急がないと死んじゃうよ」
と言った。
「い、いいの?」
「君みたいな小さな子を死なせるわけには
いかないわ」
そして女性は、そのリンゴを僕に食べさせてくれた。
僕は涙を流しながら食べた。
「おいしい?」
「う、うん。おいしい、よ。す、ごく。うぅっ」
僕は、女性の方を見てリンゴを食べながら、何度も泣いた。
その涙はきっと、食べ物をようやく食べれたことではなく、死なずに済んだことでもなく、それは自分を救おうとしてくれる人物に、出会うことができた喜びからでた涙なのだろう。
少し体力が戻り、気持ちも落ち着いた